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一人芝居をするときは、家族には 「遊んでくる」 じゃなくて 「しゃべってくる」 って言ってました

インタビューをした時期:2021年 冬
インタビューをした場所:渋谷のカフェ、その後ミヤシタパーク
語り手:20代 男性 好きなものは電車とパンとロイヤルミルクティー


ーこの前、点字で書かれた数学の教科書を見せてくださったじゃないですか。あれ、すごく興味深かったです。

本当はね、あの"胸アツ"の教科書を持ってこようと思ったんですよ。でも、返しちゃったから。

ー 点字で書かれた二次関数のグラフがきれいでした。

僕、数学は苦手ですけど、図を見るだけで計算しなくていいって言われたらずっと見てます。美術作品として。地図やグラフについては、見える人と共有できる文法がありますよね。地図もグラフも、触りながらいっしょに見ることができるので、胸アツが起きるんですよね。

ーあ、地図もあるんですか。

ありますよ。

ーたしかに、駅やビルにも触れる案内図があったりしますよね。

あ〜でも、駅やビルに設置されてる触地図は、板に印字されていて触るとちょっと痛かったり、いろんな人が触っているから触るのに抵抗があったりしますね。それに縮小が小さかったり、平面に書いてるから、階段とかもイメージが立ち上がらなくて、駅の触地図って全然頭に入ってこないタイプなんですよね。あと、触地図が設置されてる場所って、人が待ち合わせしてたりするから、混んでたりもするんで。

ーなるほど。

だから駅とかは、歩いて実地で覚えるっていう方が多いですね。自分のメンタルマップをつくった方が速い。

ー紙の地図って、どのくらいのサイズなんですか?

B4くらいかな。だからちょっと重くて大きいんです。ちなみに、地図をつくるソフトって何種類かあって、一番見やすいのは「エーデル」ってソフト。これは点字が書ける普通紙に印字するものです。数学の図形やグラフ、動物の顔もつくれる翻訳力が高いソフト。あとは「サーモフォーム」っていって、ビニールっぽい薄い紙に印字するタイプのもの。それから、インクに熱を加えて浮き上がらせる「立体コピー」はコニカミノルタっていう会社が一番大手でコピー機をつくっているらしいんですけど、その分厚い紙でつくる地図。これを使うと人の顔とかは結構リアルらしくて。地図というよりは動物とかを印字するときに使われてるみたいです。

ーおもしろい。藤本さんは普段から触地図は使うんですか?

好きだけど、使わないですね。

ーああ、じゃあもう鑑賞用って感じだ。

そうですね〜。空間認知が苦手なんですよ。

ー全然そう思わなかった。よくいろんなところへ出かけている印象だから、空間認知能力は高いものかと。

とくに全盲だと一回歩くだけで全部覚えられる人や、google mapを一回見れば全部わかる人、触地図を見れば駅の構造がわかっちゃう人とかたくさんすごい人がいて。でも、自分は西に進むとか、東に進むとかって言われてもわからないから、とりあえず歩き回って道を探る。はじめて行く駅とかは探検したいから、ちょっと早めに着くようにしてますね。もしそれで時間に間に合わなくなったときは人に頼ってしまうって感じで。

ー好奇心の強さで、建物を練り歩いてメンタルマップをつくるんですね。

そうですね。あとは言葉を使って。

ー空間を覚えるときに言葉ってどうやって使ってるんですか?

東西南北の方角以外で目的地までの道のりを覚えていて、「改札を出て何歩進む」とか「電柱が何本分を右に曲がる」とか。点字ブロックがなくても電柱とか花壇とかの位置をマークして記憶しますね。あと縁石が曲がっているところは超使います。1人で歩くときって、たいてい道の端っこを電柱とぶつかるスレスレの位置で歩くんですよ。だから路上駐車してる車にぶつかるとか、電柱にぶつかるのは普通ですよね。怪我をしない程度にぶつかっておかないと道の把握ができないので、むしろぶつかってます。

ーなるほど(笑)

空間認知の話に戻ると、自分の頭の中のイメージをアウトプットするのが苦手で、たとえば動物の絵を描いてくださいって言われても全然描けないんですよね。

ーそもそも絵を描く場面があるんですか?

普通はないです。でも、盲学校だと全盲も弱視も中途失明も混ざっているんです。そうすると弱視の子が黒板に絵を描くこともあって。そういうときに「俺も描きてえな〜」と思って触れる動物本を触りながら描いてみようとするんだけど難しい。

ーそういうときに触れる本を使うんですね。

うん。でも結局は「うさぎは耳が長い」っていう情報だけを使って耳っぽい線を描いて、適当に像をつくるんですよ。ビジュアルじゃなくて、言葉を使って像をつくるので、物の認知の仕方っているのはやっぱり晴眼の人とは違うんじゃないんですかね。

ーおもしろすぎます。

そろそろ私の話をしますか?

ーはい、前段が長くなってすみません。

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ーお生まれはどちらですか?

生まれは大阪府 箕面っていう滝と猿とゆずが有名な場所です。小学校に入るまでここにいて、そのあと神奈川に引っ越して。父も母も関西出身なので家ではみんな関西弁ですね、ずっと。小さい頃はおままごとするとか、あとカードゲームをするとか、ちょっとインドアだったかな。でも、鬼ごっこしたいなあとか、ドッジボールやりたいなあとか思ってて。ドッジボールはやりましたね。あと、家では一人芝居をやってましたね。

ー 一人芝居?

家の中の誰にも使われてない部屋とか、自分の部屋とかに入ってひたすらしゃべるんです。即興で物語をつくる感じで「どういう話にしようかな」とか言いながら。小学校5、6年生のときにレコーダーを買ってもらったので、そこからは録音をしたりもしましたね。

ーたとえば、どういうお話を?

当時ディズニーの『ファインディング・ニモ』が好きだったので、魚が登場する話をつくったり。つくった話を祖母とかに話してましたね。海にカエルが出てきて謎の現象が起きるって話を祖母にしたら、おばあちゃんが真面目に「海にはカエルいないんだよ」とか言って。「いるもん!」て反論してました(笑)

ー楽しい話だ。

小学5、6年生のころは週1とか月1で普通の小学校に行っていたんで、そこで得た情報を使って、晴眼の男の子を主人公にしてお話をつくってましたね。名前は山田ゆうた君っていうんですけど。その子の家族構成や飼っている犬の名前も決めて、彼が家族とか友だちといろんなことをする話をつくってました。

ーほのぼのした話なんですか?

クリスマスとか正月とかそういうのはなくて、夏休みにおじさんの家に遊びに行くんだけど、ハプニングが起きるとか。おじいちゃんが突然宇宙人と結婚すると言い出してそれを止めるとか。あとは、91歳の悪党が出てくる話とかも(笑)

ー思いのほか奇想天外(笑)

一人芝居をするときは、家族には「遊んでくる」じゃなくて「しゃべってくる」って言ってました。一日に4、5回しゃべると「今日しゃべりすぎじゃない?」って言われるんですよ。

ーうん、うん。

いつからか、ぼけツッコミ型っていうのもやってましたね。わざと悪いことをして怒るっていうのを自分一人でやってて。盲学校で音声時計をいじって時間を狂わせて遊ぶ「時計いじり」っていうのが流行ってて、それを一人芝居のなかにも取り入れて、狂った時計が大暴れしはじめるみたいな展開をつくったりもしたかなあ。

ー小学校から盲学校?

盲学校です。月1で普通の小学校に遊びにいくみたいな。本当は普通小に行きたかったんですけど、引越しもあったんで盲学校にして。一人芝居では晴眼者の男の子を主人公にすることで、普通の小学校に行った気分になりました。

ー一人芝居が今取り組んでいるラジオドラマにつながるんですね。ラジオドラマはいつからつくりはじめたんですか?

高校1年生の終わりにアニメ研究会を立ち上げて、そこではじめてラジオドラマをつくりました。中学までは水泳をかなりやりこんだけど、いろいろあってやめて。でも何かしないと落ち着かなかったんでしょうね(笑)そこから一人芝居熱が復活してラジオドラマにつながります。高校のときはもう運営で精一杯で、作品の内容まで頭が回らなかったんですけど。

ーラジオドラマを鑑賞者として聞いたのはもっと前のことなんですか?

中学校にラジオドラマに関する部活があったので存在は知ってました。でも、そのときは水泳が忙しかったんで入らないで、お客さんとして学園祭のときにその部活が作成したCDをもらったんです。その作品の脚本を書いている先輩とは今でも親しくしてるんですけど、もう超良くて。感動しちゃって。こんな話を書きたい!って思いました。

ーどんなストーリー?

盲学校が舞台で、主人公は高1の全盲の女の子が弱視の男の子のことが好きになるって話。ある日女の子が傘を忘れてしまって男の子が傘を貸してくれて、全然意識してなかったところから好きになって。でもその男の子はモテるから、自分の友達も好きだってことがわかってしまう。ある日、友人6人と遊びに行ったときに告白するもフラれてしまい、そのときに友人が彼と付き合っていることを知ります。主人公はこの失恋を忘れようとしていろいろ忙しくする。でも、最後にまた雨が降って、信号を渡ろうとして転びそうになったときに、男の子が傘をさしてくれ、彼から告白をされて万事解決という。

ー一回フラれるのがいいですね。

十分ですよね。いつか自分も書きたいなと思って、そこから「よっしゃ書くぜ」ってなるまでは時間がかかったんですけど、ずっと頭の中にはありました。

ー藤本さんて、話すときと文章を書くときで人格が違ったりしますか?

どうなんでしょうか? 考えたことはないですけど、話す方が好きですね。すぐにレスが返ってくるし。

ー「話す」がベースにあるから脚本書くのも得意なんですね。ちなみに、最近書いた作品とかって……

絶賛、制作中ですよ!今ちょうど編集作業をしてもらっているところかな。完成したら送りますね。

ーお願いします! 今は大学院に在学中ですよね。

そうです。

ー院ではどんなことを勉強してるんですか?

在籍しているのは異文化コミュニケーション研究科という学科なんですけど、言語学と言った方がわかりやすいかも。若い世代のバイリンガルを対象にして、言語使用と言語の向き合い方について無意識な部分での使い分けについて、インタビューを通して調べることをしています。

ーどんな場面でどの言語の使い分けるかというのを調べているっていう理解であってますか?

法則を見つけたいわけじゃないんです。言語学で「トランスランゲージングスペース」っていう機能があるらしくて、言語を使い分けることで距離を保ったり、自分の地位を創造するみたいな効果があるって研究があるんです。たとえば、知られたくない話をするときは隠語を使うじゃないですか。それと同じように英語を使うことで距離をとったり、日本語を使うことで近づいたりとか。人間同士の無意識と言語の関係を探ってみたい。そのうち、バイリンガルじゃない人にも対象を広げたいというのはあります。

ーなるほど。

言語を知るっていうのは、その人が世界をどうつくっているかっていうのにもつながるので。それに、いろんな言語を話すってことは、いろんな世界がつくれるってことだから、複数の言語を話すってどういうことなのかっていうのを最終的な問いにしたいんです。
一方で、複数の言語を話せるというのは何がいいんだろう? 一つの世界しかもってないことと何が違うのかな?っていうのも考えます。

ー個人的には、生きている世界を相対化できるっていう意味では、第二外国語が話せるのはいいのかなって思います。

そうですよね。だからどうやって日常的に相対化しているのかっていうのを知りたい。僕は英語が得意だけど、日常的に使う人間ではないから相対化まではできてないと思うんですよ。意識的に翻訳する場面などでは言語を相対化するけど、日常的に切り替えるってわけじゃない。だからバイリンガルの人はどうなのかなと思って。

ー言語に興味を持ったのはいつからなんですか?

中学1年生のときに国語の授業で、日本語の動詞の活用形を教えてくれたときですね。そのとき、自分に対して腹が立ったんですよ。「なんで僕はこんな不思議に気づかなかったんだろう」って。「本を読んだ」「本を読まない」「本を読みます」「本を読もう」って言ったりすることに、きちんと法則がある。

ーまた素敵な。

そこに不思議をもちたかったなあって。そのとき、日本語の先生になりたいと思ったんですけど、漢字は教えられないからどうしようと思いました。いろいろ考えるなかで日本語じゃなくても、英語もおもしろいなって思ったんですね。動詞の形が変わるのもおもしろいし。そこから言語全般に関心が向きました。

ー留学の予定とかあるんですか?

します。イギリスに行く予定です。できればそこで修士も取りたいけどって感じですね。

ー藤本さん、将来は研究職とかに就くんですか?

教師になろうと考えてたんですけど、現場で教えるより教材をつくる方が好きなんです。実際に人前でファシリテーションするのも好きだけど、どっちかっていうと資料つくってあげるとか指導案をつくるとか、そういうのが好きで。そういうコンテンツをいっぱいつくれるようになりたいから、そのために研究もしたいなって考えてます。

ーラジオドラマの脚本づくりとか、今やってることで身についたスキルも生かされそう。

海外だとインストラクショナルデザイナーって仕事があって、教材や教授法のデザインをする人がいるらしいんですよ。アメリカだと大学で免許も取れるらしくて。それをいつかやってみたいですね。

ーまだ名前がついてないことをやろうとしているんですね。


<執筆後記>
藤本昌宏さんは友人を介して出会った方です。出会った当時、藤本さんがある企画展に文章を寄せていて、それは読み手が経験したことのないことであっても自然と理解ができ、それでいて何にもとらわれていない自由な文章でした。藤本さんの言葉づかいの自由さを、どうやって獲得したのかを知りたいと思って今回お話を聞きました。
話を聞くなかで出てきた一人芝居という独自の遊びは、あきらかに藤本さんの表現の一端をつくってきたのだと感じます。ただ、これは氷山の一角で、きっと藤本さんの言葉をつくってきた何かはもっと他にあるはず。これからの交友関係のなかで知っていきたいものです。



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