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『SHE SAID』と『その名を暴け』

一撃にするために


映画『SHE SAID』を見た後、その原作本『その名を暴け』(新潮文庫)を読んだ。#MeToo運動が始まるきっかけとなるハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性犯罪を、困難の多い調査を重ね、報道するまでの、「ニューヨークタイムス」二人の女性記者(ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイー)の道のりを描いている。映画では、記事として発表するまでを、原作本では、その後の#MeToo運動の高まりから、もう一つの勇気ある告発の行方、そして(映画では記者二人が願ていたが諦めていた)取材に応じた女性たちが一度に集まる日が実現した模様が収められている。
被害女性への調査は困難を極めた。名前入りの記事に掲載することを許可してもらうのが困難であり、示談の契約でがんじがらめになっている被害者が多かった。
二人は、加害者側から反論ができないように裏を取る。信頼される記事にするために公平さを保つために、掲載する前には加害者に反論の時間を与える。ハーヴェイ側とのやり取りは息をのむ。

私が思い出したのは、昨年末放映していた長澤まさみ主演(関テレ)のドラマ「エルピス」のセリフだ。

週刊誌編集長が元テレビディレクターの拓朗に言う。
「権力って言うのはさ、瞬殺しかない。いかに一撃で倒すかなの。もたもたしてたら反撃ぶっくらう。裏とっていないスクープなんか、ゴシップ誌は飛びつくけど、まともなテレビや新聞は真偽が確認されるまでまずやってくれない。んなことやってる間に敵は、また全力でもって裏が取れないようにつぶしてくるよ」
(『エルピス』 渡辺あや)

真偽が疑われない、確かな記事を書くために奔走しつづけた記者、バクアップする編集者の芯の通った仕事ぶりが爽快だ。

邦題は『その名を暴け』

映画『SHE SAID』の原作本を探すまで時間がかかってしまった。邦題に『SHE SAID』という文字が副題にも入っていなかったから。
彼女たちが話してくれたから報道することができた、彼女は語った――
女性一人一人の存在がなかったことのように選ばれた邦題。

翻訳者の古谷美登里さんは訳者あとがきの一行目(文庫版あとがきでは冒頭で)で『SHE SAID』(本書の現代)と紹介している。
釈然としない邦題のタイトルは何が表れているのだろうか…… 


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