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正名僕蔵の“大運動会”(2006年8月30日)

1.大球ころがし

□ 登場人物
ガリレオガリレイ 正名僕蔵

□舞台設定
素舞台。裁判所という設定である。白い大玉を地球に見立て、裁判でガリレオが主張する場面。

□小道具
大玉(白)
教卓

-準備中-(仮)
○運動会のBGMが小さく掛かっている。ナレーションは正名の声。
ラジ 本日は、正名僕蔵の“大運動会”にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。まずはじめに、(ガリレオ・ガリレイによる)大球ころがしの部を行います。この競技に参加する方は、すみやかに準備をお願いいたします。・・・すみやかにお願いいたしますお。・・・すみやかにお願いいたします・・・すみやかにお願いいたします・・・。

正名、所定の位置につく。

(正名 はい、準備OKです。)?

徳尾、ホイッスルを吹く。

ガリレオ、白い玉を持って遠慮がちに登場する。

ガリレオ どうも、ガリレオ・ガリレイです。
・・・・・・。(キョロキョロして顔色を伺う)なんか、皆さんひょっとしてあんまりご機嫌がよろしくないというか。いえ、気のせいでしたら全然問題ないんですけども。その、私の発言がですね、あの、多少なりとも不快感を与えたということになるのであれば、それはあの、もう本当にそれは素直に謝りたいと思っております。ごめんなさい。

ええ・・・ええ・・・ええ。
ええ・・・ええ・・・ええ。

いや・・・ですから裁判長。あくまで私はしょっぼい、もうほんとしょっぼい科学者としての立場でぽろっと出ちゃったというかですね、確かにはい、発言したことは間違いありませんし、あの若干調子に乗って本に書いちゃったっていうのも、ええ。ええああーーいや、どうかな、書いちゃったっていうか、書いちゃってない書いてはない・・・ですね。はい。

ええ・・・ええ・・・ええ。
ええ・・・ええ・・・ええ。

あ、書く書かないの問題じゃなくて、私の考えそのものが問題なんじゃないかと。ああ、確かにおっしゃるとおりです。いや実は私も最初は正直すごいびっくりしたんですね。だって明らかに太陽の方が動いてるように見えるじゃないですか。それが観測を続けるうちにですね、「えええ、この地球がまわ・・・うそーー!」って。ええ、ちょっと待ってください。私今何も言ってないですよ、何も言ってないですよ!!

その・・・言い方があの、悪いかもしれませんが、ちょっと誤解されていると思うんですね。その、今回のことに関して言えば、宗教と科学っていうのは、これはもともと種類の違うものじゃないですか。違うものを同じ土俵にあげてどっちが正しくて、間違いでっていう議論がそもそも・・・。

ええ・・・ええ・・・ええ。
ええ・・・ええ・・・ええ。

いいからお前の考えはどうなんだと。ええ、ああそこがやっぱり問題なんですね。

私としてはですね、どちらも回っていて欲しいです。
ええ、ええ、ええ、すみません。はい、はい、はい・・・。じゃあ、あの正直に申しますと、やはり地球の方が若干こう、いい感じにですね。はい。でもすごい普段過ごしている程度ではもう、ほっとんど気づかないんですよ。もうゆっくり・・・ええ、ええ、もう回ってることがダメ。はい、はい、ダメ!ええ、ええ、ちょ、待ってください。ちょっと待ってくださいね。

ガリレオ、ボールを見つめる。

じゃあ・・・地球は回ってないですね。
あれ、だめ。だめですか。・・・ん。んん、なんで、ええ、顔って言われてもですね、いや、顔がふざけてるのはその、生まれつきというか、昔からお前ひょうきんな奴だとよく言われまして・・・ええ、じゃあ私はどうしたら良いんでしょうか。私はどうしたら良いんでしょうか。発言が悪いというから撤回したら考えが悪いと言われ、じゃあその考えを改めると言ったら顔がふざけてると言われ・・・。ダメならダメでこっちも言わせて頂きますけどね。・・・・・やめときましょうか!?・・・・・・あとにはひけませんね?はい。

そもそも地球が回ってるっていうイメージはご理解されてるんでしょうか。ええ。ええ・・・。分からない。じゃあ私が太陽だとして、みなさん地球に立ってると思ってください。・・・・・・私が太陽っていうのは問題ないですか。よろしいですか。今まで我々が信じてきたことっていうのは、つまりこういうことですよね。

ガリレオ、玉の周りを回る。

これは太陽が実際動いてますし、こいつも太陽が動いているように見えますよね。ところが逆に私は立ち止まったままで、地球が回っていたとしてもですよ、この人にしたら太陽が動いてるように見えちゃうんですよ。ほら、太陽がほら、沈んでいっちゃう。あーー沈んだ。あーー陽が昇った。・・・・・・ってね。わからない。全然分からない。ほら、ほら、こいつにしたら太陽が西に沈んで分からない。なんで?もうちょっと簡単な例にしましょうか?

ガリレオ、教卓の裏を下に降りる階段に見立てて降りていくマイム。

ほら、降りているように見えるのに、実際は降りてない。・・・・・・。すみません、違う、違うな。・・・これはちょっと喩えを間違えましたけどね。要するにですね、見た目でこうだと思っていても、それが正しいとは限らないんですよ。もちろん宗教は宗教の考え方でいいと思います。ただ、私は科学者として、あくまで科学的に事実はこうだと、みんなに知ってもらおうと思っただけなんですよ。・・・それがまずいのは分かってます。確かにこんなことを発表してしまえばあなたたちの信用はがた落ちになる。ただ、今回の件に関しては、私を一人ひねりつぶしたところで根本的な解決になるんでしょうか。これから先、私と同じような人間はたくさん出てくるでしょう。そのたびにあなたがたはひねりつぶしていくんでしょうか。それは不可能じゃないんですか。可能なんですか。現時点では可能。・・・・・・困ったな。・・・・・以上ですよ。・・・・・・軟禁ですか、禁固刑ですか、それとも死刑ですか。

突然笑い出すガリレオ。

アハハハハハ・・・。しかし私はこの裁判、すでに勝ったと思っています。アハハハ・・・勝った!!・・・やった!!

真顔に戻るガリレオ。

・・・・・・まだお気づきになりませんか。この裁判が開かれた事実は歴史に残ります。すると当時はいかに正しい主張が弾圧され、罰せられた時代であったかということが、後世に語り継がれていくわけです。そしてあなたたちがガリレオの科学に恐れを抱いていたことや、いかに無知であったということが、永久的に残ってしまうのです。どうですか。それすっごい恥ずかしいことじゃないですか。うわーー顔から火が出そうだ。・・・・・・今ならまだ、私のさじ加減でその辺は、どうにでもなると思って・・・(いるんですけど)

お。裁判の事実そのものを、消しちゃう。あら。あ、もう完全にもみ消しちゃうわけですね。あー、もう言ってしまえば私の存在自体も。あーなるほど、最初からなかったことに。あっらー。そうです・・・か。アハハハ・・・それはちょっと面白いことになってきましたね・・・。え、なんですか。え、あ、階段ですか。さっきの。

ガリレオ、階段を降りるマイム。

(階段を昇りながら)いやいや、これは後世に残さなくていいですよ。ガリレオといえばこれって、私いったい何者なんですか。もっといろいろ頑張ってますよ。まあ、近未来ギャグでエスカレーターっていうのもあるんですけどね、これは分からないですよね、はい。すいません。さあ、死刑にでもなんでもしてください。どうぞ。

・・・・・・え。なんですか。ええ・・・いや、エスカレーターっていうのは、あくまで私のイメージで現実にはないですよ、ないですけど、もし将来的に階段が動くようなことがあればこんな動きをするんじゃないかっていう、まあ単なる空想ですね・・・階段が動くわけないじゃないですか。・・・ええ・・・ええ・・・それは信じなくていいんですよ、こっち(地球)を信じていただければ。こっちは今、確実に動いてるんですから。

判決。・・・いいですよ、死刑でも何でも好きにしたらいいじゃないですか。・・・私は怖くない!!それでも地球は回ってる。それでも地球は回ってるんです!!どんな風に回っているか見せましょうか?あの、そこ道を開けてもらってもいいですか?・・・地球は見てください、こんな風に回ってるんですよ。こんな風に・・・・・・こんな風に!!そこちょっと開けてください!?

ガリレオ、大玉と共にはけていく。球がドアのところでつっかえる。

ガリレオ (呼び止められて)・・・はい!

徳尾、ホイッスルを吹く。
END


2.二人三脚


□登場人物
男 正名僕蔵

□設定
喫茶店。女と待ち合わせをしている。男は今日、プロポーズをしようと心に決めている。

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