清朝(成鳥)

固まった使用済みコンタクトレンズを蛇口に貼り付ける不躾さを自身に恥じるほど、彼女との生活は懐かしく馴染み、それでいて規律正しく機能していた。

洗面所を出ると、彼女が並べた机の上に寝袋を敷いて眠っている。効き過ぎた冷房を気遣って深夜に彼女の生脚にパーカーをかけたのだが、それは肌けて床に落ちている。

奇妙な寝床だった。無償で泊めてくれるキリスト協会の一室には、小学生用の机が無造作に並べられていた。床で眠ると黒い甲虫に襲われそうなものだから、その机たちをガタガタと並べて、ベッド代わりにしたのだ。小学生なら一度は憧れそうなものだ。勉強にしか使ってはいけないはずの机の上で寝そべっていいだなんて。

私は夢を見た。それは彼女がいなくなってしまう夢で。私の体はガラクタになり、離れていく彼女の手を握ることもできない。苦しく、声は出ない。私の瞳は滝の源流のように壊れ、惨めに濡れた。手足を毟られたバッタがもはや殺してくれと哀願する様そのまま、彼女なしの私に生きる希望は見えなかった。自身を薄汚い虫けら未満に思った。

足先を痙攣させ、私が目を覚ました。隣に彼女の美しい寝顔があった。無防備な顔のまま、安定した吐息を立てて。

変わっていく旅の日々の中で、変わらない彼女がいた。愛してると告げるよりおはようと言える幸せが、そこにあった。

#小説

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