工高生の作品⑤-地域のお宝さがし-111

■工高生の作品-今宮工高Ⅲ-■
■建築史■
 建築科のカリキュラムには、「建築史」という科目(分野)があります。日本・西洋・近代における建築の歴史を学ぶもので、大学の建築学科にも設けられています。ただし、現在の工高では、『建築計画』の中の「建築の移り変わり」という章にまとめられています(注1)。
 筆者が工高で『建築史』を担当した当時は、毎回50枚程度のスライドを見せて、解説をしていました。ここでも、建築物を描かせる課題を出し、描く建築物も仕上げ(着色・単色など)も自由としました。提出された作品と実物とを比較してみましょう。

注1)文科省検定教科書『建築計画』(実教出版、2023年)

●着色作品●(図1~3)
 図1は、住吉神社社殿(大阪府、江戸時代)です。実物と比較すると、色調や周囲の樹木の雰囲気がよく表現されています。

図1 住吉神社第二本宮背面
図1-② 実物写真
図2 法隆寺東院夢殿
図2-② 実物写真

 図2は、法隆寺東院夢殿(奈良県、奈良時代)です。夢殿を見る角度は、周囲の状況から、概ねこの位置になります。実物と比較すると、雰囲気がよく表現されています。

図3 室生寺五重塔
図3-② 実物写真

 図3は、室生寺(むろうじ)五重塔(奈良県、平安時代)の初層(1階)の軒裏です。色彩の様子が上手く表現されています。図3の右下に「組手部分」とありますが、古代の寺院建築では、図3-②の①~③のように、組手が前に三段突き出した「三手先」(みてさき)で軒を支えます。また、「地円飛角」(じえんひかく)は、下段の地垂木(じだるき)の切り口が円(丸)、上段の飛燕垂木(ひえんだるき)の切り口が角であることを示す用語で、「三手先」とともに、古代寺院建築の特徴の一つです。

●単色作品●(図4~5)

図4 三仏寺投入堂


図4-② 実物写真

 図4は、三仏寺投入堂(さんぶつじなげいれどう、鳥取県、平安時代)です。役行者が、絶壁のくぼみに念仏で投げ入れたとの伝説からこの名がありますが、正式には奥院(おくのいん)です。山を登り、たどり着くまでが大変ですが、一見の価値はあります。

図5 薬師寺東塔
図5-② 立面図

 図5は、薬師寺東塔(奈良県、奈良時代)です。10年にわたる解体修理が終わり、優美な姿を見ることができます。図4・5を描いた学年の作品には、上級生の点描で表現された図面を見てきた影響か、点描による作品が見られました。なお、図5-②は、筆者が学生時代に描いたもので、黒ラシャ紙に白インクで仕上げました。

■閑話休題■
 建築科には、絵の上手な生徒が多くいました。生徒のなかには、建築事務所に勤務しながら、漫画家に転職した人もいます。第107回で紹介した画家の友人は、中学時代に漫画家を志し、漫画を描くために必要な製図道具を手に入れるため、工高の建築科に進学したと言っていました。類似の例に、漫画家を目指す中学生が、「もしもの時のために手に技術」をつけるために、工高の「建設科」(ママ)へ進学する漫画があります(注1)。手に技術をつけるなら、機械科でも良さそうなものですが、主人公は、建設科(建築科)を選んでいます。実際に、それを実践したのが漫画家望月三起也(注2)で、代表作品に『秘密探偵JA』・『ワイルド7』などがあります。精緻に表現されたバイクには多くのファンがいますし、筆者もこの2作品はそろえています。
 筆者は漫画が大好きですが、絵は下手です。筆者が、「建築」を選んだのは別の要因ですが、どちらにしても、「建築」には不思議な魅力があると思っています。

注1)山本おさむ『ペンだこパラダイス』。
注2)神奈川工高卒。建設会社を1年で退職し、漫画家となる(「ウィキペデ           ィア望月三起也」)。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?