2000年の思い出。~21年経ってしまいましたがお返ししたい~
学習デスクの引き出しには、600円切手を貼り付けた小包がある。
あて名は「**町立**中学校 図書委員会様」
差出人の名前はない。
1.それってマンガじゃないの?
僕は読書感想文が苦手な子供だった。
人生で書いた読書感想文の記憶は2つだけ。
小学5年生のときの宮沢賢治「注文の多い料理店」と
高校1年生のときの秋本治「勝鬨橋ひらけ!の巻」だ。
その作風は引用を用いたシンプル感情表現法であった。
簡単に言えば、
「~というところが面白かった」
「~というところがすごいと思った」
「~というところには感動した」
ということである。
恥ずかしい。
今思えばとても恥ずかしい。
しかも高校1年生のときも作風は同じときている。
更に、お気づきだろうか、
秋本治といえば、人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の作者であり、選択した本は、文庫本とはいえ、漫画なのだ。
高校1年生の時にあまりに本が読めないものだから
偶々夏休みにアニメで放送された話を図書室で見つけ、その記憶と文庫の扉絵を頼りに9月になってから居残りで感想文を書いたという黒歴史である。
もはや読書もしていない、テレビ感想文なのだ。
もちろん現代文の教科担当の先生には、「マンガじゃないの?」と至極当然のツッコミをされたが、
いやいやこれはですねと、先生が御歳であることをいいことに、口八丁で誤魔化した記憶があります。
先生ごめんなさい。
きっとそんなことは当時からお見通しでしたでしょうが、
単位通してくれてありがとうございました。
他にも読書感想文の宿題は毎年あっただろうけど、苦手過ぎて記憶から消されている。
2.大人ってすごい
読書に関してそんな黒歴史を積み上げてきたが、
21歳の時にアルバイトをしていたインテリアショップの休憩室兼バックヤードのテーブルの上で1冊の本と出会いました。
本のタイトルは「阪急電車」有川浩
269ページもある大判の書籍だ。
何気なく手に取り読み出したら、本の中に吸い込まれるように情景が脳裏に浮かんでくるではないですか。
物語が直接脳に響く感覚と、自分が本を読んでいるということへの感動が大波のように押し寄せ、得も言われぬ高揚感に浸ったことは今でも鮮明に覚えています。
本が読めるようになった自分の誕生の瞬間でした。
何故急に本が読めるようになったのか、原理はさっぱりわかりませんが、二十歳を超えていた僕は大人ってすごいと思いました。
このあたりの感情表現法はまだまだ乏しかったですね(笑)
3.先生30代までいいことないよ
人生の転機となった1冊の本から僕の物語も動き出しました。
同じ本好きから意気投合した方とお付き合いし、
あれよあれよと結婚、そして離婚。
怒涛の人生に自分が一番びっくりでしたが、
大学生時代に家庭教師先のお母さんに
「先生30代までいい事ないよ」と細木和子の大殺界の烙印を押されたのを思い出し、
そういうことか…と変に納得したこともありました。
4.大きな運勢と小さな偽善
運勢で人生が決まってたまるかと、
気分転換に身辺整理から始めた僕は、
引き出しの中に2冊の本を見つけました。
本のタイトルは三国志上、下
2冊で500ページはあるでしょうか。
折り目もつかず真新しく、フィルムで丁寧に本カバーが覆われています。
裏表紙には母校の中学校の名前とバーコードが張られており、借りたままの図書であることは直ぐにわかりました。
既に卒業から13年、少し悩みましたがこれは返さなくてはという正義感に駆られ、メッセージを添え、重量から計算した600円切手を貼り、いざポストへ。
良いことをした気になって自分の憂いを消そうとしたのです。
ですが、小包が大きくて郵便ポストに入らず。
郵便局に持ち込めば済むことでしたが、対面での気恥ずかしさを苦にして僕は諦めてしまったのです
それくらい小さな小さな偽善であることに、
自分が恥ずかしくなりました。
5.見栄っ張りな僕
この本の話は中学3年生に遡ります。
僕には好きな子がいました。
初恋だったと思います。
席替えをしても何度も隣の席になり、手紙交換をしたり、家電で2時間くらい毎日おしゃべりしたり。
告白はしていなかったですが、好きなのがバレバレだったと思います。
周りも押せ押せムードでした。
僕はとにかく気に入られようと勉強も頑張ったし、好きな本も音楽もドラマも全部取り入れました。
一緒の高校受かるといいねなんていう甘酸っぱい約束までしてました。
その過程で出会ったのがの三国志だったと思います。
僕こんな難しい本も読めるんだぜ的なやつです。
読者感想文の黒歴史を積み上げている男子中学生の精一杯の見栄でした。
その後見事同じ高校に合格することができたわけですが、
肝心の恋の桜は咲くこともなく、
いつしか本の存在もすっかり忘れてしまっていました。
本で始まった物語は、本のようにはいきませんね。
6.今の僕ならできるこの春やりたいこと
僕は今、メーカー企業にてシステムエンジニアという仕事をしています。
この仕事は単純に技術力があるだけでは成立しないお仕事です。
企画力、提案力、それを見せるプレゼン力、それ以前にはヒアリング力、コミュ力など兎に角、力という力の権化ではないかという総合力が問われる仕事です。
漏れなく読解力と文章力も相当に鍛えられてます。
なので、このnoteで折角の機会をいただいたので、僕がこの春やりたいことは次の2つです!
三国志を読み切って21年越しに中学3年生の自分の見栄を叶えたい!
そして、もう1つ。
「大変面白かったです。」
と読書感想文を添えて中学校に図書を返却したい!
これが僕のこの春やりたいこと!
21年越しの思い出の精算です!
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