小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#20 約束、やっぱり違う

木暮葉凰 6月3日 金曜日 午後6時05分
       愛知県 夏露町 黄昏家 リビング
 
「今日はありがとうございました」
「いいのよ!それより、本当にご飯いらなかった?」
 このまま長く居続けると、母さんに怒られてしまう。ご飯も食べてきた、なんて余計に。
「はい、そろそろ門限なので」
「そっか!、、、あ!」
 まつりさんが何かを思い出したかのように、走っていって、戻ってきた。

「これ、お土産!渡す人迷ってたんだけど、いいところに!」
 まつりさんが渡してくれたのは、友達と東京に行ってきたときのお土産のお菓子と東京タワーのキーホルダーだ。
「いいんですか?ありがとうございます!」
「ありがとな、葉凰!また来てよ!」
 わらべにそう言われた。
「あぁ、また来る」

「─ん?この子がまつりの言っていたお客さんかい?」
「あ、始めまして」
 突然、黄昏家のお父さんであろう人物が肩にタオルを掛けて出てきた。身長が、というか身体がデカい。肩に、横倒しにしたパイナップルを乗っけれるくらい。身長は、190、といったところだろうか。
「おお!よく来たね」
「さっくん、風呂上がったの?」
 わらべがそうやって言うもんだから、俺は「?」と戸惑った。

 それに気づいてまつりさんが、
「この家は父さんとか母さんを名前で呼ぶの」
 と言った。
「そうなんですね」
 俺が返すと、わらべが「あ、名前で呼んじゃった!」と困った表現で笑った。
「母さんはゆーちゃん、父さんは八朔(はっさく)さんだから、さっくん!隠してたんだけどなぁ」
「隠す必要無いだろう?」
 八朔さんがははっと笑った。

「あ、そうだ、葉凰。送ってっていい?」
 突然、そう言われた。
「ん?なんで?」
「や、犬の散歩があって」
 え、この家犬もいんの?
「そういえば、今日はわらべの番だよね!行ってきたら?」
 犬も見てみたい。し、帰ってくるときはできるだけ友達と帰ってきて、って言ってたし。
「じゃあ、ついてきてくれる?」
「いいよ!任せとけ!」
 黄昏家の3人に頭を下げながら庭へ向かった。

黄昏わらべ 6月3日 金曜日 午後6時10分
          愛知県 夏露町 黄昏家 庭

「─この子が犬!」
「名前は何て言うの?」
「あんみつって言うんだ!」
「そうなんだ、可愛いなぁ」
 女の子の犬。種類は秋田犬だったかな。
 いつもは家の中に居るが、どうしても外で遊びたかったらしくて、さっきまでさっくんと遊んでいたのだ。
 リードを着けて手首に巻く。
「行こう、あんみつ」
 あんみつは元気に吠えた。

 それから、他愛もない話をした。
 家族のことを名前でなんて呼んでんの、とか、歴史公園楽しみ、とか。
 俺も、姉ちゃんはまーちゃん、母さんはゆっちゃんって呼ぶんだ、とか、願い池を早く見てみたいな、とか答えて。

 葉凰の住むマンション入り口の前に立った時には、空がオレンジ色に包まれていた。
「それじゃあな、葉凰!」
「あぁ、またな」
 お前もまたな、とあんみつの頭を葉凰が撫でる。あんみつは目をつぶって身体を震った。

 葉凰の背中に手を振る。階段を上ったかと思いきや振り向いて、
「アカペラすごかったな!」
 って言ってきた。
 予想外で少し驚いたけど、あの感動はまだ耳の奥で響いていた。
「いつか一緒にアカペラしよう!」
 俺はそうやって言った。足元で、あんみつも元気に吠える。
 葉凰は笑顔でうなずいて、走っていった。

 静かになった入り口で俺は目を細めた。
 いつもこのくらいオレンジの時に、氷と俺は「またな!」っていう自動的な約束を口にしていた。
 誰かと約束したのは久しぶりで、でも何か間違えた気がして、服の裾をぎゅっと握った。


読んでくださってありがとうございました!
次回もお楽しみに!

それじゃあ
またね!

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