子どもの感受性と、大人の思慮深さで平和を求めていく。

「はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」そして、子供たちを抱き上げ、手を置いて祝福された。

新約聖書 マルコによる福音書 10章15-16節 (新共同訳)

例年よりもずいぶん遅くなりましたが、我が家も夏休みに入りました。広島「原爆の日」を学期中に迎えたのは初めてのこと。子どもたちを学校へ送り出し、しばし黙祷しました。

長男は学校で借りて『はだしのゲン』を読んだそう。子どもなりにやはり戦争に対して思うところがあるようで、「この原爆のことがあったから、おれたちは今平和なんかなぁ」とつぶやいていました。多くの人の犠牲の上で、今の自分の平穏な生活がある……ということを表現したかったようです。上手く言えない思いを一生懸命言葉にしていました。

子どもの頃は、誰かが傷付くことや誰かの命が奪われることに、本当に素直に心を痛めていたような気がします。我が家の子どもたちも、テレビなどで戦争や災害の話を聞くと、「えー、かわいそうやん」「なんで死んじゃったん……?」というようなことを言います。

子どもの言うことは、浅はかで短慮な部分はあるかもしれませんが、大人が見失いがちな率直さを備えてもいるなぁ、と思います。

年を重ね、大人になると、私たちはいろんな理由や説明が思い当たるようになります。戦争だって、貧困だって、災害だって、様々な要因が重なり合って起こっていることに気付いてしまう。だから何に対しても「一概には言えない」と答えがちになります。たとえば「平和は確かに大事、でもある程度の軍備は必要かもね」というような。

先日、こちらのオンライン講演会に参加しました。

その中で、「成長とは『複雑化』」ということを仰っていて、なるほど、本当にその通りだ、と思って聞いておりました。

授業の中でディスカッションをする際は、簡単に分かったような気にならないこと、自分が持っている「答え」に対しても良い疑いの目を持つことなどを、生徒さんたちに促します。「白か黒か」「AかBか」では割り切れないことが、私たちの生きる地平にはたくさんある。だから、「これが正しい!」「こうに決まっている!」と「言い切れないこと」こそが、より知的な、より誠実な姿勢であろうと思います。

一方で、子どもの衒いの無さ、真っ直ぐさに、はっとさせられることがあるのも事実です。

少し前にこんなツイートも見かけました。

分かるなぁ、自分一人だとちょっと恥ずかしく思っちゃうかもなぁ、と共感。私の場合、敢えて子連れで交換に行くとか、ことさらに「いや、子どもに頼まれましてね……」みたいな空気を醸しつつ行くとかしがちです。誰も見ちゃいないのにね……。(自意識過剰クドウ)

長田弘『深呼吸の必要』という詩集に、「あのときかもしれない」という長い散文詩が収録されています。

私は単行本で持っていますが、今は文庫本しか見当たりませんでしたのでこちらをリンク。

この詩の中では「きみ」がいつ「子ども」から「おとな」になったのかということを、「あのときかもしれない」と様々に思い返すのですが、じんわり沁みて、ちょっと涙が出そうになる詩です。

いつからか私たちは大人になる。それは決して悪いことではないはずです。大人になった私たちは、思慮深さを身に着けて、子どもの頃のように屈託なく、思いをそのまま大きな声で口にすることはできなくなります。けれども、その分誰かの痛みや心の柔らかいひだにそっと触れる、そんな力加減も覚えるのです。

冒頭の聖句はイエスが子どもたちを招き寄せて言われた一言です。神の国を受け入れるというのは、弱くされた人、痛みを負わされた人に対して、「かわいそうやん」と感じる素直な子どもの眼差しで寄り添うことではないでしょうか。そうだとすれば、私たちはある意味でやはり子どもの持つ真っ直ぐさに習わなければなりません。「他にも傷付いている人はいるし」「本人にも責任があるかもしれないし」「そもそも助けを求めているかどうか分からないし」などと理屈をこねずに、ただはっとして、心を痛めて、思わず駆け寄る。そこにこそ、神の国の「種」があるように思います。

ですが、この「地上」においては率直さだけでは種は育たないだろう、とも思うのです。やはり丁寧に石ころを取り除き、柔らかく耕し、倦まず弛まず水をやり、手入れを続ける必要があります。頭上の雨雲に一喜一憂しないで長い目で見る落ち着いた心や、疲れた時には鍬を持つ手を代わってくれる仲間の存在など、「長期戦」を走り抜くための方策も大事です。そのような時には、大人としての複雑さが、味わい深く効いてくるのでしょう。

子どものような感受性で神の国を志し、大人としての思慮深さをもって実現を目指す。そんな信仰者として、地上の平和を求めていきたいと思う8月です。

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