工高生の作品③-地域のお宝さがし-109

■工高生の作品-今宮工高Ⅰ-■
 今回から、筆者が以前に勤務した建築科の生徒作品を紹介します。CADが無い時代の手描き図面です。
建築科の1年生の「製図」は、線・文字などの練習に始まり、次いで、木造住宅の図面模写(コピー)に取り組みます。生徒は、平面図を描くことで住宅の間取りを把握し、次に立面図に取り組む場合が多いのですが、筆者が工高時代、立面図の作図に際し、高さ関係の寸法が分からず苦労した経験から、平面図と高さ関係を把握しやすいように、先に断面図に取り組ませました。
 建築科のカリキュラムでは、「製図」が大きなウェートを占めており、図面を描きながら、間取りや使い勝手、構造などを覚えて行くのですが、この頃になると、「製図」はしんどいし、面白くないと感じる生徒もでてきます。

■1年生(最初の一歩)■
 そこで、断面図に庭の樹木などを描いて着色した図面を例示し(図1)、図面に必要な寸法や記号などは記入するほかは、自由に描くことを提案しました(図2~3)。

図1 断面図(例)
図2 断面図(生徒作品)
図3 断面図(生徒作品)

 図2は、絵の具による着色図面です。樹木や雲の表現に工夫がみられます。図3は色鉛筆による着色図面で、地盤面を縦線で表現しているため、作図に時間を要していますが、イヤイヤ描いた作品には見えません。立面図になると、表現の工夫がさらにましました(図4~5)。

図4 立面図(生徒作品)
図5 立面図(生徒作品)

 図4は、図面というより水彩画になっています。本人いわく、「こんなやったら、なんぼでも描ける」と、好きな絵と同様、図面にも興味を示しました。図5は、インクによる仕上げで、樹形や左端の人物・車などが詳細に描かれています。また、図面の上部に左端開口部の平面が描かれていて、平面と立面の関係を理解していること、左端軒下から斜線を引いて陰影をつけていることから、立体の理解が深まっていることも窺えます。この学年の2年生の作品は、あとで紹介します。

■2年生■
●自宅の設計●
 2年生は、1年時に平屋建て住宅の図面を描いていますので、4月から、「自宅」(木造2階建て)の設計に取り組みました。但し、平面は、こちらが示した単線平面例から、選び、それをもとに、配置・平面・立面図、各構造図、展開図・建具表(1/50)、断面詳細図(1/20)を、トレーシングペーパー(A2版)に描き、青焼き図面で提出というもので、全部で18枚、最後の建具表の提出は12月初旬で、概ね1~2学期を費やしました。長期間にわたる課題でしたが、多くの生徒が1/50で図面を描くことになれたようです。
●コンペに挑戦●
 この間、夏休みを利用して、3人がコンペ(ダイワハウス主催「A HOUSE」高校生の部)に挑み、3人とも入選しました(図6~8)。平面図に着色するほか、各自が図面表現に工夫をしています。

図6 入選(生徒作品)
図7 入選(生徒作品)
図8 入選(生徒作品)

 図6の作者は、メタリックな外壁を表現するために、立面図にアルミ箔を張り、中庭を見せるために、断面パース(透視図)を描きましたが、図法でとても苦労しました。図7の作者は、立・断面図に陰影を施しています。彼は、安藤忠雄氏のフアンで、コンクリート打ち放しの外観にこだわっていました。図8の作者は、巧みなスケッチと豊かな表現力で図面を仕上げました。
審査員の安藤忠雄氏は、3作品を見て、「大学生よりうまいがな!」、宮脇檀氏は図8の作者に、「あんた器用な人だね」と賞賛され、生徒たちは舞い上がりました。この後、彼らはコンペにまっしぐら。もちろん、入選賞品(主に図書券)の獲得も眼中にありました。この学年の3年生の作品は、次回に紹介します。

■3年生■
 赴任当時、3年生の「製図」は担当していなかったのですが、他の授業で仲良くなった生徒が、2学期末に「卒業設計をやり直したい」と相談してきました。図面を見るとよく描けているのですが、絵の具による着色が苦手で、着色仕上げの外観パースが描けないとのこと。そこで、図面表現を向上させながら、パースの対処を考えることにし、配置図・立面図に色鉛筆で着色し、陰影を施すことにしました(図9~10)。

図9 配置図(卒業設計コンクール入選、以下同じ)
図10 立面図

 図10の手前に描かれた人物や樹木などが、背面の陰影によって目立つようになりました。その作業中にも、パースの仕上げを相談していたのですが、やはり絵の具は苦手というので、色鉛筆による着色仕上げを進めたのですが、図面が大きいので(A1版ケント紙)、乗り気がしないようでした。そこで、点描による白黒仕上げを提案しました(図11)。ただし、時間がかかることを念押しすると、就職も決まっているので、最後の課題のつもりで取り組む決心をしてくれました。

図11 外観パース

 新しいケント紙にトレースダウンした下書きに、点を打ち始めます。筆者も空き時間を利用して、製図室で「コンコン・・コンコン」。製図室で作業をしている下級生も手伝ってくれましたが、時間が足らず、本人は、学年末試験が終わり、卒業式が済んでも「点打ち」に登校しました。その努力が実り、この作品は、「卒業設計コンクール」(日本建築学会近畿支部主催)に入選し、大きな卒業記念になりました。

図12 外観パース(卒業設計コンクール入選)

 この作業を手伝ってくれた生徒のうち、自分も点描でパースを描きたいという生徒が出てきて、翌年の卒業設計に取り組み、やはり、入選を果たしました(図12)。 この作品は、自身の出身中学校を全面建て替えるという大胆な提案でした。

次回は、2年(赴任時の1年)、3年(同2年)の作品などを紹介します。

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