息子は最近単語をよく覚える。

「あれは鳥だね」「あ、わんちゃんだ！」というように、図鑑や絵本で見た知識を実物と照らし合わせ、同定ができる。他にもパンダ、コアラ、フェラーリ、ランボルギーニ、ジムニーなどなど…。

もちろん単に名前を覚えるだけでなく、形の名称を覚えている。昆虫などネットの画像を見せるとそれと同じもの、もしくは近いものをガサガサと図鑑から探してきて、その名前を言う。

一方、コミュニケーションはなかなかうまくいかない。子供が早くコミュニケーションとれるように成長しては幸せという感情は父親が特有に強く感じるものらしく、僕もその傾向の御多分には漏れない。

息子は自ら発するコミュニケーションとして、「遊ぼうよ！」「食べようよ！」「違う！」「こわい！」という表現はよく言う。

どれも一方的であり、具体性に欠けるのだ。

これは自分の欲求の精度が低いせいだろう。感情が一方的であり、他者や過去の自分、未来の自分と照らし合わせて考えられない。

好きなものは何となく好きだ、嫌いなものは何となく嫌いだ、と言える状態。大人でも自分で自分の欲求を説明できないことは多いが、子供はそれがもっとできない。

彼は複雑な欲求はあるのしても、それが何なのか、彼の中でイメージしきれないというモヤモヤがあるのかもしれない。

そうしているうちにWIRED.JPこの記事を思い出した。

この記事に出てくるメンタル統合という概念が、まさに当てはまるように思う。

5歳まではまだメンタル統合能力を獲得途中らしい。これは脳の外側前頭前野が未発達なことによる。人間は5歳までに再帰言語の習得により、メンタル統合を獲得する。

メンタル統合ができると、記憶の中の複数の単語をメンタルイメージとして統合し、想像して意味を理解することができる。単に語彙が少ないとも言えるが、語彙のあるコンピュータが語彙から人間の感情を読み取れないのは、メンタル統合がないからだろう。

たとえば、海外の人と会話をする際、単語をあまり覚えてなくても身振り手振りと僅かな語彙でも相手の言わんとしていることがわかることがある。これはまさにメンタル統合だ。言語を共有していなくても、お互いにそこから湧くイメージ、心象は共有されているので、何を言いたいのか推察することができる。この能力は言語の種類がなんであれ、大人の人間に備わっている。

自動車という単語はコンピュータにとっては単なるシグナルに過ぎない。自動車の定義はできるが、その裏にある人間の心理的イメージのニュアンスはつかめない。自動車と聞いて、ドライブなどを連想し、なんとなくレジャーのような楽しいものや、営業車のようなものを想像し、なんとなく仕事を思い出す人もいるだろう。これもまたメンタル統合的なはたらきだ。

1歳、2歳の子供に自動車と言っても、コンピュータのように字面しか理解できないのかもしれない。自動車に乗って楽しい場所に行った記憶があったとしても、自動車という語だけで楽しいというイメージまで膨らまずにはメンタル統合が必要なのだろう。

うちの息子の場合、休日は自動車に乗りたがることが多い。単に乗ることが楽しいということは覚えているのだろう。しかし自動車という語だけでどんなメンタルイメージを抱いているのか、そもそも抱けているのかは不明だ。

これを踏まえてみると、息子の脳はまだ途上感がかなりある。

過去と未来の明確な区別もついていないし、それぞれの単語に持つイメージも漠然としているし、単純なものが多い。

欲求にしても、食べたい、遊びたいというイメージは持っているだろうが、その程度だ。大人ならば「ご飯を食べたい」という欲求が思い浮かべば、何をどこで食べるか？誰と？何時に？というように無限に思考イメージ、すなわち文章が続くようにイメージが湧くが、子供は「今、食べる」というように、ぶつ切りの文章のようなイメージしか持てない。

こうして考えると、人間の言語はただの単語の羅列ではなく、その裏にあるメンタル統合能力で複雑なコミュニケーションがとれるようになっていることに気付かされる。

息子は単語だけならばかなり習得しているし、覚えも早い。しかし重要なのはメンタル統合による、イメージを結びつける力なのだ。これができるようになると息子のコミュニケーション能力が飛躍的にあがるだろう。

こうした目覚ましい脳の処理能力が今まさに息子の脳内で発達しているのだと思うと、人体って本当にすごいと思う。

そして意思疎通ができないときも、本来大人の脳があまりにもすごいことをやりすぎているという見方もできる。まだ3歳の脳の段階ではわからなくて当然と考えることもできる。

イヤイヤ期というのはまさに脳の発達段階なのだろう。僕もそうだが、親はこの発達途上の脳に対して、興味深く、暖かく見守るべきだ。