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元気でいるか?

昔のことなんて基本的にはどうだっていいけどたまに思い出すことがある。


中学3年生の夏。塾に缶詰になり夏期講習を受けていた。1科目100分×5科目。休み時間はほぼなし。今考えるだけでも吐きそうになる。毎日塾に行き、家に帰り、宿題をして、泣いて、寝て、起きて、また塾に行く。そんなことの繰り返しだった。そんなある日、友達が私に言った。


「夏祭り行こうよ」

お盆前最終日も夏期講習があった。そのあと、一緒に徒歩5分ないくらいの距離でやっている祭りに行こう、という旨の誘いだ。勉強しすぎておかしくなりそうだった私が断るわけがない。ノリノリでOKした。当時仲が良かったグループの他の2人の友達も誘った。しかし!当時通っていた塾では夏の祭り参加禁止、長期間の帰省禁止、制服での登塾、途中退出厳禁など細かくて厳しいルールがいくつもあった。それを、みんなで破るのだ。ワクワクしないわけがない。中学生、まだ世の中をそんなに知らない私たちにとっては大冒険だ。それからしばらくはみんな緊張感があった。

あっという間に祭り当日。
悪いことをする自覚があった私たち。私の通っていた中学校は名札を縫い付けるタイプの制服だった。流石に補導されたくないと思い、授業中こっそり名札の糸を外していた。授業なんてひとつも聞いていない。成績順の席だったのが救いだ。なかなかいい席だった。みんなで悪いことをするために当日はいろんな工夫をした。携帯電話を預けなければいけないルールだったが全力で無視した。授業中に他のクラスにいるメンバーに計画の詳細をLINEしていた。(クラス分けはS、A、B、C、Dの成績順で、私ともう1人の友達がS、残りはAとCに1人ずつだった。CとDの教室はフロアが違う。)他にはお昼休憩の20分の間に防犯カメラに映らない裏階段で何分にどこに集合するとか、最低限祭りでやりたいことは何かとかを話し合った。

19:30すべての授業が終わり開放される時間。私たちは終礼が終わった瞬間に教室を飛び出した。真面目な人ばかりの塾だったからルールを破る人は少ない。みんなため息をついて翌日からのお盆課題に向き合おうとしていた。そんな中、全速力で満開の笑顔で教室を出る私たち。隣のクラス、下の階のクラスの友達も同様だったと思う。先生たちにバレないルートで塾が入っているビルを抜け出し、一目散に祭り会場へと向かった。教材がぎっしり詰まった重い鞄なんて気にならなかった。

念願の祭り、まずは食だ!と、屋台へ向かった。何を食べたかは覚えていないが、世界で1番美味しかった。その後も食べ物やら金魚掬いやらを楽しんだ。時間とは儚く、あっという間に消え去ってしまう。

祭りが終わるタイムリミットは21時。花火が上がるのは21:10だった。私たちは楽しくて楽しくて仕方がなかった。今まで見たことないような笑顔をしていた。

もちろん祭りには同じ学校の友達が何人もいた。彼らは塾に行っていない。夏の自由が私よりも保証されていた。なんだか悔しかった。真っ青な空、ギラつく太陽の下、彼らは毎日遊んでいた。エアコンガンガンの部屋でずっと鉛筆と教科書の文字に向き合っていた私とは真逆だ。なんだか虚しくなっていた。けれど一緒に回っていた友人たちも同じ気持ちだと思うと少しだけ心が明るくなった。

そんな中、多分21:00だったと思う。母親から電話が来た。そうだ、私、母に位置情報を常日頃から見られてるんだった。出てみると、あと5分で迎えに行く、とのこと。花火、見れないじゃん。大冒険、終わっちゃう。
同じくSクラスの友達、母親からLINE。「今すぐ迎えに行く。」

この時点で2人の離脱が決定。残りの2人には本当に申し訳なかった。

儚くも、大冒険は終わりを告げた。
ああ、明日からはお盆課題。お盆が終わればまた夏期講習の毎日。

大冒険、楽しかったなぁ。


今、そのメンバーの誰とも連絡を取り合っていない。SNSは1人だけつながっているが他の人たちは全く何も音沙汰ない。


あの頃、一緒に大冒険をしたみんな、元気でいるか?

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