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コンタクトレンズラプソディ

私がコンタクトレンズを使い始めて35年以上たつ。
国内では現在1500万を超える人が装着しているそうだ。
 
小学高学年で視力が一気に落ちて以来、ずっと眼鏡をかけていた。当時の眼鏡は度が強いと、いわゆる「牛乳瓶の底」のようなレンズで重くなり、またレンズが曇りやすいという欠点もあって、運動時の着用には向いていなかった。このため、大学入学と同時にコンタクトレンズに切り替えた。
 
同じく、大学進学後にコンタクトに切り替えた姉はソフトレンズだったが、私はハードレンズにした。今とは違い、ソフトもハードも一定期間繰り返して装着していた。私は大体2年を目安に買い替えていた。まあ、周囲からは「2年で交換する?なんて贅沢なヤツなんだ」と言われたものだが。
 
ソフトもハードも一長一短がある。
 
かつて、ソフトレンズは日々の手入れとして、加熱して消毒を行う面倒な「煮沸消毒」が必要だった。意外と知られていないが、昔から一貫してコンタクトは「高度管理医療機器」で、ソフトコンタクトを認可する際に、当時の厚生省が生理的食塩水で煮沸消毒することを義務付けたのだ。

実際、姉は専用機器を使用して、毎晩ソフトコンタクトを煮沸消毒していた。これはおもにアメーバや雑菌対策だったようだ。その頃報道で、水道水にも生息するアメーバによる失明事故があって、注意喚起がされていた記憶がある。
 
これに対して、ハードは煮沸不要で手入れは簡単だし、サイズが小さい上に材質的にも酸素透過性はソフトより優れているので、長時間の装着が可能だ。
 
しかし、手入れは大変でも、装着感は圧倒的にソフトレンズの方が圧倒的に上。とにかく、ハードレンズは目に異物が入ろうものなら、耐え難い痛みとともに涙が止まらなくなる。
 
大学時代の札幌は、規制前だったので、春先は花粉に加えてスパイクタイヤが削り取ったアスファルトの粉塵が、大気中を黄砂のように舞い、ハードコンタクト利用者にとっては悪夢そのものだった。仕方がないので、この期間だけは眼鏡をかけていた。
 
それにしても、生まれて初めてコンタクトレンズを装着した時の感動は未だに忘れられない。視力が落ちるまでは当たり前だった、眼鏡なしでモノがハッキリクッキリ見える世界。
 
ホント目の前の世界が変わった。何を見てもモザイクがかかっていない。大袈裟ではなく思った――世界はなんて美しいのだろう!
 
普通の運動はもちろん、スキューバダイビングだって違和感なく楽しめた。
確かに、度付きの水中マスクはあるにはある。しかし視力にも個人差がある。私のような強い近視+満月が16個に見える乱視の持ち主だと、度付きにはまったく意味がない。
 
紛失の危険性と隣り合わせだったとはいえ、コンタクトをつけて潜って見た海の中の世界は格別だった。親の介護が始まって続けられなくなるまで100本近く、慶良間や八重山・小笠原の海に潜ったが、幸いにも一度もコンタクトを失くすことなく、サンゴ礁の海を泳ぐクマノミをはじめとした熱帯魚やマンタ・タイマイ、そしてイソマグロの大群を堪能できた。
 
その一方で、日常生活ではコンタクトを幾度となく落とし、失くしたのは1枚や2枚ではすまない。ハードには水分が含まれていないから、ソフトみたいに長時間経っても干からびるという危険性はない。強度的にも踏みつぶされない限り、まず破損しない。だから、昭和時代は落としても見つかれば使えると思われてきた。コンタクトはかなり高価な買い物だったから、落としたら見つけて拾って使うのは当たり前だった。
 
しかし、実際にはどうなのだろう?
 
前世紀、地面に落としたコンタクトを、その場に居合わせた人たちも手分けして探す心温まるシーンを、アニメでもドラマでもよくみかけたものだが、これはあまり感心しないものだったりする。
 
硬くて頑丈といっても、地面に落とした時、そして拾い上げる時、表面には小さなキズが無数につく。特に縁廻りがそうだ。
 
しかも、洗浄液で洗ったとしても、路上や人の手の様々な雑菌は残る。表面の無数のキズと雑菌。これらが組み合わさった状態で目に入れるのは、健康上問題があるだろう。特に雑菌はアメーバと同じで、下手をすれば失明だってありえる。
 
結局、ハードでもソフトでも、長期間コンタクトを使い続けていれば、雑菌増殖・汚損、そして物理的な破損のリスクをともなう。だから、使い捨て、できれば毎日交換する1dayタイプがよいという必然的な答えが導き出される。
 
毎日交換なら手入れは全く不要だし、万が一落として破損しても、新しいレンズと交換すればよい。ダイビング中にマスクが外れて紛失しても、また新しいレンズを装着すれば問題は解決する。つまり、目から外れたり外したりしたら、そのレンズは廃棄。替えがきかない目の健康を考えればこれが一番なのだ。
 
眼科医も使い捨てコンタクトを薦めるはずだ(コンタクトなんか使うなという眼科医もいる)。技術の進歩で、酸素透過性もソフトもハードと同程度になっている。矯正以外に、特にハードを使わなければならない理由はない。
 
さて、使い捨てコンタクトは2weekか1dayかよく意見が分かれるところだ。
結論からいえば、既述の通り1dayということになる。2weekも2週間使い続ける以上リスクはある。表向きのコストが優れていても、最悪失明になる可能性を考えれば、潜在的なコストを加味すれば2weekの方が圧倒的に高いのだ。
 
だから私も1dayにしている。
 
ところで、失明をもたらしかねない雑菌増殖の原因はどこにあるのだろうか?レンズ洗浄の不徹底か?それとも保存洗浄液の経時劣化か?
 
実は意外なことに、保存ケースにある。
レンズは使い捨てでも保存ケースをずっと使い続ける人は多い。レンズではなく保存ケースで雑菌は繁殖してゆくのだ。

「1dayを使用すべき最大の理由」は、レンズそのものではなく、「保存ケースを必要としないこと」にあったのである。
 
(終)

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