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【大学数学】論理のあれこれ「∀すべて」「∃ある」をマスターせよ

命題と論理

極限や実数などあらゆる数学の事柄は定義、命題などによって現実な取り扱いがされています。その厳密性を支えているのが、曖昧な言葉を使わない命題と論理です。
まずは大学数学を学ぶ第一歩として最低限の論理学に関する知恵を紹介したいと思います。

「∀すべて」「∃ある」

大学数学を学ぶ上で最初の壁の1つになるのが「∀すべて」と「∃ある」を用いた言い回しです。
まず、次の2文の違いを見てみましょう。

(1) すべてのドアは開く。
(2) あるドアは開く。

(1)は言葉の通りすべてのドアが開くという意味になります。
(2)は必ずしもすべてではなくどれかのドアが開くというわけではありません。ただどれか1つでも開くドアが存在することになります。

数学における定義や命題では「すべての」「任意の」「ある○○」「ある○○が存在する」書かれることも多いです。
実際にこれらの言葉が使われている定義がこちらです。

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数列$${\{a_n\}_{n=1}^{\infty}}$$が上に有界であるとは以下を満たすことである.
ある$${M\in \mathbb R}$$が存在して,任意の$${n\in \mathbb N}$$に対して$${a_n\leq M}$$が成り立つ.
$${\exists M\in \mathbb R,\forall n\in N(a_n\leq M)}$$
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論理記号$${\exists,\forall}$$を用いた定義も書いてみました。
論理記号で書くとスッキリした印象になります。
ただ、先ほどの(1)(2)のように簡単な文だと分かりやすいですが、上記の定義のように「任意の・すべての」「ある」が混ざった文だと最初は理解に戸惑うでしょう。
例えば、以下の文を考えてみます。

(3) すべてのドアに対して、それを開ける鍵が存在する
(4) ある鍵が存在して、それを使うとすべてのドアが開けられる。
(5) ある鍵が存在して、それを使うとあるドアを開けられる。

(3)は自分が住んでいる家を想像してもらえればよいでしょう。例えばそれぞれの家のドアは何かしらそのドアを開ける鍵が存在しますね。
(4)はある鍵がどんなドアでも開けられてしまうという、恐ろしい鍵になってしまいますね(ゲームでそんな鍵あったような…笑)
(5)はある鍵を発見したけど、その鍵がどこかしらのドアを開けられる(でもどのドアかは分からない)という感じでしょうか。

このように「任意の・すべての」「ある」の使い所が違うと全く意味が違ってきます。他のことにも言えることですが、身近なものや具体的な数字で考えると理解も深まりやすいでしょう。
定義では、もう少し複雑な文になるものもあります。

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数列$${\{a_n\}_{n=1}^{\infty}}$$が実数$${α}$$収束するとは以下を満たすことである.
任意の$${ε}$$となる実数に対して,以下を満たす$${N\in \mathbb N}$$が存在し、$${n\geq N}$$となる任意の$${n\in N}$$に対して$${|a_n-α|<ε}$$が成り立つ.
$${\forall ε>0,\exists N \in \mathbb N,\forall n\geq N(|a_n-α|<ε)}$$
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有名な極限の定義ですが、これが大学数学の最初の壁の1つになるでしょう。最初からここまで複雑な論理式が分かれば上々です。
いまいちピンとこなければ、また身近なもので文章を自分で組み立てて論理に慣れておくとよいでしょう。

(6) すべての家に対し、ある鍵が存在して、それを使うとその家のすべてのドアを開けられる。
(7) ある鍵が存在して、それを使うとすべての家に対し、その家のあるドアを開けられる。

命題

数学における命題とは「真偽の判断の対象となる客観的事柄(主張)」です。
例1)イルカは哺乳類である.
例2)0.5は0.1よりも大きい数である.
例3)3×2は5である.
「0.1は小さい数である」「イルカは可愛い」など主観が入った主張は命題とは呼びません。例2は真で例3は偽な命題になります。

否定

ここからは命題を記号$${P,Q,R,\cdots}$$と表します。

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定義

$${\neg P}$$($${P}$$の否定):$${P}$$と真偽がちょうど逆になる命題.
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証明には否定を用いることもできます。例えば、ある命題が偽であることを示すにはその否定が真であることを示すという証明方法もあります。
例4)「0.1は0.5よりも小さい数である」の否定は「0.1は0.5以上の数である」

かつ,または

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定義

$${P\land Q}$$($${P}$$かつ$${Q}$$):$${P}$$と$${Q}$$の両方が真のときのみ真
$${P\lor Q}$$($${P}$$または$${Q}$$):$${P}$$か$${Q}$$のどちらか一方が真のときのみ真
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例5)「6は2の倍数,かつ3の倍数」は真

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定理
$${P,Q}$$を命題とするとき,次が成り立つ.
(1)「$${P}$$かつ$${Q}$$」の否定は「$${\neg P}$$または$${\neg Q}$$」である.
($${P\land Q}$$の否定は$${\neg P\lor \neg Q}$$)
(2)「$${P}$$または$${Q}$$」の否定は「$${\neg P}$$かつ$${\neg Q}$$」である.
($${P\lor Q}$$の否定は$${\neg P\land \neg Q}$$)
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例6)
「$${x>2}$$かつ$${y\leq3}$$」の否定は「$${x\leq2}$$または$${y>3}$$」
「$${x>2}$$または$${x\leq-3}$$」の否定は「$${-3 < x\leq2}$$」

すべて,ある

変数$${x}$$を含んでいる命題を$${P(x)}$$で表す。

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定義
(1)$${\forall xP(x)}$$:すべての$${x}$$に対して$${P(x)}$$が成り立つ.
(任意の$${x}$$に対して$${P(x)}$$が成り立つ.)
(2)$${\exists xP(x)}$$:ある$${x}$$が存在して$${P(x)}$$が成り立つ.
($${P(x)}$$が成り立つような$${x}$$が存在する.)
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定理
$${P(x),Q(x)}$$を変数$${x}$$についての命題とするとき,次が成り立つ.
(1)「すべての$${x}$$に対して$${P(x)}$$が成り立つ」の否定は「ある$${x}$$が存在して$${\neg P(x)}$$が成り立つ」
($${\forall xP(x)}$$の否定は$${\exists x \neg P(x)}$$)
(2)「ある$${x}$$が存在して$${P(x)}$$が成り立つ」の否定は「すべての$${x}$$に対して$${\neg P(x)}$$が成り立つ」
($${\exists xP(x)}$$の否定は$${\forall x \neg P(x)}$$)
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例7)
「すべての実数$${x}$$に対して$${x^2\geq1}$$が成り立つ」$${\forall x\in \mathbb R(x^2\geq1)}$$
この命題の否定は
「ある実数$${x}$$が存在して$${x^2<1}$$が成り立つ」$${\exists x\in \mathbb R(x^2<1)}$$
例8)
「ある実数$${x}$$が存在して$${x^2=-1}$$が成り立つ」$${\exists x\in \mathbb R(x^2=-1)}$$
この命題の否定は
「すべての実数$${x}$$に対して$${x^2\neq-1}$$が成り立つ」$${\forall x\in \mathbb R(x^2\neq-1)}$$

ならば

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定義
$${P\to Q}$$($${P}$$ならば$${Q}$$):
「$${P}$$が真」のとき「$${Q}$$も真」のとき真
「$${P}$$が偽」のとき「$${Q}$$も真」でも「$${Q}$$も偽」でも真
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この定義を表でまとめると以下のようになります。
(この真偽をまとめた表を真理値表と呼びます)

$$
\begin{array}{cc:c}
P & Q & P\to Q \\
\hline
真 & 真 & 真 \\
真 & 偽 & 偽 \\
偽 & 真 & 真 \\
偽 & 偽 & 真 \\
\end{array}
$$

この定義&真理値表は「PならばQ」は「PであってかつQでないものは存在しない」ということを約束していることになります。(2行目のパターンの禁止)
例えば、
P:$${x}$$は自然数である
Q:$${x}$$は整数である
の2つの命題で考えてみると
1行目の場合、自然数は整数なので「PならばQ」は真になります。
2行目で考えようとすると、自然数であって整数でない、というのは有り得ないでしょう。
3,4行目の場合、Pが偽であるときにQの真偽は「PならばQ」の真偽には影響を与えていないので「PならばQ」自体は偽になりません。

対偶

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定義
命題$${P\to Q}$$に対して命題$${\neg Q\to \neg P}$$をその対偶と呼ぶ.
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定理
命題$${P\to Q}$$とその対偶$${\neg Q\to \neg P}$$の真偽は等しい.
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