アウラ

大きな欠陥を、もう見抜いてしまいましたか。あまりにも自明だけれど。悔しいとか恥ずかしいとか、もう全部の感情がどうでもよくなってしまった。きみも、わかっているんだろう。

人の絵が、描けないんだ。人でなしの僕には、人の絵を描くことは不可能なのだ。

ヨーロッパ圏の文化では特に、人間賛美のオンパレードだね。僕の絵は美術館の地下の角部屋に展示されることも叶わず、路上で人の目につこうと粘っていたらポリスに注意される始末だろうなあ。

理由はわからない。僕には人が描けない、事実だけが頑固に居座っている。昔からそうさ。描く気力も起きないのだ。描き出してみれば、インクの無駄だと気づいてゴミ山と化す。

いっそ、裸体画なら上手くいくかもしれない。試させてくれる恋人でもいれば。裸体は、美しい。まるで芸術品かケモノのようで、人間らしさがなくなるんだ。そう思わないかい。魔術的なパラドックス。最も曝け出した本質たる存在が、普段見慣れた光景を完全に欺くんだぜ。

時々絵を売ったらどうだい、と提案されるんだ。ありがたいお褒めの言葉に違いない。けれども、これが写真なら大量生産できるだろうが、絵は出来ないんだ。困ったものだけれど、僕の腕は二本しかないし、全く同じ絵なんて描けやしないよ。

世界にたった一枚。それっきり。そのためだけに、旅をしたい、もっと多くを知りたい、深淵を覗きたいと思う。そして大切な人に贈りたいのだ。吐き出せない言葉の代わりに、色を添えて。

誰に贈るかというモチベーションがすべてに関わってる感情派の僕には、やっぱり仕事として務まらない。最上の奉仕が誰にでもできるほど、人生はのっぺり優雅なものじゃないと、僕は信じてしまうのです。

#絵

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