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【抵抗の手札】捏造ことわざ「されど空の青さを知る」は愚者の浅さが出ていて最高

 「井の中の蛙大海を知らず」ということわざをご存じの方も多いと思います。これは井戸の中の蛙が広い世界を知らないように、限られた世界しか知らず視野の狭いことを意味しています。

 実は、このことわざには続きがあるのです! 知っていましたか?
 このことわざは「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」と続きます。井戸の中の蛙は確かに広い海を知らないけど、井戸から見える空の青さは知っているということです。

 私たちがよく知っていることわざに、こんなポジティブな意味があったんですね。いかがだったでしょうか。

続きがある!……じゃねぇのよ

 茶番終わり。もちろん、「井の中の蛙大海を知らず」に続きなどない。「されど空の青さ(深さ)を知る」という続きは単なる捏造に過ぎず、この話はネットで流布している与太話に過ぎない。

 私はこの手の捏造ことわざが大好きだ。性根が腐っていることもあって、含蓄があるフレーズに対し浅知恵でうまいこと言い返そうとする愚かで矮小なあがきを見るとついつい口角が上がってしまう。


浅知恵の深み

 「井の中の蛙大海を知らず」はある対象を念頭に置いたうえで、その対象が視野狭窄であると批判したり揶揄したりすることわざである。言われたほうは当然、いい気分はしないだろう。

 こういうとき、どのような反応をするかで人間の中身が出る。無視をするか、真正面から言い返すか……。だが、愚者はより安直で可愛らしい方法を選ぶようだ。それが捏造ことわざである。

 「されど空の青さを知る」という続きは、ネガティブなイメージのある蛙にポジティブな意味合いを見出すものである。つまり「視野は狭いかもしれないけど狭いところで深い理解があるぞ!」と言い返しているのである。

 まず、視野狭窄であるという点には全然反論できていないのが微笑ましい。一番重要な点に全く無力なのに気づいていないのにドヤ顔である。

 これは、顔を真っ赤にしてやたらめったらと言葉を羅列しなんとか口喧嘩に勝とうとする小学生のような愛らしさである。実際にいたら五月蠅くて不快だが、文章の上では静かなものだからかまわない。

 加えて、深い理解があると誇ることわざが捏造というしょうもなさも素晴らしい。全然深い理解ないじゃねぇかと。

 仮に、このことわざに本当にそういう続きがあるのだとすればまったくの興ざめである。本当にただ浅く薄いだけの格言にしかならない。言い返す側も、単にその続きを知っているという事実認識があるにすぎない。しかし、この続きが捏造であることによって、矛盾する表現ではあるが、浅さにある種の深みが出るのである。賢しらな反論がまったくの出鱈目であることによって、そのしょうもなさに味が出るのだ。

 しかも、この捏造ことわざは単なるネットの受け売りなのだ。図書館の奥底に眠っていた古い本に一節だけ書かれた面白話ではない。ネットで検索すればデマにまんまと騙された人がせっせと作ったWebページがいくらでも出てくる。これもこの捏造ことわざに深みを与えている。

 もし、この捏造ことわざがネットに転がっているようなものでないなら、この捏造ことわざを使った彼はわざわざそんなマニアックな情報を集めてきたという一点において、むしろ尊敬すべき人物になってしまう。珍しい情報はそれだけで価値がある。だが、これはそうではない。この捏造ことわざは小学生でも検索することができる。賢ぶって使った言葉が集合知の一番浅い引き出しの手前にあったという事実は、捏造ことわざの味付けに重要な役割を果たしている。

 ちなみにだが、私はこの与太話を最初に言い出した人々については、オリジナリティがあるという点で評価している。この捏造ことわざの元ネタは陶芸家の誰それであるとか、永六輔の創作だとかいう説があるが、実際のところはさておき、作った人の創造性には敬意を払いたい。センスはないと思うが。

 ちなみについでに、この捏造ことわざはいつの間にか近藤勇の名言ということにもなっていた。これは流石に嘘だろう。浅い言葉を偉人の発言にして権威付けしようというしょぼさも素晴らしいし、人選が近藤勇なのもよい。世間には広く知られていないが確かな功績があるタイプの偉人では箔付けとして機能しない相手向けの与太話だと即座にわかる。こんな枝葉のところまで最高に味がするのが「されど空の青さを知る」なのである。

国は女から腐らない

 そもそも、この記事を書こうと思ったのは、最近以下のツイートを見かけたからだ。

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