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ジュビロ磐田2023年シーズン総括

J1昇格を勝ち取った2023年シーズンのジュビロ磐田(以下磐田)の軌跡を振り返ってみます。

シーズンに向けての状況、体制について

まずは前年(2022年シーズン)について。
3年ぶりに昇格したJリーグディビジョン1での磐田だったが、すっかり高いインテンシティのトレンドになっていたJ1のコンペティション(競争)で、悉く強度面で敗北し、順位は最下位での1年でのJ2降格となってしまった。

※インテンシティ
プレッシングや攻撃のアクション、1対1など全般的にチームとして求められるプレー、戦術的なアクションを試合中連続して行う強度、能力、インテンシティが高い、低いなど用いる。

森保ストラテジー/著者 五百蔵容/より

スプリント(およそ24㎞/h以上で一定の短い時間以上走ること)数は最下位。走れない戦えない。戦術の勝負にはたどり着かないという前シーズン。

また、外国籍選手の二重契約の問題が発生し、FIFAから補強禁止の処分を受けた上で臨む日本サッカー史上前代未聞の新シーズンとなることになってしまう。

22年9月から強化の体制も代わり、フットボール本部の新体制としてOBの藤田俊哉さんがスポーツダイレクターに就任

社長の小野勝さんが成績不振、ガバナンス不足の責任を取り辞任し、元ヤマハラグビーのプレイヤーだった浜浦幸光さんを新社長として年末に社長交代をしてから新シーズンを迎えた。

新監督にはカタールワールドカップを戦った日本代表コーチの横内昭展さんを招聘した。
スポーツダイレクター藤田俊哉氏のコネクションからのリクルート。

選手編成に関しては、前述の通り補強禁止処分を受けたため、22年シーズンに磐田でプレーしていない選手のレンタルバック、下部組織の逸材後藤を飛び級で昇格させるに留まった。
枚数が溢れていたセンターバックのベテラン大井には肩を叩き契約満了で退団。

プレシーズン・開幕戦

クラブからトレーニング初日のミーティングがYouTubeで共有された。

横内監督はスクリーンに、
①J1復帰
②チームの基盤作り
③成長

3点を掲げた。
結果としては横内監督は、この3点をほぼ完璧に遂行することになったのである。見事な仕事でした。

選手とのアプローチに於いては一方通行をを否定、トップダウンと共にボトムアップ型のコミュニケーションも併用していくと名言。

ボトムアップ型は世界的にスペイン源流のモダンサッカーのサイクルが一周した故に、改めて注目されているマネジメントである。
あくまで選手に丸投げするわけではなく、選手が本来持っている能力、創発的にプレーをする上でのパフォーマンスを元にチーム作りをしていく方法。
言い換えれば、選手がやれること、選手がやりたいことからチームを作ること。

チーム始動に伴い磐田では、フィジカルトレーニング中心にチーム作りをスタート。

鹿児島キャンプでは、個人のデュエルへの意識の徹底、「強度を高くプレーする」ことをチーム内で求めていった。
報道によると、ここは通年で変わることなく、常にトレーニングから強度を求めていったそうだ。
これが「チームの基盤作り」の基盤とイコールであり、前シーズンの課題ともイコール。
これが次年への価値の高い遺産になることになることは間違いないと思います。


※デュエル
攻撃、守備における1対1の勝負のこと。ポジション毎に担うタスクが多様化・複雑化し戦術的な重要性が高まっている現代サッカーでは、単なる「個人と個人の勝負」ではく、個々の局面のデュエルにおける優劣が、チーム戦術や全体のプレークオリティに大きな影響を与える。

森保ストラテジー/著者 五百蔵容/より

だがしかし、、、
迎えた2月18日の開幕戦では、岡山に対して一時は0-3というビハインドを背負い、最終スコア2-3の結果以上の完敗の内容でした。

横内監督がカタールワールドカップを戦ってから、磐田への新シーズンへの準備をスタートしたのは明らかで、その準備不足が試合内容に表れていた。

個々の距離感を広く取った守備(ボールを持っていない時=ボール非保持)は個々の強度が上がりきっていない状況では、ただただバラバラに見える惨状で、チーム作りの遅れを感じさせた。

2節からの現実的な修正

迎えた翌節の2節に大きく修正が入る。

ボール非保持(守備時)にシステム4-4-2を基本とすることは開幕戦と変わらないが、アグレッシブに前方向にプレス※をかけていた開幕戦から一転して、自陣でブロック(味方の選手たちが近い距離を保って守ること)を敷き、ハイプレス(高い位置からのプレス)は自重。自陣中央の密度を上げた。

※プレス
敵がボールを持っている時に敵との距離を縮め、プレッシャーをかけたりパスのコースを閉ざしたりすること

プレス | 少年サッカー用語解説 | サカイク (sakaiku.jp)

4-4-2ブロック


非常に現実的な采配で、低い位置でしかボールは奪えないが、まずは失点しないことから再び始めていこうという選択だ。
理想から目標を下げていくのではなく、出来ることからコツコツとやっていく仕事の進め方。

横内監督がコーチとして従事していた森保監督のサンフレッチェ広島の基本的なシーズン始めのインテンシティのピークのコントロールと似ていて、開幕は強気のハイプレスモードで迎えるが、うまく行かなかった時に立ち返るのは4-4-2のミドルブロック。
これを2節でやったことになる。

ボールが低い位置でしか奪い取れないため、低い位置からボールをゴールまで前進させるための選手を最後尾に起用した。
ここも序盤戦の磐田の見逃せないポイントでもあった。

センターバックにはボール扱いに長けた鈴木海音や中川、ディフェンシブハーフにはフィードに長けた遠藤保仁とターンで前を向ける針谷を序盤戦はメインに起用した。

序盤戦のCBとDFの中心選手


相手のファーストプレッシャーと陣形が噛み合ってしまうときは遠藤が列から落ちて最後尾3枚でのビルドアップを許容。
針谷がファーストプレッシャーの後ろで受けてターン。相手の一列目のプレッシャーを突破する。

これでまずは最後尾でのボールの保持を安定させて、守備の時間を減らす。チームとして強度が上がりきってない状況では、各々がピッチに散開したディフェンスは難しいため、まずは狭く小さく低く守る。

ビルドアップ隊にボールプレイヤーを起用したので、強度は低くくなる。
その為、1vs1の要らないボール奪取。すなわちインターセプト(攻撃している相手が仲間にパスを出したとき、パスが渡る前にボールを奪う守備)主体でボールを奪うことに。

チームとしての重心を低く構えたところから攻守のバランスを整えて再出発した。

この引き出しには、横内監督の指導者としての経験値の高さを感じた。
1節と2節で、まるで別の監督がベンチに座っている様な決断を下せるのは、過去の成功体験があるからだ。

中盤戦から終盤戦にかけて


今季の磐田は低い重心から徐々にグラデーションを描くように重心を上げて戦えるようになっていきます。

ハイプレス&カウンタープレス※を実装するレベルまでは至らずも、ミドルプレスは適時、遂行。
序盤の引くしかないローブロックからはやや前重心に変化。

※カウンタープレス
ボールを奪った際に後退して守備ブロック(守備陣形)をくむのではなく、逆にカウンターを仕掛けるように即座にプレッシングに移行してボールを取り返そうとするアクション。

森保ストラテジー/著者 五百蔵容/より


カウンタープレスの強度が上がり、ボールを敵陣でリサイクルする時間帯も増えていきました。

全ての戦術的なプレーを、トレーニングから注力し続けた強度が下支えし、毎試合安定したパフォーマンスを披露することが出来るようになりました。すなわちインテンシティが高くなった。

強度が上がったことで、トランジション(攻守の切り替え)が安定。すると試合展開がクローズドになるのがフットボールの常。
今季の磐田は2点差以上の敗戦も、連敗も一度も無かった。

ボールを失ったとき、選手が相手と入れ替わらない、必ず体を付けていくプレー原則が無意識的に根付き、味方の帰陣の時間を稼ぐことで、守備の陣形を整えることが出来、ディフェンス陣が楽を出来る。
相手の攻撃を遅らせたら潔く撤退する。

横内監督は、競争を煽りながら、丁寧にメンバーセレクトを行い、チーム作りの完成度を積み上げていきます。
試合に出れる評価基準はボールプレイヤーからプレー強度の高いプレーヤーに徐々に変化

7節の針谷負傷離脱後は磐田のスカッド(編成)では強度が高く展開力がある上原がディフェンシブハーフの核に君臨。

8節の水戸戦に大量得点で勝利し、チーム全体で取り組んできた戦略への手応えを得た。

13節、上位対決のヴェルディ戦ではゴールキーパーに三浦、センターバックにベストイレブンを受賞するグラッサが組み込まれ、クリーンシート達成。

16節の藤枝戦からは、ジャーメインがワントップに据えられ、走って良し、収めて良し、得点でもキャリアハイの飛躍のシーズンになった。

同じくトップスコアラーになった松本昌也は27節から不動の右SHに。左右のサイドバックとサイドハーフをこなしたマルチロールは今年も健在。

31節以降は鹿沼がディフェンシブハーフのレギュラーとして出場機会を増やした。

終盤戦のメンバーは以下。

1-4-2-3-1

J1でも最終ラインで奮闘した伊藤槙人がグラッサとセンターバックのタンデムを組む。
J2では攻守で圧倒的な存在感を放った鈴木雄斗と松原后の両サイドバックのつるべは2節から不動。

昨年は出場機会に恵まれなかったドゥドゥが強度の高いプレーヤーとして、先代の元ブラジル代表ドゥンガの様に年間を通してチームメイトの良き模範となった。

攻撃(ボール保持)について

を見ていこう。

ビルドアップ(自陣から敵陣までボールを前進させること)に関しては「ボールを早く前に」というのが最優先。相手が整っていない状況では、早いボールを縦に送る。

相手が整っている状況では、立ち位置によって優位なスペースを使うようなクリーンな前進はほとんど無い。

相手の選手間同士のチェーンが外れたスペースを見つけるまでは、GKも使いながらやり直すが、プレッシングに来られるとと蹴り出す傾向にある。

中央の経路としては、
地上からは内に絞ってくるサイドハーフへのポストプレー。
ハイボールはワントップへの背後への動きに対してのロングボールを送り、収まらなければセカンドボール(どちらのチームが保持しているか明確でないボールをめぐって、1人あるいは複数のプレーヤーが争っている状況)を拾っていくという、比較的根性重視の陣地の取り方をする。

強度、突破力がJ2では抜きん出ている鈴木雄斗、松原后の両サイドバックをなるべく高い位置に押し出す。
尚、このバランスは選手からの意見を取り入れた形であると監督がサポーターズマガジンで明かしている。

サイドハーフはハーフスペース※に絞り、相手の選手間を覗くことと、初期配置の大外のレーンとの二つのレーンを左右に横断しながら立ち位置を調整する。

※ハーフスペース
ピッチを攻撃方向に対して平行に 5 つのレーンに区切ったときの、2 番目 と 4 番目のレーンである。 ハーフスペースはもともとドイツなどの海外で注目されており、 現代ではピッチを攻撃方向に対して平行に 5 レーンに分ける考え方は海外で主流になっている。

maneka_20191216006.pdf (juntendo.ac.jp)



幅を取ることだけは誰かしらが担うことがチームとしての原則になっている。
インサイド(ピッチ中央)は流動性が高く、相手のプレッシャーを後ろで受ける場合は列を降りてフォローアップする。

各選手のボール保持時のプレーエリアの例


ボール保持時にサイドバックの後方が空く陣形を取るが、ここのリスクは許容し、予防的にディフェンシブハーフが余ることと、ボールロスト時のボールホルダーへのカウンタープレスを徹底する。
それでもダメならリカルド・グラッサの広範囲のカバーリングで何とかするというJ2ではズル~い保険体制。

ただし、シーズン後半は研究されサイドバックの裏(特に左)を突かれる失点が増え、リスクが露になったこともあり、サイドバックのハイポジションはやや自重傾向になった。

相手陣地に入ってからの攻撃は主にサイドからゴールに向かう。
興味深いのは、左右でアタックの系統が大きく変わることだ。

右サイドは鈴木雄斗を起点に斜めに楔のパスを打ち込み、上原や山田大記がフリックやレイオフ※で絡みながら、ハーフスペース、所謂ペナルティエリアのポケットを取って、松本昌也や鈴木雄斗がクロスを上げる攻撃が真骨頂。

レイオフ※
とは、縦パスや楔(くさび)のパスを受けた選手が、サポートに来た3人目の選手にワンタッチやツータッチで落としのパスを入れることです。

レイオフとはどんなプレー?メリットや対抗策は?サッカープレー解説! | telesoccer (tele-saka.com

クロスに関してはニア、ファー、セカンドで、なるべく3人飛び込むことが原則。

2021年にJ2優勝したときの得点パターンに近いが、横内流はセンターバックも使いながらバックパスで相手を巧みに引き付けてから、相手のブロック内にパスを打ち込んでいくこと。
「横内ボール」と呼んでも良さそうなアタックだ。

天皇杯でもJ1優勝の神戸にも充分に通用していたほどで、分かっていても崩されてしまう磐田の右サイドアタックはJ2各チームの驚異になっていた。

ここもシーズン後半は研究されて、引き付けられないように静的な構えを取るチームが増えた。

対して左サイドはオープンな展開で強みを発揮した。
ポジティブトランジション(守備から攻撃の切り替え)では松原がリスク度外視でトラッキングしていく。

また、右サイドで相手を引き付け、大きな展開で駆け上がる松原を使うという属人的な性質の攻撃が多くを占めた。
あくまで選手がやれることを戦術化する。

松原のトラッキングに対しては左サイドハーフのドゥドゥが第3のディフェンシブハーフ、インサイドハーフの様なタスクでスペースをカバーするのがセット。

オープン(前を空けて)にしてから松原のクロス、ドゥドゥのミドルシュートというのが、磐田の左サイドから演出される得点のほとんどだ。

クロスに対して人数をかけるのは両サイドとも同様。
昇格を引き寄せた松原のクロスに松本が合わせた最終節のゴールは今季何度も見られた得点だった。

また、後半から切り札として左サイドハーフに古川が投入されるのが、得点を仕留めたい時の主な交代策。
古川が入ると、大外のレーンに古川を張らせてアイソレーション(孤立させてスペースを作り、1対1で攻撃をさせる戦術)を作り、松原がハーフスペースに入る。
この場合、さらにリスクを許容し、インサイドハーフのカバータスク(ドゥドゥタスク)は置かない。

どの時間帯でも、リードしてもビハインドでも、左サイドでは個を押し出すのは変わらなかった。

守備(ボール非保持)について

4-4-2を基本型として陣形を組む。

2TOP守備の一角の主将の山田もしくは金子がプル型のプレス(前線の選手の判断でスイッチを入れるプレス)で陣形をコントロールする。

シーズン中でのゲーム中でも、上手くいかなければ潔く4-4-2で撤退することは立ち返る場所として持ち続けた。

相手がアンカーの居るチームの場合は4-2-3-1ベースで望むゲームも有った。
横内監督は基本の守備組織とスカウティングを掛け合わせたゲームプランニングが非常に確かな監督だ。
JFAから招聘した分析担当テクニカルスタッフの酒井清考さんの貢献も大きいと思われます。

言語化すると複雑になってしまい申し訳ないのですが、守備は個々の距離感を広く取った人基準のマンツーマンディフェンスと南米風の担当エリアを決めるゾーンディフェンスをミックスしたやり方を採用しているとみました。

前述の通り、次第にブロックから前重心になっていった今季の磐田。
守り方は次第に狭く守るよりも広く守るようになったとも言えると思います。

サッカーの守備のセオリーとは逆になるが、戦術化した現代サッカーでは、1人1人がどれだけ広くプレーに影響をもたらせるかが非常に重要だ。

所謂ZOC※が広い選手を起用し、鍛え続けてきた強度、インテンシティを発揮させた。



※ZOC
ZOC(Zone of control)は、直訳すると「支配地域」となる。ボードゲームの世界で使われることが多いZOCという概念は「各ユニットが持つ影響力が及ぶ範囲」を意味している。

ボードゲーム由来の新しい分析法―― ZOCとスペース占有の概念 - footballista | フットボリスタ


ZOC(黄色部分)が大きくなり、選手間が広がり、ラインが上がったイメージ図


終盤に鹿沼がディフェンシブハーフのレギュラーポジションは担ったことは、このZOCの広い選手を起用している最たる例だと思います。
どんな局面でも1つ2つのスプリントで、相手をロックする。

広く攻撃するときにボールを失うと、その瞬間(ネガティブトランジション=攻撃から守備の切り替え)は広く守る必要がある。
そこで鹿沼が高いインテンシティを発揮したことで、ポゼッションを優位に進めた場面は、幾何度も見られた。

特別な守備のメカニズムは無いが、まずは個人個人を鍛え上げるアプローチで、スカッドの限界値まで強度を上げて、戦術よりも強度で下位チームを蹴散らすこともあった。

ただし、個人が強調されるあまり、ディフェンシブハーフに負担がかかり過ぎているとも言える懸念も。

ツートップとサイドハーフの連携、チェーンが薄く、ライン間を覗かれる場面も多く、J2では相手の質に助けられたことも多かった。
ボールを奪ったのに再びボールを失ってしまうチームが多い。

ディフェンシブハーフをどの高さに設定しているかが分からない試合が多く、むしろ強度に頼り過ぎではないか?と感じることもあった。

反面、ツートップとサイドハーフが立ち位置に留まるため、カウンターアタックに出やすいという副産物もあった。
守っているときの陣形で、そのまま攻撃に移行しやすいと言い換えることも出来る。
ジャーメインの背後へのスプリントは各チームの驚異になった。

横内監督のチームマネジメント


横内監督のチームマネジメントは選手達をシーズン最後まで腐られせなかった。

選手をフラットに見て、評価基準や戦術を明確化し、トレーニングでアピールした選手を起用していった。

言葉にすると簡単だが、人の心を持って、誰しもが周りよりも高く評価されてプロに入ってきたプライドを持っているフットボールプレイヤーに対しての仕事であって、簡単ではないのだろう。

年齢を試合に起用するかどうかの判断基準にはしていないが、プレー強度の高さを重視するため、起用される選手は必然的に若返ることになった。
鈴木海音や通称3介の藤原健介、古川陽介、後藤啓介は出場機会を伸ばした。

「上手い」が優先されたり、「戦術が不明瞭」であるために、経験のある選手が起用されるといったことが続いていた磐田の歴史がある為、アレルギーの多い環境だったと思うが、横内監督は難しい仕事をやり遂げた。

例えば、重鎮の遠藤保仁であろうとオリンピアンのリカルド・グラッサであろうとハードワークを怠ればベンチからも外した。

選手が腐らなかった点に於いては藤田俊哉スポーツダイレクターの仕事も欠かせなかった。

藤田SDはトレーニングを観て、毎日横内監督とコミュニケーションを取り、チームの戦術の方向性や微細な選手の序列など、チーム状態を確認し続けたそうだ。

だからこそフットボール本部主導の強化戦略、選手のin-outにミスが無かったのだと思います。

3月に杉本健勇がオファーを貰ったときは選手の意思を確認し、移籍を容認した。
只でさえ補強禁止の上にファビアン・ゴンザレスが5月まで出場停止で大津が負傷離脱中。
フォワード登録の選手はジャーメインと高校生の後藤しかいないという状況での移籍だったが、腐ってしまってはチームに悪い影響を与えるのを嫌ったのであろう。
結果として、このディールはジャーメインの覚醒や後藤啓介や藤川虎太郎の出場機会増に繋がった。

センターバックでも、序盤戦に起用されていた中川創やコンディションが整わなかった山本義道は夏に放出。
今季は4バックのオーガナイズを貫き通し、長らく3バック用の編成を続けていたため、枚数としてセンターバックに余剰人員が発生してしまう恐れがあった。
どんなにトレーニングからアピールしても選手が多すぎては、選手が試合に出られない。
選手のことも、チームのことも考慮した上で強化担当者として適切な対応であったと思います。

主将の山田大記も出場機会の恵まれない選手のサポートに尽力していたそうだ。
オンザピッチもオフザピッチも主将としての役割を全うした。
彼が強化ー監督・スタッフー選手の一体化に於ける大きな存在だったのも、その名の通り記しておきたい。

また、横内監督は多くの選手をリーグ戦で起用したことも挙げておきたい。
結果的に近年、怪我の影響でコンディションが整いきらない高野を除いた全ての選手をリーグ戦で起用したことになった。

ルヴァンカップを含めた過密日程もポジティブに捉え、積極的に選手を起用していった。
J1のチーム相手に強度で抵抗出来た選手はリーグ戦に抜擢する循環。
選手を信頼してミッドウィークには大胆にターンオーバーを敢行した。
6月下旬からの7連戦は4勝2引き分け1敗。敗戦はヴィッセル神戸戦のみだった。

選手を複数のポジションで起用するのも、横内流だ。
ジャーメインがキャリアとして初めてワントップとしてエース級の働きを見せ、ディフェンシブハーフが本職のドゥドゥはサイドで起用し、彼も9得点とキャリアハイの結果を残した。

この他にも鹿沼はセンターバック、吉長は左右のサイドバックでプレーするなど選手としての幅を広げた。
鈴木雄斗はシーズンを通してサイドバックとしてプレーしたのは初めてだった。

明確に伸びた選手が多い。
「磐田で成長出来た」と選手に思って貰えれば、クラブに愛着を持ってもらえるはずだ。

一年間、横内監督が同じオーガナイズを貫き通したことで、選手の評価、査定もし易くなったはずで、ようやく選手補強が可能になる今後のオフが楽しみでならない。

2024年シーズンに向けて

明るい話題の多かった2023年シーズンだが、J1で戦える2024年シーズンは苦しい戦いが予想されます。

振り返ってきたピッチ面では、まずはビルドアップの整備が進んでいないのが懸念点。
いざJ1のコンペティションで戦ってみるとボールが前に進まないという恐れはある。

藤田SDが語る「ボールを自分たちで自由自在に操りながら縦に速く、そして阿吽の呼吸でゴールを量産するというのがフットボールのプラン」というのは、完成度としてはまだまだ低い。

鍛え上げてきた強度面でも、今季は町田や清水、後半戦の千葉には上回られた。
昇格を果たした東京ヴェルディと同格というレベルだ。
J1はさらに高強度、ハイインテンシティのリーグになっているだろう。
2022年の様に戦術面の土俵で戦えないという恐れはある。
どれだけ抵抗出来るか。

経営面に於いても、売上は22年度ベースで32億前半だ。
ジュビロ磐田は2026年J1優勝を掲げている(掲げてしまっている…。)
優勝争いをしているチームは60~80億という売上で競いあっている。
どうやって、そこまで売上を上げていくのか?
ホームタウン広域化を活かすのか?はたまたアジア、世界戦略?
売上がなければ質の高い選手を保有することは出来ない。
非スポーツ面もコロナ禍の明けたシーズンの動きに注目したい。

新シーズンに向けてネガティブなことを並べてきたが、
今回の記事で振り返ってきた様に、
磐田は2023シーズンに新しい戦略での第一歩目を成功させた。
・ようやく世界の、Jリーグのトレンドをキャッチアップした。
・インテンシティをようやく取り戻した。
・黄金時代との良い距離感をようやく見つけることが出来た。

私的に磐田を見てきた、この25年を振り返ってみても、これだけポジティブなシーズンもなかなか無い程に充実していたと思います。

それは、クラブ、選手、スタッフ、サポーター、スポンサーが同じ方向に向かって戦えたことに他ならないと思います。

自分たちの現在地を、立ち位置を理解し、上記のステークホルダーが目線を近いところで揃えれたからだと思っています。

あれだけの苦しいシーズンの後に、きちんと反省し、立ち直ってみせた。
素晴らしいクラブだと思いますし、応援させて頂いていることを誇りに思います。誠にありがとうございます。
クラブに御礼申し上げますし、サポーターの皆様もおめでとうございます!
J1昇格、本当に幸せですね。

2024年シーズンが楽しみでなりません。

今回はこの辺で筆をおきます。

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