[ゲーム企画]戦ったり戦わなかったりするケモノバトルロイヤル(架空レビュー)

※新しいソフトのアイディアをnoteに書き出し、文章の上でゲームデザインを考えていく試みです。「とあるプレイヤーが書いた架空のレビュー」という形式でゲームを想像し、なるべく具体的に内容を練っていきます。
 あくまで架空のゲームなので、細かい仕様まで詰めている訳ではない点にご注意ください。


今日から僕はケモノになるんだ

ストアを漁っていたら何やら奇妙なゲームを発見した。動物になりきってナワバリを広げていくバトルロイヤル?だそうなのだが...なんだこの奇妙なスクリーンショットは。
 犬や猫などをモチーフにした可愛らしい動物キャラクター達が、なぜか二足歩行で物騒な銃を構えている。かと思いきや、別の画像では獣らしい仕草でじゃれ合っている姿も。平和なのか殺伐としているのか全く分からん。
 銃撃戦の雰囲気は物々しいし、オンライン対戦ゲームなのでのんびり楽しめる感じでもないが...しかし妙に愛嬌のある動物たちを見ていると、もしかして癒されるゲームなのかとちょっと期待してしまう。試しにダウンロードしてみるか。

基本的な流れはよくあるバトルロイヤルと同じで、多数のプレイヤーが1つの広大なフィールドに集まり、「最後の1チームになるまで」戦うというもの。
 ただ少し妙だな。このゲームにチーム戦モードはないらしく、友達と組んで参加するといったことはできない。それなら「最後の1人になるまで」じゃないのか?

とりあえず試合を始めてみると、辺りに豊かな自然の景色が広がった。その中心にポツンと座っているのは、自分が操作する犬のようなデザインのキャラクター(厳密には犬ではなく、それっぽい見た目の不思議生物といった感じだが)。
 この大自然の中で生き抜くサバイバルゲームという訳か。四つ足で解放感のある平野を駆け抜けていると、まるで自分が獣になったように感じられる。何だか生き物としての本能を思い出してわくわくしてきたな、ワオーン!

しばらく移動すると、川を挟んだ向こうに敵を発見した。相手もほぼ同時にこちらに気づいたらしく、すっと立ち上がってアサルトライフルのような銃を構えてくる。
 このゲームでは四足歩行と二足歩行を切り替えることができ、後者は戦闘用のモードらしい。愛らしい動物が人間のように立ち上がり、どこからともなくゴツい武器を取り出す様に狂気を感じる。

ああ、やっぱりこれは殺伐としたバトルロイヤルなんだな...一抹の虚しさを覚えながら、僕は対岸の動物と黙々と撃ち合った。お互い初心者なのかなかなか弾が当たらなかったが、最後の数発が運良く相手の胴体を捉える。
 静かに横たわり動かなくなった生き物(だったもの)をしばらく遠くから眺めていた。すまねぇ、これも生き残るために必要なんだ。後ろ髪を引かれながら僕は足速に立ち去った。

しばらく進んだところで今度は子猫のような?動物に出会った。戦闘態勢に入ろうと無意識に立ち上がった僕だったが、相手は木陰のあたりに身を隠したまま武器を構えようとしない。
 こちらの様子をじっと窺いながら、なーお、なーぉ...と甘えるように鳴いている。明らかに敵意が無いというか、何とも保護欲を掻き立てられる魅惑的な声だ。
 このゲームには「鳴く」というアクションがあって、てっきり動物になりきるためのお遊びみたいな操作だと思っていたが...これはもしかしてコミュニケーションのための機能なのか?

僕は四足歩行に戻って武器をしまうと、ゆっくりと相手に歩み寄った。こちらも試しに鳴くボタンを押してみると、子犬のように快活なキャン!キャン!という声が響き渡る。まるで他所のペットに初めて出会った時の挨拶のようだ。
 警戒を解いたのか相手もこちらに寄ってきた。そしてお互いに密着するくらいに近づくと...なんと、動物たちが体を寄せ合ってじゃれ始めたぞ!あ、これストアのスクリーンショットで見たやつだ。

コレだよ、この平和な光景。まさにこういうのを求めてたんだよ。これってもしかしてもう戦わなくていいのでは?そう思った矢先、2匹の体がボワンときらびやかなエフェクトに包まれた。
 よく見ると、今まで画面の端に表示されていた自分の体力バーの下に、もう1つ別の体力バーが並んでいる。どうやら相手のHPが見えるようになったらしい。

もしかして...そうか、だんだんゲームの流れが見えてきた。要するにこれは見知らぬプレイヤーとチームを組んだ、という解釈でよさそうだ。体を寄せ合うのがチーム結成の条件なのだろう。
 そのために遠くから鳴き声を上げて、お互いに敵意がないか様子を探っていた訳だ。僕は初めてできた動物の友達と仲良くじゃれ合いながら、最近不足していた癒し成分を噛み締めていた。

野生の世界を生き抜く

さて、戦わなくてもいいと分かった以上やることはもう決まっている。他のプレイヤーをどんどん誘って友好の輪を広げよう!
 出会ったばかりの猫のような友達と一緒に走り出すと、同じく2匹で行動している別のチームを見かけた。さっそく駆け寄って先ほどと同じように鳴き声を上げてみる。おーい、君らもこっちにおいでよ。

...と思ったら相手はいきなり立ち上がり、何の挨拶もなくこちらに発砲してきた。おいおい待て、何でそんなに好戦的なんだ!?慌てて近くの大きな岩陰に転がり込む。
 身を隠しながら鳴き声を発してみるが聞く耳を持ってくれない。ゲームなんだから撃って当然とでも言いたげだ。バトルロイヤルの最中だということをすっかり忘れていた。
 結局のところ、仲良くなれるかどうかは向こうのプレイヤーの気分次第なのか。畜生、これだから人間ってのは何を考えてるか分からないから困る。

鳴り止まない銃声の中、仲間がすっくと立ち上がり静かに武器を構えた。確かに会話が通じる状況ではないが、もしかしてやる気か相棒...!さっきまであどけないと思っていたその顔が急に頼もしく見える。
 味方が岩陰から飛び出すのに合わせ、僕も反対側から踏み出してすぐに撃ち始めた。なるべく相手チームを囲う意識で、2人で連携して攻撃を仕掛ける。
 最初に実戦を経験しておいたのがよかったのか、今度はすぐに弾が命中。こちらも少々被弾したものの、犠牲を出さずに敵チームを打ち破ることに成功した。

全く、話し合いに応じれば命を落とす必要もなかったのに...無惨に横たわった2匹の亡骸を恨めしげに見つめていると、チームメイトがその側に近寄っていく。
 何だろう、相手の装備でも拝借するつもりか?訝しげに様子を見ていた僕は、次に仲間が取った行動に思わず絶句した。

敵の死体を食ってる!?

頭が混乱している。あの可愛い子猫が生肉をバリバリと...でも猫に似た見た目なだけで全然別の肉食獣なのか?野生の猫って何食べるの?いやそんなこと今はどうでもいい!
 別に血が出たりする訳ではないしグラフィックは全然グロくないのだが、さっきまで仲良く遊んでいた友達が美味そうに死骸に齧り付いている様が衝撃的すぎる。

食事を終えて満足げに舌なめずりしている友達(と呼んでいいのかどうか分からなくなってきた)を呆然と眺めていた。栄養をたっぷり摂ったせいか、心なしか体が一回り大きくなっているような?
 いや気のせいじゃない、声もちょっとだけ太くなっている。さっきまでは赤ん坊みたいな甲高い鳴き方だったはずだ。もしかしてこのゲーム、敵を食べて成長していく要素があるのか。

友人は一度こちらを振り返ってから、残っているもう一つの死体をちらっと一瞥した。そうしてまた僕の方を見て、優しげになぁお、なぁおと呼びかけてくる。
 敵の死体は2つあって、その内の1つを仲間が食べた訳だから...つまり「もう1つは君が食べていいよ」というお誘いかコレは。マジか。親切心なのか。
 恐る恐る亡骸に近づくと、画面中央に「食う」コマンドが表示された。あとはボタン1つで僕もケダモノの仲間入りだ。この世界では銃の扱いが上手い奴が弱肉強食の頂点ってことなんだな。

意を決してガツガツと死肉を食らうと、減っていたHPがいくらか回復し、一段階キャラクターが逞しくなった。おっと、さらに最大体力も少し増加したようだ。
 なるほどね、このゲームでは装備を集めて強くなるんじゃなくて、敵を食べて自身を強化していくのか。ちょっと残酷だが、野生の生き物らしいと言えばその通りかもしれない。

それにしても、見知らぬプレイヤーとチームを組んで戦うのもなかなか楽しいもんだな。普通のオンラインゲームだと自動マッチングで機械的に組まされるだけだが、ここでは自分で仲間を見つける温かみがある。
 今の僕たちには見えない絆が芽生え始めている。これからは友達ではなく兄弟と呼ばせてもらおう。最後まで一緒に生き残るぞ、ワオォォン!

まだ見ぬ獣に引き寄せられて

広大な自然の中で生き残るために欠かせない獣の能力の1つ...それが嗅覚だ。入り組んだ地形の多いこのフィールドでは、視覚だけで常に敵の存在に気づくのは難しいが、匂いを嗅げば大雑把に周囲の情報を掴むことができる。
 画面上に小さな矢印がいくつか表示されていて、方位磁石のようにゆらゆらと円形に揺れている。これが遠方から漂ってくる他プレイヤーの匂いを表していて、何となくどの方角を目指せば出会えるかが分かるようになっている。

と言っても、矢印は風に吹かれるように大きく揺れるので、細かい敵の位置を知ることはできない。矢印の数が正確に他プレイヤーの人数を示している訳でもないようだ。
 広いフィールドで分散して戦うバトルロイヤルの仕組み上、お互いの居場所がいつまでも分からないと困るが、かと言って物陰に隠れている敵まで発見できてしまうと駆け引きにならない。そのあたりをいい感じに調整してくれるのがこの嗅覚システムという訳だ。

匂いを頼りに僕たち2匹は探索を続けていたのだが、ちょっとこの状況はまずいかもしれない。目の前の丘を少し下った先、こちらに向かってくる大きな獣を発見した。
 僕たちより二回りはデカい体躯で、遠目にはまるで熊のように見える。出会った敵を全て食ったのか、どうやら単独で行動しているらしい。恐らく好戦的なプレイヤーなのでは?
 まだこちらの位置はバレていないと思うが、匂いを追ってだんだん近づいて来ているように思える。とりあえず草むらに隠れてはいるものの、周りをウロウロされると気が気でない。

チームを組んで穏便に済ませられる可能性もあるし、一応声だけ掛けてみるか?だが先にコンタクトすればわざわざ位置をバラすようなもの。
 下手に発見されて正面から撃ち合うより、相手がこちらに背を向けた瞬間に奇襲を仕掛けた方が勝ち目があるかもしれない。僕はすっと立ち上がり、武器を構えて味方の顔をちらっと見た。

兄弟はしばらく逡巡していたようだったが、僕の意図を汲み取ったのか同じく立ち上がった。これでチームの意志は決まった...後は一気に討ち取るのみ!
 先ほどの戦闘とは逆に、今度は僕が攻撃のタイミングを主導した。草むらに隠れたまま撃ち始めると、すかさず相棒も合わせてくれる。言葉を交わさずともこの連携、何とも言えない一体感を覚える。

背中を向けていた敵をこちらの弾丸が襲う。そして驚くことに...ほぼその直後に、相手が一瞬で向きを変えてこちらに弾をばら撒いてきた。
 反応が速い!これは明らかに戦い慣れているプレイヤーだ。このあたりに僕たちが隠れている、とだいたい読んでいたとしか思えない対応だった。まずい、予定が狂ったかもしれん。

相手はすかさず側にあった木の陰に隠れた。そこから僅かに身を乗り出すようにして小刻みにこちらを撃ってくる。草むらにいるだけではもう隠れ切れず、慌てて僕たちは近くの木の裏へと駆け出した。
 ダメだ、こっちは完全に初動から遅れている。しかも走っている最中に一発ダメージをもらってしまった...これ、さっきの敵の銃弾よりも痛くないか?もしかして体が大きくなると攻撃力も増すのか!
 何が何だか分からなくなって無我夢中で撃ったが、実力差は歴然だった。あっという間に倒れ伏した僕の視界の端で、仲間が無惨にも撃ち抜かれる姿が見える。

すまねぇ兄弟、僕の判断ミスだ。あのまま隠れてやり過ごしていれば...いや、そうだとしても結局追い詰められていただけか?お互いに鋭い嗅覚がある以上、完全に接敵を避けるのは無理だ。
 要するに、ただ僕たちが弱かっただけなのだ。二人で力を合わせればきっと勝てると思い込んでいたが、所詮僕は初心者に過ぎないし、上には上がいる。
 これがケモノのバトルロイヤル...初試合の結果はあっけないものだったが、想像以上に濃密な体験だった気がする。ありがとう兄弟、君に教わったこの世界のルールを僕は忘れないぞ。クゥーン...

僕らのリーダーは君だ

いやぁ幸せだな、見てよこの平和な光景。ちっちゃな動物たちが3匹揃ってトコトコトコトコ、まるでピクニックしてるみたいだ。
 今回の試合は今の所のんきなもので、まるで戦意のない穏健派プレイヤーとしか出会っていない。これがバトルロイヤルの最中だというのだから奇妙な話だ。
 戦う面白さも知ってしまったとはいえ、やはりのんびり生き物に癒される時間は捨てがたい。毎回展開が違うというか、色々な楽しみ方があるのがこのゲームの面白いところ。

...で、今の今までは確かに平和だったのだが。林の中から突如現れた異物を前にして、僕ら3匹は思わず硬直してしまった。
 既に2、3匹は食っているであろう、ガタイの良い獣が僕たちを見下ろしていた。向こうもこちらの接近に気づいていなかったのか、ピタリと足を止めてただ固まっている。

普通の対戦ゲームならすぐ攻撃するなり逃げるなりすればいいのだが...「戦わないでチームを組む」という選択肢があると、こういう睨み合いも発生するのか。
 しばしの静寂の後、味方の一人が威嚇するように低い声を上げ始めた。このゲームには唸ったり吠えたりするアクションが用意されていて、これも一種のコミュニケーション手段のようだ。
 仲間に警戒を促しつつもいきなり武器は使わない...という点で、ある程度様子を見るための行動と言える。相手の前で一旦銃を構えてしまったら、いつ撃ち返されてもおかしくないからな。

味方に戦闘の意思があるのは伝わってきたが、僕としてはまず交渉を試したい。本当に好戦的な敵なら出会い頭に発砲してきてもおかしくないし、まだチャンスはあるはず。
 僕は親しげな鳴き声を上げてみた。威嚇していた味方が僕の方を見て、唸り声を一旦止める。しばらくして、様子を見ていたもう一匹の味方が同じく友好的な声色で鳴き始めた。
 大きな獣はそれをしばらく黙って見つめていたが、不意に短く声を発した。少し低い鳴き声だが、これは威嚇ではなく友好のサインだ。おお、どうやら通じたみたいだぞ!

1匹だけサイズが違うせいか少々ぎこちないものの、とりあえず即席のチームが出来上がった。戦力が一気に増したという意味では有り難いかもしれん。
 ところでさっきから、別の方向からも匂いが漂ってきてたんだよな。新しい仲間とは別に、近くに他のプレイヤーがいるような気がするんだが...と思った矢先だった。

突然、僕の鼻先を弾丸が掠めた。横から撃たれてる!すぐに走り出しつつカメラを回転させると、右側の坂の上に何匹か敵がいるのが見えた。
 とにかくまず身を隠さねば...あたふたしていたら、先ほどチームに加わったばかりの仲間が即座に立ち上がった。迷わず相手に撃ち返し、敵チームの一匹に素早く命中させる。うおっ、上手いな!
 大きな体に似合わない素早いステップでそのままジグザグに前進し、ある程度攻撃を躱しつつ敵との距離を詰め始めた。どうやら一気に攻めるつもりらしい...だったら僕たちも加勢するしかあるまい。

人数的にはほぼ互角の撃ち合いだが、こっちには強力な助っ人がいる。体が大きいぶん目立つし、体力があるのでチームの盾になってくれている。頼もしい、援護するぜ兄貴!
 そのままの勢いで勝利はしたものの、そこそこの規模の戦闘ではやはり無傷とは行かない。最初から組んでいた小さな仲間が一匹犠牲になってしまった。これもバトルロイヤルの宿命...あるいは野生の掟なのか。

討ち取った獲物の肉で体力回復と強化をした後、兄貴の先導に従って僕たちは歩き出した。先ほどの頼もしさもあってか、いつの間にか彼がチームのリーダーのようになっている。
 いいなあ、僕もこんな風に仲間を守ってあげられたら...倒れた味方の亡骸を一度だけ振り返ってから、僕たちは次の出会いを求めて新しい匂いを辿り始めた。

野生の眼力で生き残れ

チームの人数が多いと戦力的に有利なのは言うまでもないが、他にももう1つ大きなメリットがある。他プレイヤーを発見する「目」が増える点だ。
 遠くにいる敵に対して照準を向ける(カメラの中央に敵を収める)と、その位置を味方全員に伝えることができる。ほんの少しの間だけ敵がハイライトされ、ボイスチャットがなくても簡易的に情報共有が可能だ。
 チームの人数が多いほど索敵しやすくなり、広範囲を警戒する上で有利になる。奇襲や横槍が多いバトルロイヤルでは、先んじて敵の位置を把握すれば生存率も上がるはず。

僕はリーダーの後ろに付き従いながら周囲を窺っていた。3匹それぞれになるべく別の方向をチェックすれば、先ほどのように横から襲われる可能性も減るだろう。
 戦闘に自信がないからこそ、いち早く危険を察知してチームの役に立ちたかった。戦う以外にもちゃんと役割があるのは有り難いな。

しばらく歩みを進めると、かなり高低差があって入り組んだ地形に突入した。高くそびえる崖、底が見えない谷、ゴツゴツした起伏だらけの岩肌...これはいくらでも死角がありそうだ。
 その時、左前方の崖下を進む獣の群れがちらっと視界に入った。まだ豆粒くらいにしか見えないほど遠く離れている。僕はすかさず照準を合わせ、仲間に彼らの存在を伝えた。
 少し間をおいて、今度は右側にも何匹か隠れていると味方が警告してきた。結構な数のプレイヤーがこの辺りに分散して陣取っている。自分達も含め3、4チームぐらいだろうか?

いや、普通のバトルロイヤルと違ってチームの人数が固定じゃないから、何チームなのか一概に言えないな。これだけ数が多いと、個別にじっくり交渉するのは難しいかも。いつどこから撃たれてもおかしくない。
 リーダーは岩陰に伏せたままじっとしている。まずは様子を見るつもりなのだろう。しばらく動きのない状態が続いたが、痺れを切らしたように急に遠方で銃声が響いた。

高所に陣取っていたチームが崖下の群れに対して発砲している。地の利を生かせば勝てるという判断か。これは...このまま勝敗が付くまで関わらない方がいいのか?
 銃弾の飛び交い方からして、上側のチームがやや一方的に攻撃を加えているように見える。それを察したのか、黙って窺っていたリーダーが静かに立ち上がり、高所に向かって射撃を始めた。
 不利なチームに加勢して戦力をバランスよく削ぐ狙いか?最終的に誰と争うか分からないと考えると妥当かもしれない。ここは兄貴の直感を信じて一緒に戦おう!

だが2対1になるかと思ったその直後、さらに別の角度から攻撃が飛来した。射撃を始めたせいでこちらの位置がバレたのか、思わぬ伏兵の出現に僕たちは混乱する。これは乱戦になりそうだ...!
 とにかく撃たれた方を見ては撃ち返すようなことを繰り返しているが、ただでさえ視界が悪い上に敵が遠すぎて全然当たらん。色々な方角から飛んで来た弾丸が周囲の遮蔽物にぶつかり弾けるような騒音を上げる。うわぁ、どこに隠れりゃいいんだ!?

撃っても当たらないんだったら下手に目立たない方が...思わず怯みそうになったが、僕が狙いを付けて発見した敵を味方も一緒に攻撃してくれる。特に兄貴の射撃はかなり正確だ。これは本当に頼もしい。
 少しでも多く、こまめに敵の位置を味方に伝えれば僕でも役に立てる。まだだ、まだなんとか持ち堪えろ...あっ。

体が大きいぶん一番目立つのだろう、ずっと矢面に立っていたリーダーがついに倒れた。まだ周囲からの銃声は続いている。畜生、これは終わったな。
 そこからゲームオーバーになるまではあっという間だった。まだまだ本格的な勝負には付いていけないと痛感する。たかだか数回目のプレイだから当たり前だけど、味方を支えられないのが少々歯がゆい。
 このゲーム、チームが出来上がっていく過程にちょっとしたドラマがあるというか、何となく仲間に感情移入しちゃうんだよな。次だ、次はもっと強くなってみせるぞ!グルルルル...

ケモノ世界の心得

戦わなくてもある程度チームを拡張できるので、初心者でも意外と生き残るチャンスがあるのがケモノバトルロイヤルらしさだ。ひたすら争うばかりじゃないのが他の対戦ゲームと大きく異なる点だと思う。
 だが一切戦わずに最後まで行った試合は今の所ない。なんだかんだで戦闘力も求められるのがいい塩梅で、運だけで生き残るのはなかなか難しいようだ。
 あれから何試合こなしたか忘れたが、僕もだいぶ戦い方というものが分かってきた。助けられるばかりでは最後の1チームにはなれない。そろそろ勝ちが欲しいぞ...!

今回は最初から積極的に攻撃を仕掛けていき、1対1の撃ち合いスキルをガンガン鍛えている。容赦無く戦闘を起こしているのでちょっと狂犬くさいのがアレだが、まあそういうゲームでもあるんで許してくれ。
 そこそこ体が大きくなった所で、数匹の小さな獣グループに出会った。このまま対多数の撃ち合いを練習してもいいが...最終的なチームのバランスを考えるとここらで仲間がほしいかな。
 向こうも同じ考えだったらしく、交渉はすんなりと成功した。まるで子供のような動物たちが自分に纏わり付いてくるのを見ると、微笑ましいと同時に何か責任を感じてしまう。

今までの経験上、チームのメンバーが増えると意思決定がやりにくくなるのが厄介だ。他のチームと戦うのか仲良くするのか、咄嗟に意見が揃わずもたもたする場合がある。
 その点、大きな獣は目立つのでリーダーシップを発揮しやすく、比較的ゲームの流れを制御できる。友好的なプレイスタイルであっても、最初はある程度戦って成長しておいた方がいい...というのが今の僕の方針だ。

その後一回の戦闘を挟んだ後、今度は別の群れと仲良くなることに成功した。2チームが合体して一気にメンバー数が膨れ上がる。その中でも僕が一番ガタイが良く、実質的に群れのリーダーになりつつあるようだ。
 それにしても、体が大きいと視点が高くなるから、広範囲を睨みやすくなるな。(なぜか)銃も大きくなって射程距離が増すので、単純に遠距離での戦闘に強くなる。やはり成長した獣が戦闘の要になっていく訳だ。

んっ?そういえばチームの人数がちょっと足りないような。味方の位置はマップでいつでも確認できるのだが、少し離れた位置に行ってしまった奴がいるぞ...と思っていたら、そいつは新しいメンバーを何匹か引き連れて群れに帰ってきた。
 へぇ、こうやって別行動するのもアリなのか。孤立して襲われるリスクも高い気がするが、上手く行けば効率よくチームを巨大化できるな。ちなみに、極端に味方から離れすぎるとチーム関係が解消されてしまうみたいなので注意だ。
 しかしこりゃ大所帯になってきたぞ。様々なサイズの獣が全部で十数匹...これを僕が束ねていくのか。何だか本格的に「群れ」って感じがして、ケモノライフを満喫している気がする。

チームの人数を増やすか、自分自身をデカくするか...いずれの手段であっても影響力は増し、広範囲に圧力を掛けられるようになる。こうやってナワバリを広げ、最終的に全体を制圧するのがケモノバトルロイヤルなのだ。
 こうして見ると、ある意味でシミュレーションゲーム的な側面もあるな。国を運営して他国と協調したり、軍事で領土拡張したりする感じのやつ。何だか人間社会の縮図のような...

そんな獣社会の小難しさに思いを巡らせていたら、遠くの小高い稜線からひょこっと顔を出した動物を見つけた。1匹、2匹、3、4...おお、なんかぞろぞろと出てきたぞ?
 向こうもなかなか大きな群れじゃないのか。人数は僕らよりやや少ないが、全体的に体格が良く戦力としては同規模といった感じか。そして、リーダー格と思しきデカブツが最後にのそりと姿を現す。
 僕とそいつの視線が重なり、お互いに見つめ合ったまま一瞬ぴたりと動きが止まった。何だろう、嫌な予感が...。

最後の1チームになるまで

横一列に広がるように、2つのチームが少し距離を取って睨み合っていた。各々小さな段差や岩陰に半分くらい身を隠し、急に撃たれても対応できるよう警戒しながら相手の出方を窺っている感じだ。
 こちらのチームは全体的に温和ムードで、僕も含め友好的な鳴き声を上げて交渉を促している。対して相手チームはやや攻撃的...特にリーダーが異様に騒がしく吠え散らかしている。そんなにボタン連打しなくてもいいだろうに。
 どうやら相当に好戦的なプレイヤーと見える。確かにこの大人数での戦闘はちょっと珍しいし、まさにナワバリ争いって感じである意味面白いな。でも、双方とも無傷じゃ済まないのは目に見えてるぞ?

もう我慢できないとでも言いたげに、敵のリーダーが立ち上がってバカでかい銃を構えた。あーあー、この一触即発の状態でそんな物騒なもの出したら...
 案の定、うちのメンバーが反射的に銃を構え出した。当然相手チームも一斉に戦闘態勢に入る。そして誰かが思わず撃った一発を皮切りに、けたたましい銃声の嵐が始まった。

素早く遮蔽物の裏に隠れながら戦況を確認する。こういう場合僕はまず少し後ろに陣取り、高い視点と射程を活かしてチームを俯瞰するように戦う。体が大きいと後方からでも敵戦力を削りやすいのだ。
 そして大事なのは一体ずつ確実に倒すこと。味方の攻撃が集中して体力の少なそうな相手を優先的に狙う。一時的にでも数で上回れば、火力差で徐々に有利になっていくはずだ。

そしてやはり、最後の決め手になるのはリーダー同士の勝ち負け。僕は一番デカい相手の周囲をチェックし、護衛が倒れて守りが手薄になる瞬間を待っていた。よし、ここだ!
 敵陣側に突っ込み1対1を仕掛ける。こちらの意図に気づいたデカブツと視線が一瞬かち合い、お互いの弾丸が激しく交差した。最後は操作精度と気合の勝負だオラァア!!!

渾身の射撃が頭部に刺さり、敵のリーダーが地に伏せる。後はもう勢いあるのみ、このまま押せばうちのチームの勝ちだ。そう思った直後、騒がしい銃声に紛れて妙な音が耳に入った。
 か細い獣の鳴き声...これは敵チーム側から?一瞬戸惑ったがすぐにその意味を理解する。僕は素早く武器をしまい、四足歩行に戻ってぐるりと振り返ると、仲間に向かって激しく吠えた。
 ストップ、ストップだ!もう相手は戦意を失っている。あれは降参の合図だ、武器をしまってくれ。

物陰に敵チームの残党が2匹だけ隠れていた。撃ち合って確実に死ぬくらいなら命乞いする方がマシという判断か...今まで考えもしなかったが、確かにそういう選択肢もあるよな。
 僕が野太い声で歓迎すると、2匹は恐る恐るこちらに寄ってきた。警戒して武器を構え続けていた仲間たちも徐々に四足歩行に戻っていく。そうして最後のメンバーをチームに迎え入れると...

画面全体に勝利演出がド派手に表示された。君たちは最後まで生き残ったぞ、と。

そうだ、このバトルロイヤルは戦わなきゃ生き残れないが、最後まで戦う必要はないのだ。勝利条件はあくまで「最後の1チームになること」。敵がいなくなれば勝ちなのである。
 終始暴れ回ってもいいし、敵に慈悲を見せてもいい。戦うのも仲良くするのも全て作戦の一つで、あらゆる手段で勝ちを目指せるということか。最初は訳の分からないゲームだと思っていたが、その自由度の高さが魅力なのだと気付いた。

僕はなるべく友好的に勝ちに行くスタイルを選び、それを(だいたいは)貫いた。自分なりに好きな役割を演じることができる、ある種のごっこ遊びなのかもしれない。
 改めて初勝利に酔いしれる。今この瞬間から武器は必要なくなり、ケモノの世界は平和になった。僕は仲間たちとはしゃぎながら、歓喜を共有するように長い雄叫びを上げた。ワオォォォォォォン!!!


※本文は以上となりますが、有料部分に追加でストーリーを付けてみました。ひたすら他プレイヤーを襲い続けたり、逆に全く戦わなかったり、極端なプレイスタイルを想定してこのゲームの可能性を掘り下げていきます。
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