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短編小説、ショートショート

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短編小説、ショートショートはこちらにまとめています。創作作品はタイトルに『二重カギカッコ』をつけています。
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#カフェ

『靴屋』商店街シリーズ番外編2

クリスマスのイルミネーションに包まれた華やかな駅前広場に、ベンチはない。 今日おろしたての真っ白なコートが汚れてしまう気がして、生垣の縁石に腰をかけるのはためらわれた。 もう来るはずの彼を待って、私はクリスマスツリーの下に立ち続けた。 付き合い始めて1年以上になるのに、毎回こうも繰り返し待たされると、私は大切にされていないんじゃないかという思いがよぎる。 私より後に来た人が、私より先に待ち人と出会って笑顔で去っていく。 背の高い彼の頭が人混みに現れるのを見逃すまいと、駅の方

『看板』商店街シリーズ第2話

記憶に残る幼い頃にはすでに周囲から愛想がないって言われていた。 面白くもないのに笑えない性質の私にとって、周りに合わせて笑えだなんてずいぶんと理不尽な要求だったし、笑わないせいで理不尽な待遇、つまりあからさまに無視されたりいじめられたりしたけど、自分でもどうしようもない。 世間一般の基準から外れるとこういう扱いを受けるんだ。そう覚えて大人になった。 特に夢も希望もなく、淡々と暮らせたら十分だった。 就職活動も器用にこなせないまま、高校卒業後のアテもなくぼんやりしていたら、勝

『一日三善』

自分で言うのもなんだが、僕は冴えない。 家賃3万円の小さなアパートに一人暮らし。 申し訳程度に付いた小さなキッチンで料理をすることもなく、食事は牛丼かコンビニが定番。 運動不足で体型は完全に重力に負けている。 やりがいも充実もない仕事を日々こなし、成績も大したことはない。 当然彼女なんていないし、過去に好意を持った女性から相手にされなかった経験もあって恋愛に前向きにもなれない。 おっさんと呼ばれる年齢になった。 人から見れば冴えないつまらない毎日。 ただ一つだけ、心がけて