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【読書メモ】博士(心理学)が通俗心理学本を読む 心屋仁之助『あなたの性格は変えられる』

 今回は通俗セラピスト、無資格セラピスト界のビッグネーム心屋仁之助の著作である。

 結論からいうと、本書は出典が一切なく、内容も「お前がそう思うならそうなんだろうな」というレベルの持論が書き連ねてあるだけなのでツッコミも入れにくいという料理のし甲斐のないものだった。

 しかも、心屋仁之助は2020年にカウンセリングを辞めてミュージシャンになるという意味不明ぶりである。彼の無資格カウンセリングの被害が広まらなくなったのは喜ばしい限りだが、これ以上彼の著作にツッコミを入れる必要性もなくなり、せっかくのネタ元が1つ消えてしまった残念さもある。

 ちなみに、私はカウンセリングには臨床心理士または公認心理師の資格が必須であると考えている。弱った精神に影響を及ぼす極めて侵襲性の高い行為を行うにはそれ相応の専門性が必要であると同時に、適切な訓練を積んでいないならカウンセリングをしないという倫理観も重要だからだ。もちろん、どこぞの通信教育の資格は資格のうちに入らない。適切な資格を有していないにもかかわらずカウンセリングに手を出すような人物は無資格カウンセラーとして厳しく糾弾されるべきである。

 同時に、公認心理師の資格を作った際に、こうした無資格カウンセラーを排除できなかった心理学業界の弱腰も批判したい。これまでカウンセリングを行ってきたカウンセラーへの配慮があったのかもしれないが、ここはクライアントのため無情な大ナタを振るうべきであった。

 本シリーズの目次は『博士(心理学)が通俗心理学本を読む リクエスト募集と記事まとめ』から。ツッコミを入れてほしい通俗心理学本のリクエストも募集している。


書誌情報

心屋仁之助 (2013). あなたの性格は変えられる 中経出版
※なお、本書は2011年出版の『「自分がイヤだ!」と思ったら読む本』を解題し再編集したものである。サラミ論文か?

今回の通俗心理学本あるある

 今回のあるあるだが、通俗心理学本の中でも無資格カウンセラー本ということで少し毛色が違う気がする。

①うまいこと言おうとしがち(そしてさほどうまくないがち)

 これは無資格カウンセラーあるあるになるかもしれないと踏んでいる要素である。無資格カウンセラーは専門性に欠けるため、「なんとなくいいことを言ってるっぽい雰囲気」で飯を食う必要性が特に高い生物である。そのため、それっぽい(が滑っている)ことをたくさん書く必要がある。

 本書に登場する「それっぽい(が滑っている)こと」の例は以下の通り。

『つまり「自身がない」から「自信がない」のです』(p8:同音異義語を弄するのはよく見る)
『取り戻す……どこから? (近所の交番に行っても取り戻せません(笑))』(p35:括弧の連続が滑っている感じをさらに強調する)
『「認める」とは、「ああ、それをやってるね」と、「いい」も「悪い」もジャッジせずに、
 ただ、「見、留める」』(p66-67:なお改行は原文ママ。ゴルゴ松本以来流行り出したインチキ日本語パターンかな?)
『これで、執着が、終着』(p179:やかましいわ。全体を通して不必要に読点が多いような気もする)

②初手自己紹介がち

 これもあるある化するだろうと見込んでいるもの。

 本書の文章の最初も最初は『こんにちは! 心理カウンセラーの心屋仁之助です』(p3)から始まっている。言うまでもなく、真っ当な心理学本で著者の名乗りから入るものはほぼない。ぶっちゃけ著者の名前があまり重要ではないし、「はじめに」とかの最後にある署名で済まされることも多い。例外があるとすれば、参与観察的な研究で著者のバックグラウンドが重要な場合などだろうか。

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