審査してきました:おはなしを書くこと6

こんにちは、くぼひできです。売れてない作家をやっています。ジャンルは児童文です(児童文学というほうが一般的です)。

創作論の6つめ。今回は公募原稿の審査について。下読み選考視点でどう読んでいるかを書きます。

きょうは地元広島市の文化財団がやっている「市民文芸」という、隔年開催の文学賞の審査員をしてきました。
https://compe.japandesign.ne.jp/hiroshima-bungei-2021/(サイト「登竜門」へのリンク)。

小さい賞です。応募数も少ないし、プロにつながる賞というものでもありません(とはいえ、児童文学部門ではここで受賞した人が3人、出版までこぎつけています。わたしもそのひとりで、20数年まえに何年か連続で受賞しました)。
 部門があって、現代詩、短歌、俳句、川柳、エッセイ、小説、それから児童文学。この児童文学部門で、これまでに4回審査しました。次回は別の方にバトンタッチ(もしかするとまた4年後にするかも)。

また、この賞以外に、これは名称は言えないんですが、応募数の多い企業主催の賞で下読みをしています。
 企業賞は完全下読みで、全体3000作くらいのうち、ひとりで500作くらいを読むんですね。原稿用紙10枚ぐらいを数日で読みます。500作から12作程度にしぼりこみ、さらにほかの下読みの5人が読んだ12作を読んで(だからさらに60作ていど読む)、全60作から40作くらいにしぼりこんで最終選考に送り出します。

それと比べて、きょうやった広島市民文芸は応募数が少ないので、下読み無しで全部読みます。といっても100作いかないから、企業賞に比べれば楽です。
 楽なんですけど、でもやっぱり「ダメな原稿」というのがくるんです。今回の記事は、「ダメな原稿にしない方法」が主眼です。

さて、下読みのときにするの次の5つ。

1)規定外をはずすこと
2)読めない原稿をはずすこと
3)文章になってないものをはずすこと
4)筋が通ってないものをはずすこと
5)おもしろくないものをはずすこと

おもしろいのを選ぶのも大事なんですが、まずはこうしたものを外すのがお仕事です。

1)規定外は、枚数オーバーとか、指定書式と違うとか。どんなにおもしろくても、指定されたものでなければ、こういう人はやりとりできなさそうって思っちゃう。出版に至る賞であれば、編集者とのやりとりというのが出てくるわけです。直しの指示とか。それが伝わらないのであれば、ちょっとたじろぎますよね。
 前に見かけたのが、原稿用紙のマス目を無視して、筆ペンで1行あたり10~13字、1枚あたり8~15行くらいで自由に書いてらっしゃったもの。短いので一応読みましたが、まあ落ちますよね。

2)読めない原稿は主に手書き原稿ですね。うすーい鉛筆で書いた字で読めないとか、流麗な達筆というかミミズののたくったような字も読めないし、乱暴な筆致も読めません。文章以前に、文字が読めないというのはかなりのマイナスです。
 ワープロ原稿も増えたし、最近はWebのフォーマットからの投稿もあるので、こういうことは減りました。でもまだある。きょうの賞は小さい地方の賞ということもあって、手書き原稿が6割でした。
 ワープロだったら大丈夫かと言うと、原稿用紙のマス目に入るように印刷している人とか、原稿用紙のマス目ごと印刷している人がいますね。あれ、読みにくいんですよね。
 なぜかみんな、マス目ひとつひとつの中でも余白を作っちゃって、字と字のあいだがあいちゃう。あれは読みにくいんです。もちろん、書式としてそれが指定されている賞もあるし、これで落ちるということはないんですが、読みにくいです。
 通常は書式(文字数x行数)さえ合っていれば、マス目・罫線はいりません。字はふつうの状態でいい。
 20字x20行でA4用紙に印刷すると、余白がかなり空くから不安になる人がいるんですが、むしろ余白は大きくていいです。20x20だったら文字も大きくていいです。12~14ポイントの文字であれば、目にもやさしいですね。30字x40行だと10ポイントくらいでしょうか。それなら少し太めの書体がいいかも(ゴシック体はあまりおすすめしません。ゴシックはそれ自体に注意を引く意味があると思ってください)。

3)文章になってないものは、読みはじめてすぐわかります。文章というのはその人の癖ですから、書き慣れてないとすぐに出てきます。しゃべり言葉と書き言葉の区別がついてない人の文章にも特徴があります。
 すぐ落とすわけではありませんが、あまりにひどいと作品として体をなしてないわけですから、けっきょく落ちてしまいます。
 特徴としては、

・1文のなかで、主述がねじれている
 例:彼はパソコンのスイッチを入れて、コーヒーを温めていた電子レンジの音が鳴った。
・読点(、)が変な位置にあって、意味が読み取りにくい
 例:彼は、刀を手に取ると濡れた、柄をにぎりしめた。

上記の2例、無い無いと思うでしょうが、よく見かけるんですよ。主述のねじれは、書いてる本人はそのシーンがわかっているから気づかないんですよね、たぶん。
 読点はふつうはあまり使わなくても書けるのです。ただ、長い文章なので区分したいときや、強調したいときに使うと効果的なので入れちゃう人がいますが、入れるなら入れるでルールがありますよということです。

そのほかに
・句点(。)がいつまでもこない(ねじれのもとになる)
・記号の使い方がわかっていない
というのもあります。とくに記号は「」と()の使い分けとか、俗に三点リーダと呼ばれるもの(…… のことウェブだとピリオド6つに見えますが、通常はマス目1つの真ん中に3つの点が入ります)を、中黒を3つ連ねるとかしています(・・・ にする)。
 これで落ちることはありませんが、使い分けが変だと意味を読み違えたりしますね。
 ほかに擬音などに「」をつける人もいます。

あと、作文の基礎もここです。
 段落の最初(改行の次の行)は1文字下げるとか(インデントといいます)、!や?のあとはスペースをひとつあけるとか、…は2つ続けて打つとか。
 これで絶対に落とすということはないんですが、作文の基礎ルールってかんたんなパズルのようなもので、意識せずにできるようになっていたほうがいいし、それくらいの能力がなければ、全体の推敲や構成見直しなんてとてもできないと思います。
 誤字脱字は程度問題です。ちょっとくらいだと大丈夫です。あまりに多いと、この人はたぶん「直せない」と思っちゃって落とすかも。衍字(えんじ:脱字の反対で字が多い)も大丈夫です。
 最近よく見かけるのは、ワープロの弊害ですが、一括置換での変なミス。たとえば人物名を変更して全部直したつもりなのに、うまく直ってなかったりする。とくにあるのが「あだ名」が直ってない。哲夫を大吾に変えたとして、哲っちゃんというあだ名が直ってないとか。で、直しで見落とすとか。気をつけましょう、わたしもやらかしたことがあります。

この数年増えてるのが、ネット投稿の弊害ですかね。このnoteの基本書式もそうですが、改行すると1行空きますよね。これは英文的なパラグラフ(いわゆるpタグ)として機能しているのですが、これ、日本語だと壊滅的です。
 こんなふうに行のあかない改行をすることもできるのならいいんですが。
 で、よく見かけるのが、地の文が終わったら1行空き、セリフの前後で1行空き、というやつです。今回すごかったのは、この1行空きを削ると70行減るというほど空けてたものでした(原稿用紙に直すと3枚半です)。
 ネットではいいですが、刊行されている小説にそういうのって、かつてのケータイ小説以外はないと思うんですよね。あまり得策ではありません。

こっからがようやく本文の内容です。

4)筋が通ってないものは、長編公募なんかでもよくあると思います。1次選考にも残らないから人目につかないだけですね。
 よく見かけるのが、視点が変になっちゃうこと。
 視点変更という構成をきちんとできている作品は別なんですが、そうじゃないものもあります。短いものだと、エッセイっぽく書いている人とかに多いミスです。最初は「彼女は」とか書いてたのに、途中で「私は」になってしまうとか。
 無さそうと思うでしょうが、あるんです。
 視点については、構成のできてない変更はやはりマイナスです。最後の一枚で急に別の人物の心理に入ってっちゃうとか。一人称だったのに、神視点になって「〇〇がxxするのは、また別のお話」とか書いてしまう(このパターンは、視点変更がないものでもしょっちゅう見かけますが、あまりやらないほうがいいかな。書く方には新鮮でドヤ感もあるでしょうが、読む仕事の人は飽きているのです)。

視点変更で、これは映像文化からの流入だと思うのですが、数行ごとに登場人物のあちこちの一人称になる人もいます。カットバック的な感じでしょうか。マンガだとありなんですよ。コマのなかにその人物がいて、セリフなりモノローグなりがある。でも、文章でそれをやるとかなり読みづらい。三人称の多元的な視点であればできますけど、なんか古い小説のようですし。
 文章は、とくに投稿作は、視点を一つに固定しておいたほうが無難かなと思います。

5)おもしろくないものは、もうここでは書ききれません。上記の4つをある程度クリアして、難はあるけど読める作品になっていたとしても、やっぱりおもしろくないと落ちるんですよ。当たり前なんですが。
 それとそこそこおもしろいんだけど、12作選ぶうちの13番めに入ったせいで落とすしかなかったとか。
 だから、やはりおもしろくないといけない。

1行目から目を引き、最初の段落で引きこまれ、1枚目がおもしろく、次をめくりたくなる。
 枝葉末節も適宜ちょうどよく、人物のキャラクターもわかり、感情も明確に伝わってきて、シーンもしっかり脳内で映像化できる。
 最後もちょうどよいところで終わる。

これに尽きるのですが、それらは別の記事で書いていきます。ただ、次の点は大事だと思っています。

・お話の目的が序盤で判明し、最後までその目的に向かう
・寄り道しても、その寄り道が途中または最後に意味をもつ
・全体およびプロットおよびシーン内に起伏・動静・緩急がある
・登場人物の行動がはっきりわかる
・セリフが生きている
・必要な描写がきちんとなされている
・お話がきちんと終わる

といったところでしょうか。

今回の審査は、ふたりで行いましたが、前回と同様に紛糾することなく終わりました。ふたりが選んだ1位がおなじ、それ以下もある程度の異同はあるもののほぼ同じでした。
 ちょっと内訳ですが、40作品程度だったんです。このうち30作が上記の4つに引っかかりました。小さい賞ですらその割合。大きな賞だともっと増えます(こういうのはピラミッド型で、裾野が広くなるとそれだけダメなものが増えます)。

投稿するときは、シビアに読んでくれる人を探すのがいいと思います。シビアに見る視点は2つ。ひとつは書式。ひとつは内容。
 まずは書式を他人の目で見てもらう。本を読み慣れている人がいいですね。出版されてる本のルール通りにやるのが一番安全なのです。個人ルールで「これこそが我が作品のアイデンティティ!」ってやってしまうと、やはり難ありなのです。
 これだけでもかなり違いますよ

下読みはある程度機械的に処理する審査ですが、しかし同時に人間が作品を読むという審査でもあります(最終審査は、機械的な処理をすまされた原稿だけが届くものです)。

投稿されたものは全部読む。

読むけど、ダメなものはやっぱりダメなんです。

書式の基礎を無意識でできるよう頭に入れて書くこと。
読みやすさを考えて書くこと。
そのうえで面白さを追求すること。

逆はありません。面白いかもしれないのに、読みにくく、基礎ができていないものは、出版に値しないと判断されてしまうのです。

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