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「なんて言うか…教養…」 ~谷川俊太郎×DECO*27への賛否両論について

谷川俊太郎。
生涯詩人であり、翻訳や絵本でも輝かしい軌跡と受賞歴を持つ言わずもがな日本を代表する作家で、もしかしたら義務教育の頃からお世話になっている日本最強のクリエイターの一人でもある。

DECO*27。
作曲家/音楽プロデューサー。
VOCALOIDを用いる楽曲を主に活動しながら、様々な歌手への楽曲提供も務める。
ニコニコ動画内にて同一ボカロPとして唯一、「投稿後1年以内に300万再生」を6曲持つ(2024年4月現在)。

※なお上記6曲の内の1曲「ラビットホール」はBillboard JAPANのチャート(Global Japan Songs excl. Japan)では、ランキングで9位にまで着けている。


ところ変わってX(旧Twitter)にて。

とあるユーザーの投稿がバズり、どうやら谷川俊太郎氏とDECO*27氏の対談による発言がクローズアップされ、それらがまとめサイトに取り上げられたことにより波紋を生み賛否両論が巻き起こっている…らしい。

今回の記事はこの騒動を取り上げると共に、少々思うところがあるので感想を列ねていこうかと思う。

発端のポスト


まずは発起箇所を明確にするために投稿内容を見てみる。

さすがにリンク貼るのはX主にご迷惑なので代わりに画像を


どうやら短文の呟きと共にとある記事の一部分を抜粋してスクショしたものを貼り付けたものみたい。
何やら巷ではこのスクショが賛否両論を生んでいるらしいので、実際にスクショに書かれた文章を読んでみる。
以下がそのスクショ部分である。



X元スクショ①
X元スクショ②
X元スクショ③


…いたって普通の年齢差のあるクリエイター同士の会話である、というのが感想(だが戦歴は普通ではない 笑)。
ただ正直、X主の「なんて言うか…教養…」の箇所は、個人的には正直理解を得ない。

だが、SNSで騒動や話題になる時は大概、「そこに列ねた素材」だけではなく、「そこに綴った内容」が意味を成すことが往々にしてある。
なので理解するためにもう一歩踏み込む必要性がある、と感じる。


まとめ先では

要領を得てないので騒ぎの一端である、このポストをピックアップしたまとめサイトの方ではどの様な意見で纏められているのだろうか。
どうやらどこかのスレッドをコピーしたのか、それぞれのメッセージは端的ではある。
だが、投稿(X)のどの部分に反応したのかが判る検体でもある。

まとめサイトは娯楽性・指向性が高く作られているのでできるだけ心惑わされないよう心掛けながら一歩を踏み込む。

・さすがにビートルズの赤盤青盤ぐらいは聞いとこうや……

・でも現代でヒット曲を作れるのはデコニーナさんの方なんだよな 谷川とか過去の人だし

・ボカロPってマジでセンスと感性だけでやってるんだな…音楽理論とか音楽の歴史とかに興味ないんだ……

・ビートルズなんてクラシックみたいなもんだろ 興味ある奴だけ聴けばいい

・逆に過去の音楽を知らないからこそ、過去の踏襲にならずに新しい音楽を作れるとも言えるね

・すーぐ揚げ足取ったかのように教養言い出す人いるよね
この場合ビートルズ知ってることしか取り柄がないんだろうね

・ビートルズっていうほど教養か? 老害って自分の好きなもの興味ないって言われると切れるよな

・サラっと人間じゃないねとか言われてんの草

・ビートルズってみんな影響受けすぎて色んなアーティストにミームが混じっちゃったから後の世代からすると何が凄いのかピンとこないんだよね

・実際、他人がビートルズを聞くかどうか、若い人に刺さるかどうかなんてどうでもいいし、そんな事押し付けるなよ

・いや音楽やる人間がビートルズすら知らんて
The Z世代って感じだな

・聞いて合わないですねぇなら分かるけど音楽で食っててわからないは勉強不足だろ

・ビートルズ知らないと人権まで剥奪されるんだ

・そらボカロ使ってる人間にビートルズ知ってるかなんて期待することじゃないやろ

以下略

某まとめサイトより抜粋

…なんと言うか、その…まずは率直な感想として。
みんな口汚い(笑)。
あとどうやらThe Beatlesのことに言及したことにも反応しているみたい。


早速、騒がれている問題提起部分と思われる箇所を2点ピックアップし、それぞれに思ったことを述べていこう。

…と、その前に


ただ言葉だけに脊髄反射してケチを付けるだけでは他の方々と変わらないので、本文を読んで解像度を上げてからにすることにした。


・DECO*27氏への「音楽演るなり語るならThe Beatlesは必聴」という意見について

この箇所は明確に解答できる。完全に必要ない。
別の物で例えてみる。

2024年現在、Apple社が販売しているスマートフォンのiPhone(アイフォーン)シリーズも15を迎え、性能・値段共にハイエンド機器となっており、一部の人達の間では必須ステータスの一つにもなっている。


その反面、背面がアルミなiPhoneなぞ出そうものなら
「うわあいつiPhone7なんて使ってる!なっつ(懐かしい、の略)!!骨董品!?」
などと揶揄されること請け合いな状況だ。
そんな人達の間に交じって
「俺はApple信者!!iPhoneは初代のthe original iPhoneを使ってきていないなら語る資格も使用する資格もないね!!」
なんて言ってくる輩がいたらどう思われるか。
その場の空気は想像に難くないであろう。


The Beatlesは必聴!!では無い。
ヒットメイカーが音楽の歴史や名盤を全て揃え踏襲していなければならない…なんてことはないと思う。
あと、ボカロPはセンスと感性だけでやってるんだな…みたいな投稿も見受けられたが、音楽制作に重要なパーツとしてセンスと感性は必須であるような気がするのですが…。


・谷川俊太郎氏への比喩表現の言動(人間じゃない)にチクチクしている部分ついて

これに触れる前に、前述で触れていた「The Beatlesは必聴!!」の意見と、谷川俊太郎氏の「おお……人間じゃないね。」の発言。

それらは会話上の流れも意図も完全に誤解である、ということに言及しなければならない。

まずは「The Beatlesは必聴!!」サイドに関しての補足。
ダイレクトに伝えると、大騒ぎしている人はスクショ③の後半部分の文章や全体の文脈が読めていないのだと思う。
その様な方々にも解りやすくなるように原文の一部に手を加えてみたので、よろしければ一読してほしい。

谷川:

それはそれで、いいところもあるよね

詩の話でいうと、僕もどっちかって言うと知らない方なんだよね

詩人の中には、過去の詩人をよく読んで勉強して、」長い歴史の先端で自分は何を書くかってことを考えて書き始める人もいるのね

でも僕は真空管ラジオ作ってたからさ(笑)、知らないんです

だから、わりと誰の影響も受けずに書き始めたのがかえって良かった
僕たちは、そこも似てると思う

実は谷川俊太郎氏は「The Beatlesが解らないこと」に対して一つも否定していないんですよ。
寧ろ若い頃の自分の道程と似ている、とまで仰っている。

このトップクリエイター同士の対談記事。
世代も歩みも。
周囲にある技術や環境も。
そして分野すらも。
何も彼もが違うトップクリエイターの男性二人が、わちゃわちゃ互いの理解を深め合ったり共通項を見付けて仲良くなっていく様、つまり

相違の部分(ジェネレーションギャップ)=「楽しい・面白い」
→相互理解による歩み寄り

これこそがこの対談の面白みの一つだったりする訳で。

否定的な反応をされている方々は、多分豪快で単純な斜め読みをしちゃっているんだろうなぁ…と思う。


その点を踏まえて、での谷川俊太郎氏の「おお……人間じゃないね。」発言サイド。

こちらは単純に年齢差を越えた、逆に非常に忌憚の無い若々しい言葉のやり取りだと思いませんか?
自分たちも含め、他人との距離が縮まる(要するに仲良しになる)と言葉の扱い方の遠慮の壁が低くなっていくことは多いにあると思われますが。




改めてX主の「なんて言うか…教養…」という言葉について

良く言えば本文を斜め読みしちゃった上で気になった箇所を切り取ってしまったのかなぁ…と思う。

ただ、そこぐらいしか良くは取れない。

スクショ内でもし文学面をピックアップして「教養」という言葉を用いているのならば。
本文を読んで貰えば一目瞭然だが、少なくとも谷川俊太郎氏は「他の詩人の詩を参考にしたかどうか」の質問をしており、それに対してDECO*27氏は「関係ないです。」と答えている。
つまり「知らない」「勉強していない」とは一言も述べていない

スクショ内のThe Beatlesを用いた「教養」と言うのであるならば。

谷川俊太郎氏サイドに寄ったとしても、The Beatlesを知らないことに対して否定的ではないのは前述の通りで(氏も「それはそれでいいところもあるよね。」と仰っておりますし)。

DECO*27氏サイドに寄れば、スクショ内には対比で日本のバンド名も出てきているので、谷川俊太郎氏が日本のバンドも知らない「なんて言うか…教養…」ということになりますね。

X主にどちらのことを言っているのか意見をハッキリ伺いたいところではあるが、後述の結論や追記にある通りでもあるし、吊し上げすることが目的になってはいけないので、この辺で(※)。

※ただ、どちらにせよ個人的には日本を支えてきた音楽全体への冒涜にも思えます。


結論

結論を述べると「なんて言うか…教養…」はブーメランです

正直言ってX主が10年以上前の対談記事を引っ張り出してきて一体何が言いたいのかよく解らなかった。

今記事初出2024.04.15 Mon

(追記:ちなみにX主のポストにぶら下がっている言論も覗いてみたが、表現は申し訳ないが意味や意図のまるで見えない言葉の羅列の様であった。)



谷川俊太郎氏もDECO*27氏も自分自身を信じきり、その活動がやがて日本という枠を飛び越えた、稀有なクリエイターである。
だが機会が無ければ互いが決して邂逅することのない道を歩んでいるお二人でもあると思う。
まずはこの様な機会を設けて、そして今記事を遺してくれているCINRAと担当者様に心からの感謝を捧げたいです。


だが一方で、「文化すらも誰かの見栄と体裁の餌」とされんがばかりの一部分を切り取っただけの情報には振り回されたくはないなぁ…と。

今記事を纏めるに辺り、正確でない「悪意」を振り撒くだけの「他者へのマウントを価値とする存在」への「悲しさと虚しさ」を思わんばかりです。

サポートしていただけると幸いです。