私はパンツ ~鋼鉄の死神達の終わりなき巡礼~

 漆黒だった視界へ稲光に似た眩しさを感じた直後、私は完全なる虚無の眠りから目覚めた。同時に、自分が自由落下していることを加速度センサーによって把握する。全身に取り付けられた25のカメラが様々な映像情報を脳へと送り込んでくる。上方の青空、たった今私をパージした輸送機。急速に接近する下方に広がるジャングル。そこからまばらに立ち上る黒い煙。

 それらを把握するのに1秒程度、次の瞬間パラシュートが開き、ボディが激しく揺さぶられる。スラスターが爆発するように点火し、着陸地点を修正する。そして、ジャングルの木々を無造作にへし折りながら、私は地面に叩きつけられるのとさほど変わりない速度で降下した。


 目覚め、降り立てばそこはいつも決まって戦場だ。人々の悲鳴。飛び交う銃弾。燃え上がる村。折り重なった死人の山。各種センサーが状況を解析するのと同時に、唯一の生体部品である脳へ疑似シナプスを介して作戦情報が転送されてくる。作戦内容はいつも同じ、作戦区域内の敵戦力の殲滅。はいはい。わかりましたよ。

 私はガトリング砲を掃射し、壁すら満足にない粗末な家屋を薙ぎ払う。赤外線カメラの映像にボロ布の向こうで倒れる数人の人影を確認する。

 視界に私と同型の仲間がAKを構えた少年兵を無造作に蹴り飛ばすのが見えた。巨大な鋼鉄の足で蹴り飛ばされた少年兵の小さな体は真っ二つに裂け、内臓をまき散らしながらそれぞれ思い思いの方向へ宙を舞った。生身の肉体を持つ彼らには血を流し、内臓をまき散らす権利がある。


 身長8メートルほどの鉄製の巨人を腹部で真っ二つにした下半身のほう。仲間の(つまりは私も同じなのだが)姿をイメージしてもらうにはそう例えるのが一番わかりやすいだろう。巨人の股間に相当する部分には、まるで卑猥なジョークのように巨大なガトリング砲が備え付けられている。それが、「パンツ」と呼ばれる無人兵器(ドローン)だ。戦車(パンツァー)よりも小型の兵器であることと、人間の下半身の形をしていることから開発段階で付けられた俗称だったが、いつの間にか正式名称として定着してしまったらしい。

 戦死者を出すことを恐れたアメリカ政府が作りだした血を流さない究極の歩兵、それが私達「パンツ」だ。その人と同等の歩行・姿勢制御とフレンドリー・ファイア防止のため、中枢制御には生体ユニット、つまりは人間の脳が補助的に用いられている。そのほとんどは私のような死刑囚の脳が用いられているが、自らこうなることを志願した酔狂な軍人もいたらしい。脳はあくまでコンピュータの補助であり、コンピュータには未だ判断の難しい、人種や容貌を認識する機能であったり、立って歩く機能に関して入力に応じた変数を返すブラックボックスとして機能しているだけで、こうして私が作戦中に考えたことが「パンツ」自身の行動に影響を与えるわけではない。そもそも、「パンツ」を開発した米国政府は私達に意識が残ったままだということを知っているのだろうか?


つづく(つづかない)


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