欧州スポーツ紀行 #2「チェコ×サッカーW杯 静かな熱狂はスポーツバーに」 加藤弦

こんにちは!チェコ留学中の加藤です。

今回は第2回ということで、昨年12月に行われたサッカーW杯がこちらでどんな扱いをされていたのかをレポートしてみました!


そもそも、サッカーチェコ代表は今までどのような活躍を見せてきたのでしょうか。

チェコ代表


まず、チェコは隣国のスロヴァキアと1918年から1992年のビロード離婚まで「チェコスロヴァキア共和国」として統合されていました。
また、第二次大戦後には社会主義国家となり、実質的にはソビエト連邦の属国の扱いを受けていた過去があります。
そのような状況下において、チェコスロヴァキア代表チームは1934年(イタリア)、1962年(チリ)のFIFAワールドカップではいずれも準優勝に輝いており、これは現在も更新されていない過去最高順位となっています。一方で1993年以降は2006年ドイツ大会を除いてすべて本戦出場を逃しています。チェコ代表は今回のカタール大会も2021年に行われたUEFA European Qualifiers(欧州予選)に出場し、ベルギー、ウェールズなどと同組で2つの出場枠を争ったものの、その上には立てず敗退。
それもあってかワールドカップが近づいても街中や人々との会話の中では特別感は感じられませんでした。


(P1:英プレミアリーグ・チェルシーFCで活躍し、世界最高峰のGKとも名高いペトル・チェフ(Petr Čech)はチェコのプルゼニ(Plzeň)出身。2006年W杯ドイツ大会にもフル出場。写真はロンドンのスタンフォード・ブリッジにて)

W杯を見れる場所は?


しかし、少なからずスポーツバーでは観戦可能だろうということで調べてみると、私の住むオロモウツ市内でいくつかのバーがワールドカップの試合中継を放映していました。
期間中は国営放送のチェコ・テレビ(Česká televise)が持つスポーツチャンネルでほぼすべての試合が中継されています。本戦出場はしていないにもかかわらず、放映権での妥協を感じさせないところからも、欧州でのサッカー人気のすごさを思い知らされました。
チェコ・テレビのWebサイトやアプリからも登録不要で配信を観ることができるため、用事でスポーツバーに行けないという他の国の留学生はこぞってパソコンからWeb配信を観ていました。


(P2:ドイツ戦を放映するチェコ・テレビの画面)

欧州の特権:試合開始時刻
以下が日本代表戦の開始時刻と結果です。
11/23 ドイツ 2-1
開始時刻:ヨーロッパ時間14:00(日本時間22:00)
11/27 コスタリカ 0-1
開始時刻:11:00(19:00)
12/1 スペイン 2-1
開始時刻:20:00(4:00)
12/5 クロアチア 1-1(1-3)
開始時刻:16:00(0:00)

結果については省略しますが、注目していただきたいのが開始時刻。無理のない時間帯ということも欧州圏でサッカーを観戦する特権ともいえるでしょう。

なぜ?賑わうスポーツバー


意外なことに、スポーツバーにはこの4試合を観戦する人たちで比較的混雑していました。日本人の感覚からすると、スポーツバーは自分が応援したいチームの試合を観戦するために行くもの、という認識が一般的だと思いますが、こちらではチェコ代表はおろか、チェコにルーツのある選手が1人も出場していない試合でも熱心に観戦する姿が目立ちます。
それもそのはず、チェコを含めた欧州諸国では合法的なスポーツくじが人気で、スポーツバーでもくじを直接購入することが可能なのです。
チェコ国内最大のスポーツくじ関連企業であるTipsportは、アイスホッケーの国内リーグであるチェコ・エクストラリーガ(Česká hokejová extraliga)のメインスポンサーも受け持っており、その存在感からもスポーツくじ人気がうかがえます。


(P3:Tipsportのパンフレットとメモ用紙)


(P4:あるスポーツバーの店内。常連客はビールを片手に検討中)

毎回の試合前には賭けるチームを決めるためにビールを飲みながら考える常連客が何人もバーに待機しています。叫びながら歓喜したりすることはなく、ただ淡々と賭けている仲間どうしで歓談したり一喜一憂したりするなど、意外にもおとなしい(?)観戦姿勢です。
しかし、今回のような「番狂わせ」が起こるともちろんのこと店内が大きくどよめきます。日本が歴史的勝利を成し遂げた対戦国はいずれもチェコにとっても強豪という扱いになるため、くじの結果はどうであれ、これはすごいと話す人が何人もいました。
スペイン戦の試合終了後には日本勝利にくじを賭けていたおじさんから「よくやった!」と声をかけられる一幕も。世界中のスポーツに賭けることが可能ということもあり、自分とは直接関係のないチームに賭けることで、自然と愛着がわいてくるのがスポーツくじの醍醐味なのかもしれません。


(P6:スペイン戦後半、同時刻開催のドイツ対コスタリカ戦の画面も頻繁に登場)


衝撃のジャイアントキリング、どんな反応?


グループリーグ抽選時には「死の組」とも言われた中、1位通過でベスト16まで勝ち上がってみせたサムライブルー。電子版を含むチェコ国内紙を斜め読みしていくと、こちらでもやはり大きく取り上げられていることが多い印象でした。
「Blesk」のスポーツ部門「isport.cz」電子版では、世界的強豪国相手の2度にわたる快挙を「日本人は(会場の)ハリファ・ナショナル・スタジアムを地球上で最も人気のある会場のひとつにした」と評しています。また「Právo」は「『サムライ』は2つの奇跡だけでは足りない」と見出しを打ち、一方で相手ドイツ・スペインが敗戦した衝撃も大きく報じていました。「DNES」は「錆びた機械(Rezavá mašina)」という強烈な表現でドイツのグループリーグ敗退を伝えています。
留学生どうしの会話でも、ワールドカップ期間中はお互いの国の試合がいつあるかなどを確認しあったり、結果によって一喜一憂したりするなど、いつも以上に「国」というくくりを意識することが多くなり、貴重な経験になりました。(ただ、大会後にスペイン出身の留学生と話す際には気を遣いました…笑)友達の国の試合を追ってみたり、一緒に観戦したりすることも新鮮で楽しかったです。


(P7:「Právo」の日本代表関連記事。12月4日)


(P8:「DNES」最終面のドイツ代表記事。12月3日)

次のワールドカップは2026年のカナダ・メキシコ・アメリカ共催大会。個人的にはチェコ代表の出場を祈願しながら、さらなる熱戦に期待がかかります。【加藤弦】

参考:
https://www.espn.com/soccer/team/results/_/id/450/cze
https://www.fifa.com/tournaments/mens/worldcup/2006germany/teams/43995

https://isport.blesk.cz/clanek/fotbal-reprezentace-ms-fotbal-2022/423859/auf-wiedersehen-stop-od-samuraju-z-nemecka-resi-se-kouc-sudi-to-zvladla.html
https://www.idnes.cz/fotbal/ms-2022/nemecko-zklamani-vyrazeni-ve-skupine.A221202_191313_ms-fotbal-2022_ten


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