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新刊『ソース焼きそばの謎 』(ハヤカワ新書)を推薦します!

ハヤカワ新書より、塩崎省吾『ソース焼きそばの謎』が刊行されました。

近代食文化研究会の著書および当noteの記事に関心を寄せる方には、無条件におすすめできる名著です。

冒頭部分の試し読みについては↑のリンク先のハヤカワ公式noteを、また新刊に関する著者インタビューはこちらを御覧ください。

塩崎氏は電子図書『焼きそばの歴史《上》: ソース焼きそば編』を2019年に出版しており、今回の『ソース焼きそばの謎 』はその改訂版、発展版といえます。両書には重複する部分も多いので、既に電子図書をお読みの方はご留意ください。

以前『焼きそばの歴史《上》: ソース焼きそば編』について書いた感想文をベースに、『ソース焼きそばの謎 』について語らさせていただきます。




本書は日本初のソース焼きそばの歴史本であり、今後この分野でこの本を凌駕する著作はおそらくでないであろう、と思わせる強度と密度を持った本です。

ソース焼きそばの歴史に興味がない人も、この本を読む価値は十分にあります。
というのも、この本は「ソース焼きそば」という切り口から、日本の近現代史にスポットを当てた、「ソース焼きそば」にとどまらない奥行きを持った本なので。
その奥行があるがゆえに、約300ページの大著となったのです。

といっても、社会学系の食文化史本にありがちな、「自分の社会史観を押し出したいがために食文化史をつまみ食いする」本ではありません。
あくまで著者の動機は、「ソース焼きそばの歴史を知りたい!」、それだけです。
しかし、それを突き詰めると、日本の近現代史に深くコミットせざるをえなくなるのです。

というのも、私も複数の著書を書いたのでよくわかりますが、食文化史、とくに近代のそれに関する「なぜ?」を追求し始めると、その社会的背景を探らざるをえなくなるからです。

例えば『牛丼の戦前史』を例に取ると、郵便制度の確立、路面電車の整備、大正期のインフレと米騒動、科学史上のある発見、関東大震災などのイベントが、牛丼の普及とその変化に影響を及ぼします。

同様に、ソース焼きそばの歴史研究をつきつめると、様々な歴史的イベントや社会の変化を深堀りせざるをえなくなるのです。
つまるところ以前ゆうきまさみさんが描いていた、この絵そのままですね。

塩崎さんは徹頭徹尾、「焼きそばオタク」の姿勢を貫いているだけです。
しかしそれを深堀りすると、必然的に他分野に首を突っ込まざるをえなくなる。

ソース焼きそばの社会的、歴史的背景というとというと皆さんは

「戦後食糧難の時代に大量の小麦粉がアメリカからきたから、普及したんでしょ?」

と思われるかもしれません。というか私がそう思っていました。
ところが、そのような安直な先入観は大量の資料でことごとく粉砕されてしまいます。
いやびっくり、戦後の小麦粉事情って、実は××だったんですね。

戦前の小麦粉事情にしても、日清日露の両戦争が深く関わってきます。

そしてこの日清日露両戦争の影響に関する詳細な調査が、「なぜ、戦前の浅草でソース焼きそばが生まれたのか?」という謎に対する回答へと、ことごとく弾着していくのです。

読んでいて爽快感があります

他にも、なぜ戦前は東京以外にソース焼きそばが広がらなかったのか、なぜ「とろみのある」ソースが生まれたのか、なぜ地方によって、炒めるときではなく食べる直前に焼きそばにソースをかける「後がけ」方式があるのか、焼きうどんは実は××等々。

様々な疑問に、大量の資料の裏付けで答えていきます。

私の同種の本を書いているので、これだけの資料を収集するためにに、塩崎さんがどれだけの時間を費やしたのか、手にとるようにわかります。

しかも私と違い、全国津々浦々の焼きそばの食べ歩きや、関係者へのヒアリングまでしているのです。

そういう意味では、「全国ソース焼きそば百科辞典」という側面もある本です。

様々な焼きそばの写真を眺めているだけでも、楽しい本です。

これだけ詰め込んでたった1100円というのは、お得としかいいようがありません。

ともかくも、私の著書を読んで面白いと思った方には、無条件でおすすめする次第です。



ちなみに表紙(というか大きな帯)に書かれた疑問、

“なぜ醤油ではなくソースだったのか?”

という疑問については、拙著『お好み焼きの戦前史 第二版』にその答えの詳細が記述されております。

『ソース焼きそばの謎』では物理(紙)書籍版の『お好み焼きの物語』が引用されていますが、『お好み焼きの物語』は『お好み焼きの戦前史』の旧版をベースとしており、内容が古くなっておりますので、これから読む方は電子書籍版をおすすめいたします。