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死相検知

死相と言う言葉を良く聞く

死ぬ直前の人間に現れると言うもの

俗に言う霊感のある人物がそれを見て、他人の死を予知するものだ

私は長年人類の寿命を伸ばす研究に明け暮れていて、知識の1つとして死相を知っていた

ただ歩現実的なものとしての見解を持っていた

しかし、ここに来て死相のメカニズムを解明し、理不尽な死の連鎖を絶つことにした

切っ掛けは愛する妻の死


末期ガンで気付いたら手遅れの状態であった

あんなに元気だったのに

あんなに笑い合っていたのに

突然訪れた病魔は妻をあっさりと死の国へ連れ去った


兆候はあったかと問われればあった

体調不良とある女性からの進言

妻の知人であるその女性が

「奥様お顔の色が悪いようです。念のため精密検査を受けられては?」

妻の顔に別段変化もなく、一笑に伏したがあの時彼女の忠告を聞いていれば

彼女は所謂霊感のある人物で、死相を良く見ていたと言う

最初は非現実的だと思っていたが、妻のガンに医師よりも早期に発見し、忠告をくれた

彼女にコンタクトを取り、私はある研究の為、彼女を雇った

彼女が死相を見る時の脳波や身体の緊張具合を計測器で調べ、それをAIに組み込むのだ

それさえあれば、医師よりも早く病を見抜き、死を遅らせる事が出来る

彼女に説明すると

「子供の頃から死相が見えることで辛い思いをしてきました。時にはホラ吹きだとも言われ。この能力が科学で説明出来るならば」

それから毎日私達は病院を渡り歩いた

許可をもらい、末期ガンで余命宣告された患者の死相から余命や顔色の違いなど

時には彼女は事故死も予言した

何故か健康そのものである医療従事者の死相も見分けた

脳波や筋肉の動き、視線の先

全てデータを取り、AIに入力する

毎日毎日続けた

そして死相が見えたと言う相手の状態

顔色、筋肉の僅かな違い、血液型検査

細かいデータを要するそれに応えて彼女は細かく自分に見えるものを教えてくれたが

「もう辞めさせて下さい」

いきなり中断を訴えてきた

「は…?あ、拘束時間?君は小さいお子さんが居たね、すまない。時短で良いから。それとも時給?だったらもうちょっと予算は組める。私個人で出しても良い」

「違います」

どことなく落ち着きがなく

辺りを伺うように視線を泳がせる

「どうしたんだい?落ち着きがないようだけど」

落ち着かせようと紅茶を淹れるも彼女は爪を噛み、震える

「温かい紅茶でも飲んで落ち着きなさい」

声をかけると

いきなり立ち上がり耳を塞ぐ

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

いきなり謝罪する彼女

「どうしたんだい?落ち着きなさい!」

立ち上がりなだめようとするも

「もう見ません!知りたくもありません!だから許してください!」

泣き叫び、私の手を振り払う

このままでは彼女の心身が危険に晒される

「分かりました。今日は帰って休んでください。落ち着いたらまた連絡を…」

「いやあああああっ!」

彼女が叫ぶと同時に彼女に向けられていたカメラの映像が異常値を示す

これは開発中の死相検知システムが装備されている

鳴り出すアラーム

彼女に死相が現れたと言うことだ

「君、しばらく家にいなさい。今日は私も送るから」

兎に角彼女の危機を脱しなければならない

「もうダメです」

涙を滲ませ彼女は私を振り払う

「あなたもこの研究はもう辞めた方が良い。彼らに見つかる前に」

あんたに協力なんかしなきゃ良かった

彼女は呟き去っていった

そして3日後




彼女は死んだ



警察がやってきて彼女が自殺した事に関しての事情聴取をされた

おかしな研究の助手をさせられていたと彼女の夫が相談していたらしい

だが、拘束時間や記録のために回していた録画機器が証拠となり、彼女は育児ノイローゼによる突発的な自殺として処理されてた



こちらとしても一応責任の一端もあるかと思い、葬儀には出た

彼女はほぼワンオペによる育児で私に協力したのは、育児以外の事をしたかったからだと彼女の友人や、彼女自信が話していた記録を遺族に提示したため、私は何とか葬儀への参列を許された

逆に責められる立場となった彼女の夫や

幼くして母を失い、訳も分からず見知らぬ人々と共に過ごさせられ、母を恋しがって泣く彼女の子供には些か同情を禁じ得なかった

もっと私が早くあの研究を進めていれば…



「余計なお世話なんだよ」

彼女の親戚だろうか?

喪服姿の男がぼそりと呟く

「育児ノイローゼなんかなじゃない。彼女を追い詰めたのはあなただ」

「…失礼だがなんの話ですか?」

恐らく私に話しかけてきたのだろう男に声をかける

「彼女はまだ死ぬべきではなかった」

「同感です」

悔しそうに言う男に返事する

「もうあんなことは止めてください」

気がつくと男は消えていた



「そういうわけには行かないんだ」

私は死相を関知するアプリを完成させなければならないのだ

彼女の為にも





1ヶ月後


私は研究室を追い出された

彼女の夫が彼女の自殺の原因は私だと言う噂を広められ、私の研究はなんの利益にも通じないとスポンサーまでもが手を引いたのだ

周りから変人扱いされ、妻が死んだのも私のせいだと妻の両親になじられ、居たたまれなくなり引っ越しを余儀なくされた



私は遠い町で研究を再開し、完成させた

死相を回避するアプリを

私は全国を周り、死相の浮かんだ人間に声をかけ、病気や事故を回避させた

ネットで私は有名になったが、企業の協力もなく、ボランティアでアプリを活用していた





「困るんですよ」

いつぞやの彼女の葬儀に参列していたあの男と遭遇した

誰かの葬儀だろうか?

相変わらずの喪服姿

「あなたのそのアプリ。お陰でこっちの仕事がおかしくなってしまった」

「どういう意味だ?」

訝しげな私の表情に

「あなたは親切心だろうけど、死を扱うものにとっては混乱を引き起こし、無駄に我々の仕事を増やす悪徳業者でしかありません」

男の顔が崩れ落ち

骨のみになり

喪服の代わりに黒いローブ姿となる

「あんた…あんた…」

うまく言葉がでない

「あなたが誰かの死相を回避しても他の誰かに死相を写すことになる」

「私だけじゃない!他の死相を見る人間もいるじゃないか!」

そう、あの自殺した彼女のように

「死相が見える人間は人数も限られているし、あなたのように余計なことまではしません」

男…いやそいつはゆっくりと近付く

「皆積極的に死相を回避する事がないからバランスが取れていたんです」

眼球の無い穴が私を捉える

死相検知アプリのアラームがうるさいほどに鳴り響く

走り出した私に骸骨は尚も語りかける

「だから…ね?調整の為にも協力してください」

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

私は必死で走る

私はまだ死ねないんだ

こいつらから逃げられたら死相から逃れられる


私は近くにあった建物に入り階段をかけあげる

この先だ

駆け上がった先の扉を空け、柵を乗り越える

ここまで来れば…

私は奴らの手の届かない場所へ…




「あれ?救急車」

けたたましいサイレンの音に友人が視線を向ける

「みたい…やっば!近くで飛び降りだって!」

SNSをチェックすると近くで投身自殺があったのを知る

「あー、さっきぶつかったおっさんじゃね?」

事も無げに呟く

「あのおっさん死相が出てたもんな」

「え?気付いてたんなら教えてあげなよ」

思わず声を上げる

「やだよ。面倒臭い」

それに…

と何もない空間を見る

「余計な事をしない方が良いんだよ。どうせ赤の他人なんだから」

これだからこの友人は冷たいんだ

私だったらそんな力があったら



「人助けするのに」





終わり


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