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[同人誌]MAID HACKS 改訂版(冒頭+1-4章)

解説・補足

2023年冬コミ新刊同人誌『MAID HACKS』に関する情報です。以下、冒頭部分のみは全員に公開し、同人誌全文は、メンバーシップ/有料マガジン会員に先行公開します。

※メンバーシップの方は全文読めます。

note用の記法への変換に時間を要しており、まだ「2章」までしか終わっていません。12/30までに完了予定ですので、もう少々お待ちください。
2023/12/27:対応完了しました。

同人誌情報

タイトル:MAID HACKS 改訂版  実在の英国メイド・エピソード集
発行:2023年12月
値段  :1,000円
サイズ・ページ:A5/124ページ
頒布開始:2023/12/31(日) コミックマーケット103
表紙・裏表紙イラスト/デザイン:U様
委託先:とらのあな、メロンブックス

本書概要

 昼食のとき、執事はテーブルの上座に、ハウスキーパーである私の姉ヒルダはその反対側に座りました。姉の左側に侍女、キッチンメイド、それに私が座りました。執事の左側にはフットマン、運転手、エマ、アリス(ベテランのヘッド・ハウスメイド)が座り、ぐるっと回って、ハウスキーパーの姉へと戻ってきます。
 食事が給仕される順番は使用人たちの位階によって、決まりました。上級使用人の執事やハウスキーパーは先に給仕されるのです。
 ……他の屋敷と同様に、ほとんどの食事の時間は煉獄のような沈黙に支配されていました。私たちメイドは話したり笑ったりしたくて仕方がなかったのですが、静かにしていなければなりませんでした。それが、当時のルールです。
 「修道院のような沈黙」を乗り切るため、私はよくエマと秘密のサインを交わしていました。私が眉をあげたら、「マーマレードジャムを私にとってくれるかしら?」、まぶたを痙攣させたら、彼女の近くにあるケーキが食べたいという合図でした。
 夕食の時間には、私たちは会話を許されました。だから私たちはゲストと運転手やメイドたちと、ゴシップに興じました。
 アイリーン・ボルダーソン(ハウスメイド)
(『KEEPING THEIR PLACE』p.104)

はじめに

【この本について】

 本書は2007年12月に作った『MAID HACKS』を2023年12月に改訂したものです。
 『MAID HACKS』は、主に19世紀英国ヴィクトリア朝に生まれて20世紀前半までに活動した「実在したメイド(執事や他の使用人含め)」が語った言葉を資料本・自伝などから抽出し、彼女たちが生きて過ごした時間や世界を描き出して伝えることを目指しました。
 2007年の刊行当時、日本はメイドブームのピークを迎えていました。
 創作の世界である「漫画・アニメ・小説・ゲーム」などの領域でメイドブームが生じ、1990年代後半から日本独自の「日本のメイドさん」とも言えるキャラクター像が確立し、「歴史的な家事使用人としてのメイド」のイメージを上書きしていきました。
 そうしたイメージが先行する中、実際に存在した「職業としてのメイドはどんなものだったのか」という関心が高まり、英国メイドに関する表現や知識が、同人の場を含めて日本で少しずつ増えていくことになります(森薫先生の『シャーリー』も同人誌から)。
 そして2005年を中心とするメイド喫茶ブームにより、さらにメイドのイメージが加わりました。メイド喫茶の店舗数が増大し、テレビや雑誌などのマスメディアでの報道も増え、「メイド」は「メイド喫茶のメイド(ウェイトレスの役割)」を指すようにもなりました。さらにメイド喫茶を舞台とする創作も増加し、メイドイメージは拡散し続けました(詳細は2017年に星海社から出版した『日本のメイドカルチャー史』をご参照ください)。
 このような状況に面していた2007年当時の私は、英国メイドを至上とする立場であったため、日本独自の「メイドイメージ」の広がりによって「英国メイドがHACKされた(書き換えられた)」ように感じました。そこで「英国メイドの本を通じて、世の中に流布するメイドイメージをこちらからHACKする」と思い、本書を作りました。

【『英国メイドの世界』の原点】

 この本を作った2007年頃、私の研究も転換期を迎えていました。資料の中心は総合的な英書の資料本から、資料本が参照する「家事使用人たちの自伝」へとシフトしました。
 資料本で読んで興味を持ったメイドの自伝を取り寄せて読んでみると、「なぜ、あの資料本はこのエピソードを載せていないのか」と感じることが多くありました。当たり前ですが、書き手によって魅力を感じるポイントが異なり、取捨選択も異なるのです。
 そこから「ならば自分で全部読むべき」と考え、多くの自伝を読んでいくことになるのですが、そうした様々な使用人が語る生の言葉は私にはとても魅力的でした。
 また、家事使用人の言葉を中心にメイドの世界を伝える資料本とも出会い、自分でもそうした「自分が魅力的だと考えるエピソード」を集めたいと思いました。そんな理想を詰め込んだのが『MAID HACKS』でした。
 この本がなければ、2010年に講談社から商業出版したメイド研究本『英国メイドの世界』を作れませんでした。『MAID HACKS』を作る中で集めたエピソードは『英国メイドの世界』に反映され、ハウスメイドや執事などの様々な家事使用人の職種解説の際、彼らの「声」を伝える役割を果たしたからです。このような経緯から、『英国メイドの世界』をお持ちの方には「読んだことがある」というエピソードが散見するかと思います。
 『MAID HACKS』には、『英国メイドの世界』ですべてを引用・紹介できていないものや、掲載していないものも載せています。また、編集によって伝え方も変わり、受け取る印象も異なる面もありますので、両方の軸でお楽しみいただければ幸いです。

【改訂版での変更点】

・冒頭の「はじめに」を、2023年版として書き直しました。
・一部エピソードのテキスト・翻訳の見直しを行いました。
・増補版として、9章「My little master and lady」を追加しました。
・目次の☆マーク付きエピソードが、改訂版で新規追加したものです。

【補足】

・可能な限り「名前(当時の職業/年齢/年代)」の順番で、そのエピソードで登場する人物を紹介しています。
・エピソードはメイド中心ですが、メイド以外の多くの家事使用人(執事など)も含んでいます。

【今回の翻訳で出てくる用語の簡単な解説】

 本当に初めての方向けの簡潔な解説です。詳細を知りたい方は、『英国メイドの暮らし 電子書籍版』(講談社)をご参照ください。


  • 男性使用人

    • 執事:男性使用人(室内勤務)の責任者。上級使用人(後述)。

    • ヴァレット:近侍。主人の身の回りの世話をする。上級使用人。

    • フットマン:執事の下につく使用人。給仕や応対など表に出て、身長を重視。

    • ホールボーイ:フットマンのさらに下で、雑用を担当する見習い少年。

    • 女性使用人

      • ハウスキーパー:女性使用人の責任者(家政部門。料理除く)。上級使用人。

      • ハウスメイド:屋敷の中を掃除するメイド。

      • パーラーメイド:フットマンと同じように表に出るメイド。背の高さを重視。

      • スティルルームメイド:ハウスキーパーのサポート役。お菓子やお茶の担当。

      • コック:女性または男性の料理責任者。シェフの場合も。上級使用人。

      • キッチンメイド:コックの下で料理を行う。

      • スカラリーメイド:スカラリー(洗い場)で皿洗いや鍋磨きをする雑用のメイド。

      • ランドリーメイド:屋敷内で洗濯を担当。

      • ナニー:乳母。育児の責任者。上級使用人。

      • ナースメイド:乳母の下で子供を世話するメイド。

      • レディーズメイド:侍女。女主人に仕える。裁縫や整髪など特殊スキルを有する。侍女も近侍同様に上級使用人。

      • トウィーニー:ハウスメイドとキッチンメイドの両方の下で、料理も掃除も手伝う。名前は「between(間)」に由来。ビトゥイーンメイドとも言う。

      • メイドオブオールワーク:すべての仕事をひとりで行う。中流以下の家庭に多い。

    • 特殊な用語

      • 主人と女主人:使用人の雇用者。屋敷の主。

      • 階上:主人が暮らす屋敷の「上の階」から派生し、「主人たち」を指す。

      • 階下:屋敷の階下で働く使用人たちを意味する言葉。

      • 上級使用人:雇用主に対して責任を負う管理職。人事権を持つ。

      • 下級使用人:上級使用人の部下。経験を重ねて、上級使用人への転職を目指す。


目次

■1章:”Shirly” was not the only maid p.14
(13歳の)メイドは『シャーリー』だけではなかった
 01:働きなさい
 02:面接を受けました
 03:制服を揃えて
 04:メイドになるには制服が必要
 05:メイドさん、お留守番
 06:制服について
 07:教会へ行くときは控えめに
 08:休み時間は少なくて
 09:メイドの仕事を終えて
 10:⾃分で稼いで制服を買い、「⼤⼈」になる☆
 11:女主人は14歳

■2章:We have worked , they had worked p.22
働くということ
 01:お母さんと一緒に面接
 02:代理人もいました
 03:奴隷市場のような扱いも
 04:孤児院の紹介で
 05:「パパにぶたれる」
 06:蝋燭の光だけを頼りに働く
 07:夜に、ひとり泣く
 08:時間厳守
 09:火をおこして、水を運んで
 10:ホームシックでも帰れない
 11:手がひどく荒れてしまいます
 12:農場でも働きました
 13:やっぱり夜遅く、朝早い
 14:それでも仕事はしないと
 15:繰り返す転職の果て
 16:大きな「屋敷」から小さな「家」への転職
 17:職場の悪口を言って、配置転換されて
 18:しっかり仕事しないと駄目
 19:「やり直し」

■3章:Between “Upstairs” and “Downstairs” p.35
階上と階下の狭間で
 01:本当に私を困らせたのは主人ではなく
 02:職場のセクハラ
 03:理不尽上司
 04:コックから逃げました
 05:ハウスメイドにからかわれて解雇されました
 06:今度の上司もあまりいい人ではなかった
 07:態度が違う
 08:下級使用人は上級使用人に仕える
 09:あなたのためにドアを開けましょう☆
 10:本当の主人が誰か、知っていますか?
 11:神に祈るしかありません
 12:聞こえてくる鍵束の音
 13:「ミルク、温めておきました」
 14:ミルク、もう一杯
 15:お菓子はひとつまで
 16:拾いません
 17:お姉さんと一緒、でも他人行儀

■4章:We lived in the same house p.45
同じ屋根の下にいる
 01:ミステリの女王も使用人を好きだった
 02:ヴィクトリア女王の夫も語る
 03:侯爵が振り返る、古きよき時代
 04:執事の部屋での釣りや、ナニーに怒られたこと☆
 05:メイドを雇う
 06:メイド、鍛えます
 07:人気のメイド養成校?
 08:無理をしてでもメイドを雇いたい
 09:働きたくない職場

■5章:We lived in the different world p.51
異なる世界に生きている
 01:良家に仕える使用人が守るべきルール
 02:19 世紀メイドマニュアル
 03:何も知らない
 04:主人たちにとって、使用人は「家具」である
 05:食べるものが違う
 06:転職前から「上流」と「使用人」の区別
 07:ふたつの世界にある壁
 08:メイドさんとのお茶会は「特権」
 09:「手伝うことを許されなかった」
 10:かの小説家にもあった話
 11:階下で大冒険
 12:スパルタ
 13:名前を覚えない
 14:私たちよりいい食事
 15:「だって、服が欲しいんだもの」
 16:けちにも程がある
 17:リロード! リロード!
 18:拘束する女主人☆

■6章:Life below stair p.63
階下の暮らし
 01:優雅なお茶会
 02:メイドではない、本当の「私」
 03:独特な密会
 04:僕たちみんな、歌が好き
 05:楽譜を買って、帰ります
 06:お姉さんと一緒、歌が好き
 07:みんなでダンスの練習
 08:時には怒られましたけど
 09:歌と踊りが一番楽しい!
 10:気ままなどんちゃん騒ぎ
 11:お腹一杯食べました
 12:お風呂のルールと洗濯物
 13:クリスマスには素晴らしいプレゼント
 14:あの時代を振り返ってみて

■7章:Unique p.72
ユニーク
 01:「女王の夫」と呼ばれた使用人
 02:激怒してもOK。でも子供に愛称で呼ばれて解雇
 03:「私は間違っていない」~主人を訴えた執事
 04:大学に行けず、メイドになる
 05:メイドは負けない
 06:「私は、壁を壊す」
 07:気に入らない職場だから
 08:紹介状? そんなのどうにでも出来る
 09:メイドのシルクストッキング
 10:髪?を触らせて
 11:イリーのご先祖?「紳士」がメイドを熱く語る

■8章:Can’t help loving you p.80
悲喜こもごも
 01:お腹ぺこぺこメイドさん
 02:お腹いっぱいで解雇になった☆
 03:メイドさん、お風呂で眠る
 04:氷はひび割れて☆
 05:お金、無くなっちゃいました
 06:朝からビール?
 07:酔ったメイドさん
 08:神様のユーモア?
 09:使用人支配に使われた神の言葉
 10:実家へ送金
 11:家に帰りたい
 12:私には、必要ないから

■09章:I wonder what Nanny would have done p.89 ☆改訂版追加章
ナニーだったらどうするだろう
 01:ナニーの影響⼒について☆
 02:チャーチルが書いた母への手紙☆
 03:ナニーとの別離☆
 04:親よりもナニー☆
 05:別離の衝撃☆
 06:大人になっても続く影響力☆
 07:⼦爵夫⼈が語るナニー
 08:伯爵夫⼈もナニーについて語る☆
 09:家⻑を「脅す」ナニー☆
 10:戦時下のナニー☆

■10章:Memories p.98
古き良き時代
 01:お屋敷で働けたことが一番幸せ
 02:私たちには私たちの居場所があった
 03:とても素晴らしい時代
 04:「メイドであることを後悔していない」
 05:「私はメイドだった過去を話したくない」
 06:義務を果たしてほしい☆
 07:幸せそうだった
 08:大いなるノスタルジー
 09:献身、ただ献身
 10:愚直で、どうしようもないほど忠実なメイド
 11:使用人は家族
 12:彼女は私たちの家族

■最終章:"As a maid", She said p.104
 01:「お役に立てなくなりますから……」
 02:一途に働いたメイドさんからのアドバイス
 03:名言を残した執事役の男性
 04:"As a maid”, She Said
 05:人間として
 06:わがままな女主人から尊厳を守ったメイド
 07:心理学者が分析した「メイド」の仕事
 08:執事のなすべきことは、「統率する」こと
 09:「どうして私に相談しなかったのですか?」
 10:メイドから母への手紙
 11:R.I.P.

■参考資料 p.114
■あとがき(改訂版) p.116


1章 “Shirly” was not the only maid

(13歳の)メイドは『シャーリー』だけではなかった

 「13歳のメイド」を主人公とした森薫先生の名作『シャーリー』。彼女のような「13歳のメイド」は、一時期の英国では珍しい存在ではありませんでした。労働者階級の貧しい家庭に育った子供たちは家を手伝いながら(時代が新しくなると学校に通いながら、或いは学校を卒業すると)、やがて独り立ちしていく準備のため、外の世界へ飛び出しました。
 使用人の仕事は「住み込みで寝る場所がある」「食事も提供される」「最初の就業に高いスキルを求められない」点で、子供たちの就職先として選ばれやすいものでした。

【ある少女の場合:その1】

デイジー・ノークス(13歳/1922年)
 デイジー・ノークスのエピソードは、「メイドになる前から他の仕事をして」、「採用面接を受け」、「メイド服を買う」という当時の当たり前の出来事が揃っています。彼女の言葉からメイドさんのいた英国の様子を感じてみましょう。

■Episode.01:働きなさい


 デイジー・ノークスは学校に通っている頃から仕事を始めた。彼女は近所の家で床磨きや皿洗いや鍋磨きなどをして、毎週6ペンスを稼いだ。
「12歳の頃のある土曜日に、私はママに仕事がとても大変だと愚痴をこぼしました。でも、ママはこう言っただけでした。
「もしもお金が欲しかったら、働くことでしか得られないのよ?」

(『LIFE BELOW STAIRS in the 20th Century』p.42)

 デイジーの母親が特別に厳しかったわけではありません。当時は幼い頃から家を手伝うことは普通でした。こうしてパートタイムでの通いの仕事をしながら、実際の仕事で必要になるスキルや言葉や、「他の人の家で働くこと」を覚えていきました。

■Episode.02:面接を受けました

 デイジーの姉ふたりも既に働きに出ており、次女はホールボーイの養成学校に勤めていた。1922年にその姉は、学校の寮でメイドの仕事があると告げ、デイジーは母と一緒に面接に出かけた。寮に着いた時、デイジーの母は「何か答えるときは立ち上がって、すべて、マムと答えなさい」と告げた。
「私と母は裏口まで回りました。使用人は正面玄関を使うのを許されませんでした」
 執事はデイジーと母を応接間に招き入れ、そこでデイジーはあまりに豪奢な室内の装飾にただ圧倒され、自分の住む家とのあまりの違いに驚いた。
「女主人が部屋に入ってきて、私たちに座るように言いました。椅子のひとつに腰掛けた私に、女主人が質問しました。正直か、よく働くか、信頼できるか、早起きか(この時の私はそれが朝5時半だとは知りませんでした)、そのすべてに私は「はい」と答えました。
 立ち上がるように言われて、私は立ちました。女主人は「もう少し長いスカートを履いて、髪の毛を結い上げれば、あなたは背が高く見えるわね」と言い、さらに年齢も聞いてきました。
「来月で、14歳になります」
 こうして私の面接は終わり、賃金は年14ポンドと決まりました。年の終わりに2シリング6ペンス昇給する約束でした」

(『LIFE BELOW STAIRS in the 20th Century』p.42)

 面接に母親が同伴するのは意外かもしれませんが、これから何度か出てくるエピソードです。面接は女主人が直接する場合と、執事やハウスキーパーなど上級使用人が行う場合がありました。現代でいえば、企業規模に応じた採用面接に似ているでしょう。
 「正面玄関を使用人は使ってはならない」というのは、多くの使用人たちが語る当時のルールです。正面玄関は「屋敷で暮らす主人・滞在するゲスト」にのみ開かれました。

■Episode.03:制服を揃えて

「14歳の誕生日を迎えてから、私はすぐに仕事を始めることになりました。それからすぐに私は家を出る準備をしました。新しい制服と、それを入れる鞄が必要でした」
 パートタイムの仕事で貯めた幾ばくかの貯金をはたき、デイジーは市場で中古のトランクを買った。制服は母が作った。
「朝に着る為の青いドレスが2着、線が入った午後用の黒いドレスが1着、それに縁取りした4つの白いエプロンが必要でした。帽子2つは朝用で、フリルの帽子は午後用です。靴も朝用が1足、午後用の靴が1足、それに3着の黒いストッキング、そしてセルロイド製の襟と袖を揃えました」』

(『LIFE BELOW STAIRS in the 20th Century』p.42)

 採用が決まった後、メイドをいちばん悩ませる準備は「制服の用意」です。とにかくお金がかかりました。現金に乏しい貧しい一家にとっては一苦労で、中古(古着や姉たちのお下がり)も珍しくありません。

【ある少女の場合:その2】

リリー・グラハム(スカラリーメイド/13歳/1906年)
 もうひとり、ヴィクトリア朝に生まれ、エドワード朝でメイドになった少女にLily Grahamがいます。孤児院出身の彼女の経歴は、前述のデイジーと異なりますが、メイドになるまでに通った道筋は似ています。

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