インタラクティブなミュージックって何だろう

昨今のゲーム開発によく使われる「インタラクティブミュージック」と呼ばれる技術がある。プレイヤーの行動に応じて動的に音楽が変化するというもので、例えばフィールド間の移動時に滑らかに音楽が切り替わったり、バトルの展開に応じて音楽が自然に(ぶつ切りにならずに)盛り上がったりする。
 今はインタラクティブミュージックが用語として浸透したこともあり、この手の工夫が当たり前に見られるようになった。BGMが雑に切り替わったりするのを避けることで、より高品質なサウンドだと印象付けやすくなる。

ただ、僕は個人的にこの表現に小さな違和感を持ち続けてきた。インタラクティブミュージックと言う割にそれ程インタラクティブではないというか、これを追求することがどこまでゲームならではの音楽表現を深めているのだろうかと。
 インタラクティブを辞書で引いてみると「双方向的」とか「相互に作用するさま」などと書かれている。ゲームとはまさにインタラクティブな娯楽であり、プレイヤーがゲームと対話するように様々な入力とその反応を楽しむコンテンツではないかと思う。
 現在のインタラクティブミュージックはむしろ、プレイヤーの状況に合わせて音楽がいつの間にか追従するようなものが多い。簡単には気づかないほど自然に音楽が変化したり、あくまでBGMは背景というスタンスがしばしば見て取れる。

ユーザーの入力にコンピュータが反応したのだからインタラクティブだ、という定義も別に間違ってはいない。BGMの基本的な役割を考えればこういった進化も妥当ではある。
 しかし状況に合わせて自然に流れる音楽は、どちらかというと映画音楽などの延長に当たる。ゲームならではの対話的な音楽表現を追求する作品は意外と少なく、インタラクティブミュージックという用語が普及してからもそれほど掘り下げられていない印象がある。

試しに、プレイヤー自ら意識的に介入できるような音楽を「操作音楽」と便宜的に名付けてみよう。操作音楽はインタラクティブミュージックの一部であり、楽器を鳴らしたり指揮したりするようにプレイヤーの行動がダイレクトに音楽を左右するもの、と定義する。
 プレイヤーが音楽を変化させていることを明確に自覚でき、それをもとにさらに変化させたくなるような仕掛け、と言ってもいい。このように定義を絞ることで、現在まだ十分に掘り下げられていない技術の領域を可視化できるかもしれない。
 ここからは、僕が個人的に試作した操作音楽の事例を2つ紹介する。音楽を自分で動かす面白さや、そこから生まれる独自性・将来性の高さをもっと多くの人に感じ取ってほしいと考え本記事を執筆した。

1つ目は3D空間で弾幕を躱すゲーム。小刻みなスローを挟んで、距離感の掴みにくい3D弾幕をしっかり回避できるように...というのがこの試作品の意図だ。
 どうせならスロー中は音もスローっぽくしてみようということで、思いつきでBGMの速度を落としてみたら独特の音楽表現が生まれた。集中力が研ぎ澄まされ、音の聞こえ方が鈍くなったかのような感触を得られるのがこの演出の面白いところ。

プレイヤーの行動にぴったり追従する操作音楽は音が極端に変化しやすく、一見すると散らかったBGMに聞こえるかもしれない。手に吸い付くようなタイトな操作音楽の魅力は、動画だとやや伝わりにくいのが難点ではある。
 音が主役の試作品ではないので、今回は単に再生速度を変える簡単な処理しか実装していないが、もしこれを製品化するならもっと音楽的に凝った加工を施す手もある。様々な発展性を感じる操作音楽ではないかと思う。

もう1つは音楽とSTGを融合させたゲームの試作。シューティングのシンプルな操作は癖がなく、リズムに乗るのに都合がいい。
 単調になりがちなSTGのショット操作が音楽の力で強化され、ただ触っているだけでも楽しいゲームになっている。プレイヤーが自然とリズムに従うゲームシステムにすることで、いつの間にかプレイングと音楽が融合しているのが特徴だ。

このようにゲーム性の土台からリズムと一体化したインタラクティブミュージックは珍しい。プレイヤーがゲームを攻略しながら音を奏でる、操作音楽の最たる例と言えるだろう。
 リズムとはある種の縛りなので、自由な操作性が求められるゲームの世界に組み込むのは実は難易度が高い。だからこそ音楽との妥協点を的確に見出すことができれば、今までにない斬新な遊びが生まれるはずだ。

操作音楽はどこまで広がるか

先に述べたように、現代のインタラクティブミュージックは「プレイヤーの状況に自然と追従する音楽」という認識が主流だと感じる。BGMとしてはその方が汎用的で、色々なゲームに合わせやすいから必然的にそうなるのだろう。
 今回提案した操作音楽のような仕組みはほとんどの場合、音楽の主張が激しくなり用途が限られてくる。こういったゲームが今後頻繁に出てくるとは考えにくく、広義なインタラクティブミュージックと比べれば立ち位置は狭い。

ただ、インタラクティブ性を高めることがゲームの強みを伸ばすのは間違いない。音楽は基本的に固定的な表現なので、それをゲームに合わせて細かく動かせば斬新な音楽表現にも繋がる可能性がある。難しい技術だからこそ見えない価値がまだまだ眠っている訳だ。
 余談だが、インタラクティブミュージックは長くて言いづらいのが地味に難点。操作音楽のように短くて読みやすい別の言葉があれば、使える状況は限定的だが便利なのではと思う。
 既に定着しているインタラクティブミュージックの概念を書き換えたい訳ではない。一歩踏み込んだ狭い概念を作ることで、ゲームならではの音楽表現を掘り下げるチャンスを増やせたら、と考えている。

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