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ことば の 水先案内人

志村 響(しむら ひびき)94年東京生まれ。首都大学東京に入学後、独学でフランス語を学び、2年次からフランスに留学。帰国後は東京外国語大学に編入し、音声学・音韻論を学ぶ。在学中から語学塾こもれび(https://www.commorebi.com/)を運営。現在はこもれびの塾長。フリーでフランス語教師もしている。大学の音楽サークルで出会った友だち。


“語りかけてくる言葉”がある”

加藤(以下、か):「友だちのトモダチ。」って試みは2つ目的があって。1つはこれまで会ってきた人にインタビューして、もっと仲良くなろうってこと。もう1つはこれを読んでくれた人が、友だち(加藤)の友だち(インタビュイー)と友だちになってくれればいいなと思って。

志村(以下、し): すごくいいね。

か: ほんと? なんで?

し:なんか、人を通して人とつながるっていいと思うんだよね。僕の友だちもよく自宅で食事会をして、知らない人同士をつないでいるんだけど。媒介する人がいることの安心感からかな。とても楽しい時間なんだ。それをウェブ上でやろうっていうのはいいなと思うよ。

か:ありがとう!じゃあ、早速それっぽくやってみよう。

し:はーい。お願いします~。

か:この記事のタイトルを「ことばの水先案内人」にしたように、志村を紹介するときにフランス語は欠かせないのだけど。そもそも、何でフランス語を選んだの?

し: 大学入る直前に読んだ『星の王子様』に感銘を受けたこともあるんだけど、なんとなく字面が好きだったんだよね。縦線が少ない感じとか、文字の上についた点々(é )とか。

か:へえ。好きな文章とか見せてほしいな。

し:これは『星の王子様』で出てくる文章なんだけど…。
" Il y a des millions d'années que les fleurs fabriquent des épines. Il y a des millions d'années que les moutons mangent quand même les fleurs. Et ce n'est pas sérieux de chercher à comprendre pourquoi elles se donnent tant de mal pour se fabriquer des épines qui ne servent jamais à rien ? Ce n'est pas important la guerre des moutons et des fleurs ? "

か:うん。

し:  伝わるかな…。ドイツ語は名詞の頭を大文字にしなきゃいけないからゴツイ感じがするし、英語は「t」があまりに多くて。フランス語が一番しっくりきたんだよね。

か: そっか。志村は音楽が好きだから、フランス語の音が好きなのかと思ってた。文字もだったんだね。

し:  ああ、もちろん音もだよ。すっと入ってくるというか、肌になじむというか。今思えば、摩擦音が多い感じとか、母音がほどよく抜ける感じとかが好きだったんだと思う。きちんと勉強する前から、フランス語は僕にとって “語りかけてくる言葉” だったんだ。

か: “語りかけてくる言葉” か。 なんだろう、それいいね。

し: 僕はね、誰にでも “語りかけてくる言葉” っていうものがあると思ってるの。言葉っていうのは、外国語だけじゃなくて、音楽の言葉である楽譜も、身体の言葉である手話も言葉だと思うんだよ。

か: なるほどね。

し: 最近、加藤は手話やりはじめたよね。

か: そうそう。手話はやばいよ。すごい自由な言葉だなあって、新しい単語を覚えるたびに感動してる。

し: それ。それが“語りかけてくる言葉”なんだ。

か: そっか。語学をやるっていうと、まず英語ができて、その次に他の言語ができないとって思ってた。

し: 野球が苦手だからって、テニスができないことにはならないよね。だから英語の “できふでき”と、語学の素質はあまり関係ないと思ってる。現に、僕にとって英語は全然語りかけてこないし(笑)

か: そう聞くとほっとするわ(笑)

し: 言語の好みって、色の好き嫌いに似ているなとも思っていて。自分が着ると落ち着く色の服とかあるじゃない。そんな感じで、ゆるくとらえるのがいいのかな。

言葉は現実を見る目


か: 最初にフランスに行ったのは、1年生の春3月ぐらいだったよね。

し: うん。第二外国語の授業ではドイツ語を履修していたんだけど、友だちの紹介でフランス思想の西山雄二先生と知り合いになったんだよ。先生から2週間フランスで研修旅行があるって聞いて。それに誘われてもいないのに「行きたいです」って言って参加させてもらった。

か: そこからは早かったよね。

し: そうね。その2週間の研修中にもう留学のことが決まって、半年後にはフランスに行ってた。

か: 志村が留学している間のことって、あまり知らないんだけど。留学はよい選択だったと思う?

し: 語学学習って、花を育てるのに似てるなあって思ってね。

か: ほお。

し: つまり、花を咲かせるには “水をあげる” のと “陽を当てる” のが必要でしょう? 語学に置き換えると “水をあげる” のは単語や文法を覚えるとか自分でする努力で、“陽を当てる” のは環境だと思うのね。

か: ああ、わかりやすいね。

し: “水をあげる” のはどこにいても必要。で、“陽を当てる” のはなかなか大変なんだよね。フランス語を使う環境を整えないといけないから。その点、留学へ行けば日照時間24時間になる。それは自分の語学を磨くうえですごくよかったと思うね。でも、せっかくずっと日が出ているのに、水をあげるのを怠って花を枯らしちゃう人も多い。

か: うん。

し: あと、言語が現象をとらえるフィルターだ、っていうことを感じられたのもよかったかな。

か: 日本語とフランス語で現実のとらえ方が違うってことだよね。それって簡単な例はないかな?

し: たとえば、日本語で風邪を引いたときとかに「鼻水がとまらない」っていうでしょ。フランス語だと「J’ai le nez qui coule」って言うんだけど、逐語訳すると「わたしは流れる鼻をもっている」って意味になるの。

か: はは! とってもユニークだね。

し: 日本語だと「鼻水」がフォーカスされているんだけど、フランス語は「わたしの鼻」の状態を説明しているんだよね。

か: 現代詩みたいで、味わいぶかいわ。

し: 今度、鼻かんだときに思い出すよ(笑)まあそれはいいとして、僕がフランス語の勉強を通して一番よかったと思うのはこういう「日本語以外の視点をもつ」ことができたこと。

か: それ、よく言ってるよね。

し: 僕の塾の名前でもある「こもれび」って言葉は、英語にもフランス語にもないんだ。日本語でしか、一語で表現できない。

か: へえ~〜それは知らんかった。

し: だから、英語圏やフランス語圏では「木の葉越しに見える陽の光がきれい」とかいう表現になるかもしれないし、そもそも気づかないかもしれない。でも日本語では「木漏れ日」は一つの名詞として、みんなの頭の中に住所を得る。そう考えると、言葉は現実を知覚するのに一躍かっていると言えるし、他の言語がどんなふうに現実をとらえるのかを知るのは、その人が見る世界ごと変えることになると思うんだよね。

ピーマン嫌いにピーマンを食べさせるには


か: 志村が運営している語学塾こもれびって、教えるのは国語・英語・数学・フランス語で、小学生や中学生だけでなく20代から70代の人も通っているよね。とってもすてきな場所だと思うんだけど、どう紹介したらいいかな。

し: 最近は「ネイティブのいない語学学校・受験対策をしない塾」って言ってるかな。

か: おお。なんかいい説明の仕方だね。

し: 僕をフランスに送り込んでくれた西山先生から学んだことは、「人を驚かせないといけない」ということ。ショックを与えないと世界は変わらないから。これはビジネスでも同じだと思ってる。

か: それはいい教えだね。ただ…嫌だと思うんだけど、今の説明は消極的な定義のしかただったから、もう少し積極的な説明にならないかな?

し: うーん、そうね。平たくいうと「考える力をつける場所」にしたかったんだよね。

か: うん。

し: 考える力のある人って視野が広い人だと思うんだけど、「視野を広くする」って漠としているし、かなり難しい。それよりは「視野をもう一つもつ」方が現実的だし、視点が二つでもあれば二項対立の中から発展させて思考することができる。もちろん、二項対立にも欠点はあるけど、何かと何かの間で行き来をする、言い換えれば葛藤できることが考える力をつけるには大事だと思うんだよね。で、少しずつ上達するのを楽しみながら、強制的にもう一つの視点を養えるという意味で、語学はもってこいの方法なんだ。

か: なるほどね。

し: これはピーマン嫌いの子にピーマンを食べさせるのに似ているなと思っていて。オムライス(語学)を食べさせていたら、いつの間にかピーマン(考える力)を食べていた、みたいなね。

か: 既存の教科学習を使いながら、少しずついい毒を盛っていくみたいな感じだ。

し: あ、その表現いいね。そんな感じ。

か: 不粋な質問だけど、塾生のみんなは考える力を身につけていると思う?

し: うん。いい質問をぶつけてきてくれるよ。あえてすぐに答えを言わないようにしているから、一度考えるっていうくせができているかな。この前もこんなことが……。

か: さすがだね~。 間違えてもいいから言ってみるっていうくせのある人は強いなと思う。じゃあ、最後の質問です。これからやりたいことはありますか?

し: ないかな。ただ続けたいだけ、これを。

か: 志村らしいね。今日は長い時間つきあってくれてありがとう。これからも、いろんなことを話そう。

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