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平成の終わりに振り返る「私のメイド・執事研究とネットと同人誌」 その2 資料収集と資料の方向性(前半)


平成を振り返る本テキスト、特にネットがなければ、私はここまで資料を集めることができませんでした。これまでに個人が学ぶ環境としてのインターネット(自分の体験談)(該当リンクの後半)でネットの恩恵を書いていますが、これを流用しつつ、リンク先で触れていない資料の内容の変化もあわせて書きます。

これも長くなって、時間の都合で二部構成にする予定です。

第1期:日本の本を参考にする

2000年に研究を始めた当初は、和書を中心に使っていました。社会人になっていたとはいえ、単価が高い本が多く、当時は図書館で借りることが多かったと思います。ヴィクトリア朝関連の本を読み漁り、そこに記載されている屋敷や家事使用人関連の知識を集約していました。

ただ、この当時、日本には「家事使用人だけを扱った専門書」がありませんでした。「カントリーハウス」に関してはありますし、食事についてもありましたが、「家事使用人だけ」の本がないのです。

この時、「だったら、日本の本で参考にされている英書を買えば良いのでは?」と思い至りました。そこで、メイドの歴史について一章を割いていた『路地裏の大英帝国―イギリス都市生活史』などから、参考文献の英書を買うことを思いつきました。2001年12月のことです。

余談ですが、当時の英語力は実用英検2級ぐらいで、これをきっかけに英語を好きになれればいいな、と考えていました。好きな領域を対象にすれば、モチベーションも上がるだろうと。色々と忙しさもあったり、勉強が断続したり、衰えたりと色々ありつつ、この時から英語を勉強していたおかげで今は外資系企業に勤めています。

第2期:英書を通販する(和書も)

この2001年12月が、私が初めてAmazon.co.jpを使い始めた時です。ここで、『路地裏の大英帝国―イギリス都市生活史』で参考にされている『The Rise and Fall of the Victorian Servant』を入手したり、「Victorian Servant」をキーワードに含む本を検索してメイド専門書の著者の同一領域の本を買ったりすることにしました。

【手段】ネット通販の素晴らしさ(特にアマゾン)

今でこそAmacon.co.jpはネット通販最大手として日本でも当たり前の存在で、そのありがたさを実感しにくいですが、2001年12月に出会った時には、革命的に思えました。理由は2つです。

●1. 洋書を取り扱っていて簡単に買える

私が研究を始めた当初、洋書を買おうと思った場所は、紀伊国屋書店や三省堂の英書フロアでした。ただ、本棚で本を探すのは手間でしたし、そもそもマイナーなジャンルとなる家事使用人の歴史の本が充実しているはずもありませんでした。あとは大学図書館などになるでしょうが、私は大学卒業後の図書館利用権を持たず、アクセスできない状況でした。

それが、和書の参考文献に記載されたタイトルを検索して取り扱っていればすぐ購入できるのです。まさに、革命でした。

●2. キーワード検索で関連本が買える

もうひとつ、Amazon.co.jpで素晴らしかったのが、「キーワード検索」でした。知っている本ならば書店でも取り寄せができる可能性はありますが、知らない本は取り寄せできません。一般人でも、図書館にない・店頭にもない本を購入できるのです。

さらに、和書の購入も劇的に捗りました。全ての本が店頭にあるわけではないので、たとえば「ヴィクトリア朝」「大英帝国」「産業革命」「生活」などのキーワードを組み合わせてサイト上で検索すると、世の中に存在する本がすぐに検索結果に並び、在庫があれば購入できました。

以下、この当時の注文です。

明確に記憶していないのですが、日本最初の古書検索サイト「スーパー源氏」もどこかのタイミングで使っていたと思います。



【資料の方向性】総合書から自伝への道

●1. 総合書(主に概要把握と、参考文献の深堀)

この当時は、和書の参考文献になる総合書を中心に購入していました。そこでだいたいの状況を把握し、さらにその総合書が参考にしている「参考文献」を購入することにしたのです。

英書のほとんどは学術書だったので文中の引用箇所がどの本の何ページを参考にしているかを記載してくれていました。これは、私が購入していた日本の本が一般向けであり、こうした引用表記がないことと対照的でした。英書の引用記載を通じて、私はより詳細に「自分が興味を持った箇所の本を読む」ことに近づくことができました。

●2. 当時のマニュアル本(職種の詳細)

「英書の参考文献」でよく参照されていた本のひとつは、『The servants practical guide : a handbook of duties and rules』でした。この本は『使用人の実践的ガイド』として、『英国ヴィクトリア朝のキッチン』の家事使用人解説で頻繁に参照されていました。

内容は、家事使用人の様々な職種と仕事、時間ごとにどんな仕事をどのようにするのか、人員が不足していた場合に誰に何をさせるのか、給与はどれぐらいかなど、まさに知りたい情報の宝庫でした。家事使用人を雇用する側が必要とした本であり、他にも玄関での応対の仕方や給仕方法など、職種の詳細と仕事マニュアルが融合したようなものでした。

同じく『英国ヴィクトリア朝のキッチン』で紹介されていた本で、もっとメジャーなものが、ヴィクトリア朝の主婦のバイブルとされた『ミセス・ビートンの家政読本』です。中流階級の主婦が家を円滑に運営するための情報(使用人の雇い方や仕事内容を含めて、料理レシピやテーブルレイアウト、掃除の仕方などマニュアル)であふれた本です。

こうした当時の人々が参考にしたであろう情報を、総合書も参考にしています。しかし、総合書ではページの都合や著者のテーマによって参考資料の情報全てに触れるわけではないので、こうしてマニュアル本を読むことは、知識や視点を広げる意味で有効でした。

●3. 自伝・当事者との出会い

総合書を読む中でもう一つ気づいた視点が、「メイドや執事として働いた経験者・当事者と言える家事使用人の声」が記載されていることです。声の集め方は(1)自伝、(2)口頭・インタビュー、(3)当時の人々の記録などあります。これらはまとまった形で家事使用人の視点・日常生活を知ることができるので、とても嬉しいものでした(3は直接アクセスが難しいです)。

日本でもこのジャンルの本がメイドブーム以降に刊行されています。しかし、実はそれ以前にも2冊あります。ディケンズの孫娘モニカ・ディケンズと、メイドとして生きたウィニフレッド・グレースの自伝です。

このジャンルも、「総合書の著者による編集を経て引用される」ため、著者と私の関心を持つ点がずれていると、情報を見落とすことになります。そこで、自分が面白いと思った人の自伝を買って全部読むことを目指しました。

但し、この「自伝」は「絶版が多い」問題があり、入手難易度が高いものでした。そもそも、出版市場として家事使用人がメジャーではない時代でしたので絶版が続いており、ほとんどの場合は古本で買いました。古本で出回っていないものは英国の図書館にはあるものの、日本にいるので借りられず、出来るだけ自分で買いまくる、古本に出るのを待つということになります。

もうひとつ、この「自伝・当事者」の語り手には、「雇用主」も加わってきます。貴族や地主などの上流階級や、メイドの雇用主になった中流階級の自伝も購入して、そこから彼ら雇用主の生活を学ぶ機会にもなりました。家事使用人からは見えない視点もあるので、オススメです。

●補足. 研究者による色の違いを知ることができた幸運

研究者によって、同じ「家事使用人」の本でも極端なほどに方向性が違います。本当に幸運なことに、最初に買った2冊は、自分の道筋を開いてくれました。

1冊目の『THE RISE AND FALL OF THE VICTORIAN SERVANT』の著者Pamera Horn氏は総合的にバランスが良く、同書はほとんどの本で参考分家になるほど基礎的でかつ総合的な本です。最初に出版されたのが1970年代ですが、改訂を重ねており、入手当時の最新研究まで網羅されています。

2冊目の『THE COUNTRY HOUSE SERVANT』の著者Pamera Sambrook氏は、屋敷の学芸員をしており、実際に屋敷に残っている記録や扱っていた日用品、家計簿などお金の記録といった情報にとても詳しい視点の本を記されています。

第3期:映像DVDと関連本を通販する

私が研究を始めてからどうしても接したかった資料のひとつは、『英国ヴィクトリア朝のキッチン』の元となった番組映像です。実は、日本で翻訳されたこの本は、BBC製作番組の書籍化・副読本だったのです。

また、カントリーハウスの書籍を記された田中亮三先生の本では、家事使用人が主人公のドラマ『Upstairs, Downsitairs』」や、屋敷へと至る道を描写した映画『Brideshead Revisited』の紹介がありました。元々のスタートが『名探偵ポワロ』のドラマなので、こうした映像も見たいと思いました。

【手段】ネット通販の素晴らしさ(特にアマゾン)

映像作品については、(1)ドキュメンタリーと(2)ドラマに大別されます。前者は日本でのDVDかが望めず、基本的にAmazon.comとAmazon.co.ukを使って検索し、DVDを探しました。ごく稀に、NHKで放送されることもあります。

●1. 日本で入手・閲覧可能な映像

ドキュメンタリーは基本的にNHKの放送に依存しており、そのうちの一つが、後述する『家族で体験 1900年の生活』で(原題:THE 1900 HOUSE)です。これは1900年の家を再現し、たまたまNHKでの放送時に録画しており、その存在を知りました。内容は後述します。

後者のドラマは、(1)映画館、(2)メディア化作品になります。映画館は新作をチェックし、メディア化作品は過去の作品を遡ることになります。もちろん、テレビ放送もあるので録画することも多かったです。

とにかく、この当時は、「メイドや執事など家事使用人が主人公の作品」が乏しく、色々なジャンルの作品を見ました。代表的なものでは、『日の名残り』、『ゴスフォード・パーク』、フランスですが『8人の女たち』になります。

ヴィクトリア朝やエドワード朝の映画を見て、そこに家事使用人の姿を探すことも珍しくないものでした。『日の名残り』の監督も務めたジェームズ・アイヴォリー作品として、『眺めのいい部屋』『ハワーズ・エンド』『金色の嘘』を見たり、NHKで放送したコリン・ファース主演の『高慢と偏見』や、同じジェーンオースティン作品『いつか晴れた日に』などメジャー作品です。

『名探偵ポワロ』や『シャーロック・ホームズの冒険』も原点ですし、文学作品の映像化作品では、ICVという会社がよく英文学作品を映像化しており、この時期に英国が好きな方はお世話になったはずです。

●2. 日本で入手・閲覧不可能な作品

日本で映画公開されず、商業化もされない作品については、主にAmazon.comとAmazon.co.ukで購入しました。前者はRegionコードが違い、後者はビデオ再生方式が違うので日本では再生できないのですが、当時の私は以下の手段を使っていました。

(A)US版:複数リージョンを再生できるDVDプレイヤーの購入(US版が視聴可能)。また、後に2つDVDドライブがあるパソコンを購入し、1ドライブをRegion1に設定する。

(B)UK版:パソコンのDVDドライブではUKのPAL形式でも再生できる。

さらに、英語圏のDVDは非常に安いものでした。さらにUKの場合、1週間以内で到着することも多く、映画のDVDかの周期も早いものでした。英語を聞き取れないものが多くあったものの、「英語字幕」付きのものも多かったので、英語の勉強を兼ねて購入することにしました。

【資料の方向性】番組映像DVD、関連本、番組シリーズ

●1. 再現・考証ドキュメンタリー

詳細は上記に記していますが、ここで知ったことは(1)英国には過去の暮らしを再現するドキュメンタリーがある、(2)運が良ければDVD化している、(3)さらに番組の副読本の出版もある、ということでした。『英国ヴィクトリア朝のキッチン』の元になった『The Victorian Kitchen』は全てを満たしていました。

これらの番組では、当時の道具・環境を用意しました。朽ちた屋敷のキッチンを再現し、当時のキッチンにあった道具と、当時の技術で育てた野菜を取り寄せ、さらに当時の技術を知るコックが番組でレシピを再現するのです。

追加として、(4)「シリーズ化」も重要な要素です。『The Victorian Kitchen』には、『The Victorian Kitchen Garden』と『The Victorian Flower Garden』という関連作品があったのです。なので、一つの面白い番組に出会った場合は、「時代やテーマを変えて、シリーズ化していないか?」と確認することにしています。この把握には、Amazonのレコメンデーションも役立っていました。

この系統は本当にいろんな時代やテーマを扱っています。

●2. 再現・考証ドキュメンタリー&リアリティーショー

「ある時代を紹介する」再現ドキュメンタリーの新しいジャンルが、テレビ番組で流行しだした「リアリティーショー」です。主題は「再現」に加えて、「番組参加者が、一定期間、その環境を体験して生活する」ことが加わりました。

私が最初に見たこの系統の番組が、日本でもたまたま放送した『THE 1900 HOUSE』でした。このドキュメンタリーの感想は以下にまとめていますが、生活のこまごまとしたところや現代人が体験した場合に感じる不自由さや苦痛などを垣間見ることができました。

そして、その後続番組『MANOR HOUSE』は、メイドや執事研究者にとって最高峰の番組となりました。知識でしかなかった「屋敷の生活」を、現代に再現するのです。番組に応募した家族が上流階級を、同じく様々なバックグラウンドの人たちが執事やハウスキーパー、ハウスメイド、キッチンメイドなどになって三ヶ月を過ごすドキュメンタリーです。

●3. 家事使用人が主役のドラマ・日本で見られないドラマ

家事使用人が主役のドラマはそこそこあります。世界的に大ヒットした『Upstairs, Downstairs』(『ダウントン・アビー』の元祖のようなもの)や、異なる主人に仕える3人のナースメイドが主役の『Berkeley Square』などです。

他にも日本で商業化されていないドラマ『小公子』や、日本で発売するも絶版となったサラ・ウォーターズの『荊の城』など、いろいろとあります。話の本筋ではないので割愛しますが、選択肢はとても広がりました。

というところで、出かける準備が必要なため、前半としてここまでにします。後半は「政府系資料その入手方法」や「Google Booksなどネット系資料」、「現地へ行く」などについて触れます。

それが終わった後、最後に同人活動とネットでの表現と研究について書こうと思います。最後のパートは明日に公開できればと。


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