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6ヵ月で2500km歩いてモンハンNowを遊んだ感想

このゲームの一番の驚きは、狩猟体験があまりにもモンハンだったことだ。

家庭用ゲーム機のシリーズでは、両手の指を休ませることなくフル稼働させ、長いときには数十分とかけて1頭のモンスターと対峙するゲーム。それを『指1本で操作できる』『75秒の狩猟時間』という制約のなかで再現しようとすれば、見た目がモンハンの狩猟を"模して"いるだけの別の遊びになってしまうようにさえ思われる。しかし実際にプレイしてみると分かるように、その狩り心地、そして日々の狩猟生活のすべてが、まさに「モンスターハンター」そのものなのである。


2023年9月14日にグローバルリリースされた『Monster Hunter Now』。位置情報ゲームとハンティングアクションという異色の組み合わせがみごとな融合を果たしている本作は、幅広い年齢層と属性のプレイヤーから支持され熱狂を生んでいる。今回の記事では、モンハンシリーズの累計プレイ時間が10000時間を超える筆者の「モンハンファン」としての視点から、感想を語ってゆく。


執筆時点でのバージョンは73.1であり、今後のアップデートとともにコンテンツは改善・追加されていくことを留意いただきたい。

かつて駆け出しハンターだった自分との再会

まずなんといっても面白いのは「簡単に操作できる」からといって「簡単に討伐できるとは限らない」ところ。「シンプルであるがゆえにプレイヤーの手腕が反映される余地もなく勝ててしまうのではないか」といった心配はいっさい無用だった。というのも、後述するように難易度のデザインが巧妙で、遊び方しだいでは比較的序盤のうちからいつでも、プレイスキルが高度に要求される環境に身を置くこともできるからだ。

ザシュザシュと片手剣を振るってモンスターを蹴散らしていくプレイ初日の★1も序盤。ドスジャグラスもクルルヤックもあまりに可愛いものだ。赤く発光する攻撃の予兆を見たらモンスターの正面を避けるようにころりと回避し、そのまま何も考えずに画面を連打してコンボを放っているだけでよさそうである。滞りなく進行するチャプター。ところが慢心していたのも束の間、途端に雲行きが怪しくなってくる。

ちょっとでも、ほんのちょっとでも、自分より格上のモンスターと戦おうとするものなら「裸でマスターランクのクエストを遊んでいるんじゃないか」と錯覚する難易度にまで急変してしまうのだ。あまりにも多すぎるモンスターの体力。そして一度でも被弾すると力尽きるほどの手痛いダメージ。

もちろん、装備をきっちり整えて万全の態勢で挑めばこのかぎりではない。しかしこれが現実的に不可能な壁としてではなく、プレイスキルでギリギリ突破できるかもしれないと思えてしまう絶妙なラインで提示されるのが憎いところだ。いま狩ったっていいんですよ。パオウルムーのそんな囁きが聞こえてくる。挑まないわけがない。

そうして自分で選び取った狩猟は、いつだって文字通りの「死闘」になる。モンハンで赤く点滅するタイマーなんて何年ぶりに見たことだろうか。残り時間数秒で仕留めたときのカタルシスたるや。モンハンシリーズを始めたばかりの頃、ベースキャンプでアイテムの補給もできない時代に、持ち込んだすべての回復薬をとうに飲み尽くし、時間切れ間近のタイマーを何度も確認しては、なかば祈りながらも震える手で立ち向かっていたあの瞬間を思い出す。

この75秒という時間は、50分のクエストを圧縮したものではない。まさにあのとき万策尽きてどうしようもなくなった「48分45秒」からスタートする、等倍の75秒だ。過去の自分が握りしめていたコントローラーを十数年越しの自分がそのままバトンタッチして受け取っているような、不思議な懐かしさを覚えた。


手に汗握る、至高のハンティングアクション

操作が簡単であることは紛れもない事実。指1本で遊べていることが不思議でならない。タップとフリック、長押しの組み合わせだけで、どの武器種もそれが本来持つ多彩なアクションをかぎりなく直感に沿って繰り出せるのである。特にチャージアックスを触ったときには驚いた。ギミックの複雑さは本家でもトップクラスの武器種だが、"モンハンNow での操作方法"を教わらずとも、何から何まで思い通りに挙動が再現されるのだ。

ハンターの移動にも適度なアシストが掛かっており、モンスターとの間合いを保ちやすい。しかしこれは逆に言えば「距離を置いていったん態勢を整える」といった白紙に戻すターンが与えられないということでもある。ひとたび狩猟が始まればプレイヤーは「相手の攻撃をどのように躱し、どのように反撃するか」という部分に最初から最後まで向き合わなければならない。

攻撃をするのも簡単、回避をするのも簡単、しかしそれをモンスターとの掛け合いにどう組み込むか。入力のタイミングはそれなりにシビアだ。挑戦と失敗を繰り返しては「自分なりの正解」を少しずつ掘り当て、丁寧になぞっていく過程は、闘技場でのタイムアタックを思わせる。


終わることのない素材集めの旅

強敵を倒すためのアプローチとして「自分の立ち回りに磨きをかける」というアクション面で解消可能な部分はきちんと幅を持って残されつつも、やはりソシャゲということもあって、強さを得るための手段としては「武器や防具の強化」の比重が圧倒的に大きい。強化の仕組みはモンハンシリーズと同様、モンスターを狩ることで入手した素材やゼニーを用いて行う。

コンシューマと決定的に違うのは、武器や防具が『完成しない』ことだ。いや、実際にはちゃんと最終強化というものは存在していて、完成を迎えることは可能ではあるのだが、それが途方もなく天文学的な道のりなのである。装備の強化を進めるたびに、要求される素材とゼニーは桁違いに跳ね上がる。このゲームにおける素材集めは、例えるなら花の種を植えてジョウロで水をやっているような感覚に近いかもしれない。

これはある意味で新鮮で、私は好きだった。というのもモンハンシリーズのコアなユーザーであればあるほど、コンシューマのタイトルにおいては、何もかもが枯渇しているストーリー環境で泥臭く素材を集める工程など瞬く間に通過(あるいは"消費"と表現したほうがいいかもしれない)してしまうからだ。

モンハンNow における狩猟は、けしてそれが目的だけになることはなく、常に手段でもあり続ける。「モンスターを狩って武器を作り、さらなる強敵に挑む」という狩猟生活の原体験とも言えるサイクルが、見通せないほど遥か遠くまで続いているのである。

「ジンオウガを狩るためにレイギエナの武器を作りたいが、そのレイギエナを狩るためにリオレウスの武器も作りたい、でもリオレウスを狩るためにはジンオウガの武器が必要で…」。毎日が装備強化のデッドロックの渦中にあって、はてさてどこから打開したものかと悩み、マップに目当てのモンスターを見つけたとき、歩くという行為への原動力は最大になる。モンハンNow を片手に最短距離で目的地に向かうことはもはや不可能に近い。


プレイヤーにカスタマイズされる狩猟の世界

「生粋のハンターも苦戦するほど難易度の高いやり込み前提のゲームなのか?」というと、それは明確に否定できる。モンハンNow はシリーズ経験者のプレイヤーに対しては未だかつてない究極的な難しさを提供しつつも、同時に初心者にとっては最もやさしく狩りやすいモンハンであると言えるだろう。これが両立しているのはなぜか。

モンハンNow では、プレシーズンストーリーをクリアした時点ですべての要素にアクセスできる。以降はどれだけストーリーを周回しても新しい要素が増えることはない。モンスターの顔ぶれも変わらなければ、ラスボスなんてのもいない。変わることといえばマップに出現するモンスターの強さと装備の強化可能なグレード上限のみ。

より手強いモンスターと緊張感のある狩りをしたい、より強い武器を所持したい、という純粋な欲求から自分自身の手で緊急クエストの門を叩いたときに初めてーあるいはそのたびにー要求されるアクション精度や強化に必要な素材数だけが跳ね上がったもう一回り大きな世界にプレイヤーは放り込まれる。

モンハンNow には良い意味で"先に進むべき必要性"がない。自分が心地良いと思える環境にすっぽりと収まって狩りができるのである。

このゲームになにか"ゴールのようなもの"があると捉えるなら、モンハンに親しみのあるプレイヤーや時間とお金をたっぷり使えるプレイヤーのほうが有利ではあるかもしれないが、まさに「今」という時間を切り取るのであれば、全員が全員、自分の実力より少しだけ格上のモンスターと対峙して、同じくらい楽しく苦戦しながら狩りをしている。SNSの発達した現代においても、他者との比較をあまり意識することなく、みんなで同じ景色を見てそして楽しいと言い合える、そんなゲームである気がした。HR は飾りとよく言われるが、モンハンNow においては攻撃力だって飾りなのかもしれない。


この街のどこかにベースキャンプは建っていて


都会に出るとたくさんのハンターがいて、マルチプレイを呼びかける『一狩り行こうぜ』の掛け声で賑わっている。特に大型の施設や駅などでは、人々が流動的に出入りしては、さながら商人のように周辺のモンスターを引き連れてくるので、まるでそれ自体が一つの巨大な集会所のようでもある。

「さすがに家の周りには遊んでいる人いないだろうな」と思いながらモンスターの狩猟に挑もうとして初めて『近くのハンター : 1』を見たときの、ちょっとした感動も忘れていない。そこは1000万ダウンロードを侮るなかれ、当然近くに居てもおかしくはないのだけれど、インターネットや対面のそれとはまた少し違った「人がいる…!」という感覚には不思議な温かさがあった

位置情報ゲームとしては、リリース前に謳われていたように地域による格差はなるべく少なくなるように作られている。これまで6つの府県を練り歩いてきたが、どこにいても、けして広くはない行動半径で同じ遊びを体験できる実感はあった。『どこでも遊べる』というビジョンは大切にされているように思う。

その一方で、コンセプトと実態が大きく乖離していると感じる点もある。そのひとつが大連続狩猟だ。通常のグループハントとは異なり、大連続狩猟では参加者全員が特定のスポットの周辺に同時に集まり、マルチプレイを前提に体力が固定された大型モンスターを協力して狩猟していく。その実装意図として公式サイトには『ハンターのみなさんに、いままでより一体感を感じていただけるように、近い距離感で一緒に遊んでもらいたい』と書かれているが、これが実現しているとは言い難い。

大連続狩猟自体が上級者向けのマネタイズの柱となっている(そこでしか得られない素材がある)こともあって、課金をしない場合はリキャストに3時間かかるなど単純な接触機会が少ないことに加え、画面内に収まる範囲だけでも潤沢にスポットが用意されているため、多くのプレイヤーは「1人でもどうにか撃破できる」低難易度のものを選んで手短に狩猟を終わらせてしまうのである。先述した『どこでも遊べる』つくりが裏目に出て悪循環に拍車をかけてしまっているのだ。

位置情報ゲームとして「場所性」をどこまで取り入れるか、あるいはどこまで排除するかは、モンハンNow が抱える最も大きな課題のひとつだろう。究極的に均してしまうと移動そのものへの魅力が失われ、不便さだけが浮き彫りになった1人用のゲームになりかねない。一方で、大きくコントラストを付けると地域やプレイヤーを選ぶことになってしまう。

フィジカルにはひと昔前のゲームセンターで起こっていたような「同じ空間での見知らぬ人との偶発的な交流」が、街中のいたるところで、それもオンラインとオフラインのちょうど中間のような距離感で誘発できれば、それはまたモンスターハンターのマルチプレイとして全く新しい体験になるに違いない。これは今後のモンハンNow に期待したい点である。



モンハンNow を始めて、日常生活の中でただの"移動"でしかなかった時間に色が付いたような感覚があった。家を飛び出すとそこには森林が、砂漠が、沼地が広がっている。想像していなかった変化は、目覚ましの時刻が早まったことだ。なにしろどこへ向かうにせよ、モンスターが闊歩するフィールドを「素通り」するわけにはいかないのだから。

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