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第六感~確かめようのないことだけれど、私は信じている~

今年は
カラスアゲハに遭遇することが
とても多くて。
もう何度会ったか
おぼえていないほどです。

黒い蝶は縁起が良い
とされていることもあって
会うたびに
ラッキー
と嬉しくなりました。


9月はじめの日曜日のことです。

ふと窓の外に目をやると
庭を一羽の黒い影が
横切っていきました。

「あっ、カラスアゲハ!」
私は思わず声を上げました。

「最近、よくうちの庭に来るの!」
主人と息子に言いました。

それから2日後のこと。
その日は
介護の仕事の日でした。

さて、仕事に出かけよう

そう思った矢先、
庭を横切る
カラスアゲハの姿を見ました。

あっ、まただ!

これは一体なんのサインだろう…
私はわくわくしました。

その後
車で職場に向かう途中
突然、
目の前を黒い影が横切りました。

あっ、カラスアゲハ!

こんなこともあるんだ…。

驚きながら
さらに車を走らせていると、
また、
目の前を黒いものが…。

驚くことに
それもまた
カラスアゲハだったのです。

うわぁ、すごい!

興奮冷めやらぬまま
私は仕事につきました。


私の働く施設の入居さんの中に
Yさんという
60代の女性がいます。

Yさんは病気のため寝たきりです。

Yさんは
私が廊下を通ると、
決まって
「介護士さん」
と私を呼び止めます。
(私は、介護士ではないのですけれどね)

施設では
困りごと、緊急時には
呼び出しボタンで対応しているので
私が呼び止められる時は
緊急な用事ではないことがほとんど。

たいていは
何気ないお喋りをして過ごします。

さて、
3度もカラスアゲハを見た日の
1週間ほど前に
Yさんは
熱を出しました。

数日間
壁の方に体を向けたきり
呼びかけにも
応じませんでした。
どうやら
食事も食べられていないとのこと。

その週の最後の出勤日。
帰り際に
Yさんの部屋をのぞいてみると
運良く
こちらに体を向けていたので
久しぶりに
お顔を見ることが出来ました。

眼をしっかり開いていましたが
熱のせいなのか
とても苦しそうでした。
「Yさん、元気になったら
 また、お話しましょうね」
そう言うと、
「ぁぁ…」
とかすかに声をあげました。

来週会う頃には
元気になっているかな…
そう思って別れました。

少し間があき、
5日ぶりの出勤となったこの日。

Yさんのお部屋の表示が
裏返しになっているのを見て
残念ながら入院されたのだな…
と思いました。

入院されている間は
『不在』の意味で
名前の表示を
裏返しにしておくのです。

通りがかった介護士さんに
Yさんの病状を尋ねました。



「Yさんね…
 日曜日に亡くなったの…」



あまりにも
突然の別れでした。

Yさんの笑顔
Yさんとの何気ないやり取り
この3か月の出来事が
走馬灯のように
頭の中を駆け巡りました。

「介護士さん」と呼ぶYさんの声。

家族か誰かと
携帯で楽しそうに話している横顔。

時には「もう辛い…」
そう言って泣くこともありました。

施設の決まりで
Yさんの要望に
答えてあげられないことがあった時
「私は資格も何もなくて…
 ただのお手伝いなんです。
 下っ端で…
 ごめんなさいね…」
あやまる私に 
「いいのいいの」
そう言って笑ってくれたYさん。

ついこの間までの当たり前の日常…
当たり前の風景…
それが…


Yさんが亡くなった後、
Yさんはこの施設に来た時点で
もう長くはなかったことを
知りました。

日曜日。
家族が会いに来て、
間もなく
Y さんは逝ったのだそう…。

「きっと
 待っていたんだね…」
介護士さんが言いました。


日曜日
我が家の庭に訪れたカラスアゲハ。

そして、
今日ここに来るまで
何度も見たカラスアゲハ。

もしかしてあの蝶はYさん…。

そう思ったら
涙が溢れました。

黒い蝶は
縁起の良いとされていますが
虫の知らせであったり、
亡くなったった人からのメッセージ
でもあると言われています。

偶然だよ…
そんなことあるはずがない…
そう言う人もいるでしょう。

確かめようのないことですしね。

でも私は信じています。

あれは
Yさんからメッセージだったのだと。

「またお話しましょうね」
そう言って別れた私に
会いに来てくれたんだ…。

私とYさんは
いつだって
繫がることが出来て…

それは、ちっとも
不思議なことじゃない…


Yさん、ありがとうございます…。

Yさんと過ごした3か月。
Yさんの命の輝きを
私は決して忘れません。




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