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感覚的なゲームと論理的なゲーム...プシュプに2つのルールがある理由

個人ゲーム開発者の形(かたち)と申します。最近、iOS向けパズルゲーム「プシュプ」をApp Storeで配信開始しました。
プシュプの基本的な紹介は前回の記事で行ったので、今回はこのゲームの大きな特徴である2つのルールについて語っていきます。

このツイートはスレッド形式になっていて、FEELとTHINKの実際のプレイ動画をつなげてあります。動画で見るのが一番わかりやすいのでぜひ。

ざっくり文章で説明すると、FEELでは連鎖中でもブロックをどんどん置いていくことができます。動的に連鎖を調節し、柔軟にフィールドを書き換えていきます。
対してTHINKでは連鎖中にブロックを追加することはできません。ゲームスピードが遅いぶん、相手とのやり取りがよく見えるようになっています。

土台となるシステムは同じながら、2つのルールは全く異なるゲーム性を持っています。やり込めばやり込むほど、両者がそれぞれ独自の方向に尖っていることに気づくはずです。
なぜ1つのゲームを2つのルールに分けることになったのか。それは、最初に決めたコンセプトを守りつつ、偶然生まれた価値を無駄にしないためでした。

速さを追求する楽しさ 薄れていく駆け引き

多くの落ち物パズルでは、ブロックが消えている間は一旦プレイヤーの操作は止められます。つまり、

1. プレイヤーがブロックを置いていく
2. 条件を満たすとブロックが消え始め、操作不能に
3. 消えたブロックの上にあったブロックが落下する
4. フィールドが落ち着くと、再び操作可能に

この流れを繰り返すことでゲームは進行します。もちろんゲームによってまちまちではあるのですが、有名どころの落ち物パズルはだいたいこのパターンに沿っているかと思います。プシュプも最初は例外ではありませんでした。

ただ、開発中のゲームというのは基本的にいろんな部分が未完成です。初期のプシュプではそもそも「ブロックが消えている間、操作を止める」という処理が作られていませんでした。だから連鎖中でもブロックが置けてしまう。作っている本人からすればバグのようなものです。
しかし、連鎖中にブロックが置けると何となく「面白い」と感じることに気づきます。消えていくブロックの周囲に新しいブロックを追加していくと、そのまま連鎖を伸ばす(連鎖数を増やす)こともできてしまう。まるで連鎖が生き物になったようでした。

これに拍車をかけたのが、ブロックを置くスピードの調整でした。フィールドに落ちるまでの時間を極端に短くすると、連打するようにして大量のブロックを配置することが可能になるのです。
連鎖が終わる前に次々とブロックを追加することで、途切れさせずにどこまでも伸ばしていくことすらできる。操作に慣らすうちにどんどん自分の入力が速くなり、消せるブロックの量が増えていくのは爽快でした。

これはゲーム開発においてはよくある現象です。開発中に起きたバグが思ったより愉快だったのでそのまま採用したり、パラメータをめちゃくちゃにいじっていたら予想外の挙動につながったり。
コンピュータは自動的に動くものですから、人が想定していない部分で急に訳のわからない魅力を振りまくことがあるものです。

しかしながら、この偶然生まれた価値をどう扱うべきか、当時の私は悩んでいました。この仕様は明らかにゲームのコンセプトと矛盾していたからです。
本作が目指していたのは「駆け引きが奥深い対戦パズル」です。前回の記事で述べた通り、敵陣に対してある程度狙った箇所を攻撃できることが重要な特徴でした。この仕組みを通して相手と対話するようなゲームにしたいと考えていたのです。

連鎖中でもブロックを追加できるとなると、フィールドをかなり柔軟にコントロールすることができます。相手の攻撃によってこちらの連鎖が崩れても、ブロックを足し続ければすぐに調整が可能で、さほど影響が出ないようになってしまったのです。
相手の陣地を崩しにかかっても、即座に挽回されてしまうならば意味がありません。敵陣に干渉する手段が減っていくのを感じました。

ゲームスピードの高速化も明らかにコンセプトを壊していました。大量にブロックを消すことで送り合う妨害ブロックの量が一気に多くなり、連鎖が勢いよく破壊されていきます。緻密に計算して戦うという感じではありませんでした。
敵も自分も速くなっている訳ですから、崩れた連鎖を手早く補修してやることは可能です。いかに手際よく連鎖を作り直すか、というやりがいもある。
しかしお互いにそれを高速にこなすようになると、相手の陣地を見ている暇はほとんどありません。駆け引きをしているという感覚は薄く、双方にひたすら力づくで押し合うようなゲーム性になっていました。

コンセプトからは離れていくのに、これはこれで面白い。このままゲームの軸がずれていくのを許容していいのかどうか?どうにもしっくり来ませんでした。
ゲームデザインに悩んでいる最中、頭の中にとある考えが浮かびます。

感覚的なゲームと論理的なゲーム

これは昔から漠然と想定していたことなのですが、「ゲームの性質は大まかに2つに分けられる」と私は考えています。1つは感覚的なもの、もう1つは論理的なものです。

例えば、アクションゲームは基本的にリアルタイムでゲームが進行し、ちょっとした操作の違いで毎回展開が変わっていきます。一歩一歩精密にキャラクターを制御することは難しく、直感的に、あるいは臨機応変に判断していくことが求められます。
比較的パターンが作りづらく、手早い思考で状況を俯瞰するようなゲームを「感覚的である」と表現しています。

対して、ターン制で進むシミュレーションゲームやパズルゲームなどでは、決まった操作をくり返すことは容易と言えます。数手先をおおむね正確に読むことができ、ゲーム状況の遷移を緻密にコントロールすることが可能です。
一定の型が出来上がりやすく、じっくり一点ずつ凝視していくようなゲームを「論理的である」と解釈しています。

世の中のゲームが単純に2つに分類できる、ということではありません。「リアルタイムに進むゲームはしばしば感覚的」「マス目で管理されたゲームは論理的になりやすい」といった具合に、大まかにゲームの要素を分類するための理論です。
そして自分の経験則から言えるのは、感覚的なものと論理的なものは安易に混ぜてはいけないということです。

わかりやすい例として、将棋をリアルタイムに遊ぶことを想像してみてください。ターンにとらわれることなく、いつでも好きなだけ駒を動かせると仮定します。
相手がどんどん駒を進めてくるとしたら、じっくりと次の一手を練っていても意味がありません。とにかく速く、少しでも多くの駒を取りに行った方が有利になるでしょう。駆け引きは失われ、将棋本来の奥深さは損なわれていきます。

ゲームが論理的であるというのは、言うなれば制約が多いということです。将棋の場合、1ターンに1つの駒しか動かせないとか、マス目に沿って動かさなければいけないとか、そういった部分が該当します。
限られた選択肢しかないからこそ、対戦相手の行動を先読みすることが可能になる。ここが対戦系のゲームで駆け引きを担保する要です。

将棋ほどかっちりしたものではないですが、プシュプが当初目指していた方向性も論理的なものでした。イメージしていたゲームスピードはやや遅めで、相手の陣地も見ながら対応していくようなシステムにしたかったのです。
連鎖中でもブロックを置けるようにしたり、ブロックを置くスピードを上げるということは、感覚的な仕様に切り替えていくことを意味します。駆け引きを失う代わりに、アクションゲームのような爽快感が徐々に芽生えていました。

アイディアを取捨選択し、絞り込まなければシステムは完成しません。しかし、感覚と論理という定義でもって自分のゲームを整理していくうちに、落とし込む先は一点でなくてもいいと直感したのです。

分離し、特化する

上記の理論に従って2つのルールを作ることにしました。それぞれ「FEEL」「THINK」と名付け、まずは個々の土台や方向性を明確に定めます。

FEELはスピード重視のルールで、何より速さを極めることを是としました。消した連鎖数に応じてブロックを置くスピードが上昇し、さらに連鎖を伸ばしやすくなります。
少しでも効率よく加速し、相手より多くのブロックを消して、物量でねじ伏せる。直感的な連鎖センスと迷いの無さが勝負を分けます。

THINKは駆け引き重視のルールで、相手とのやりとりを大事にしました。先手で押し切るか後手で押し返すか、あるいは小突いて妨害するか、様々な判断が入り乱れます。
連鎖中にブロックを追加できず、ゲームスピードが遅めになっているからこそ、1つ1つの決断が重みを持つのです。

2つに分けることでそれぞれのルールをさらに特化させることが可能になったのも大きな収穫でした。相反する仕様に惑わされることなく、個々のルールのコンセプトだけに従って掘り下げられるようになったのです。

例えばFEELでは「セカンド」という仕組みを導入しました。1つの連鎖が消えていく間に2つ目の連鎖を起動することで、送り込む妨害ブロックの量が増えるというシステムです。

1つの連鎖を維持するだけだと、プレイヤーのスピードが増すに連れてフィールドにブロックが余り出します。そのブロックを用いた追加の攻撃を可能にしたのがセカンドです。
さらに大量のブロックを消す意味が生まれ、より強力な攻撃を仕掛けることができるようになりました。プレイヤーの速度の上昇にどこまでもゲームが応えられるようになったのです。

対してTHINKでは、条件を満たすと相手陣地の連鎖を破壊できるようにしました。
妨害ブロックを送り込んで相手のブロックが4つ以上つながるようにずらしてやると、強制的に連鎖を発動させることができます。勝手に消された連鎖はパワー(フィールドを押し込む力)が大幅にダウンします。

このゲームの土台である「狙った箇所を攻撃できる」システムを生かし、相手陣地の弱点を突くことが可能になりました。それをかわすために防御的な連鎖を組むなど、独特の戦術も生まれています。
敵に干渉する手段が増えたことで自陣と敵陣の関係性は密なものになり、対戦相手との駆け引きがより豊かになったのです。

余談になりますが......
ここで述べている内容は割と上級者向けのものです。FEELでセカンドを使いこなすのはかなり慣れが必要ですし、THINKで相手陣地を見ながら対応していくのは高度なテクニックと言えます。
もしこの記事を見てプシュプに興味を持たれた方がいましたら、まずはルールの違いは気にせずに、ゆっくりと連鎖を組んで遊んでいただければと思います。触っていくうちに自然とFEELとTHINKの差が分かるように作ってありますので。

2つのルールが教えてくれたこと

プシュプの開発を通して、ものづくりのコツを同時に2つ得ることができました。「偶然を楽しむ」ことと「コンセプトを貫く」ことは、どちらも優れた価値を生み出すために欠かせないと考えています。

最初に想定していたアイディアがそのまま形になることはまずありません。作っていくうちに予想外の壁にぶつかるだけでなく、魅力的なトラブルが転がっているものです。
その中から筋のいい偶然を見逃さないことが肝要です。コンセプトと関係ないからとすぐに投げ捨ててしまえば、想定内のものづくりしかできなくなります。

かといって思いつきに振り回されていると、簡単に当初の方向性を見失います。長く付き合っているものには飽きがちですが、新しく出会ったものは新鮮に見えるからです。
計画と偶然は両立できる。融合させるのか分離させるのか、柔軟な思考が求められます。最後までどちらも捨てなかった経験は私の糧となりました。


今までのゲーム開発から得た知見をnoteでまとめていきたいと思っています。
プシュプのゲームデザインが、誰かのものづくりにほんの少し影響を与えることを期待して。

記事の価値を金額で評価していただけたら、と考えています。有料記事は価格を少し低めに設定してありますので、もし気に入った記事があればサポートをお願いします!