こえ:「キャッチコピーはつけない」大学四年Uさんのばあい

Uさんは大学四年生、すでに一社から内定をもらっている。「就活は楽しかった」と話すUさん。就活をほとんど終えた彼が、コピーライターを志望した理由、いま就活や仕事について考えること。かつての挫折と、そこから呼び戻してくれたもの。

で、入ったことないビルとか入って、なんかこう、まったく見たことがない世界があるもんだなあみたいなのを知れたのも就活かなあ。
正直ビジネスってあんまりこう、あいまいさを大切にしないじゃないですか。好きじゃないなって、思っては、いましたけど、まあでも、そっちじゃ生きていけないだろうな僕は、みたいな、受けたこともないし、と思って、まあ就活を、して、しょうがなく、しょうがなく。
19のときに、いわゆるその、失恋と、ゼミ落ちと、それから発達障害の診断。これが三つ重なったんですよ。それでもう、ばーっとそういう状態になって。

「こえ」は、わたしが実際にだれかに会い、仕事に関する話を聞いて、それをできるかぎりそのまま書き起こす、ただそれだけのシリーズです。いま現在仕事をさがしている人をメインに、いろいろな人の話を聞き、載せさせていただけるといいなと思っています。



●めったないくらい褒められる、オフィスがかっこいい

一応その、就活のとらえ方に関しては、自己開示してフィードバックしてもらえて、っていう機会で、ポジティブに捉えてましたね。なんか……そうですね。

―フィードバックしてもらえるって、内定以外になんかあります?

インターンとか、OB訪問だったりとか、面接練習とかやってたりするんですけど、まあ、なんらかのかたちで感想をもらうじゃないですか。ここがこうだったとかいわれるタイミングが、まあ、多かったんで。

要するにこう、一歩。嬉しかったなあみたいな、感じで、最近なんかあの、海外インターンに行く前の研修なんかに行ってるんですけど、こういうところがいいこういうところがいいみたいなことをまあ、言ってくれるわけですよ、あっちから。で、こう、ありがとうございますみたいな感じで、そんなに褒められることってめったないので。

―就活はいつごろはじめて、どういう流れで……

六月から、そうですね、だから、三年の六月ですね。20卒として3年の六月にはじめて、最初にやったことが、いわゆる就活サイトに一括登録するところですよね。であと、サマーインターンのエントリーシートをいっぱい出すんですよね。で、エントリーシートをいっぱい出してると自己分析とか業界分析をせざるを得ないので、だんだん出来上がってくるわけですよね。で、サマーインターンを何個か参加して、でofferboxにオファー来た会社にチョロチョロっとインターン行ったり面談したりして、終わりです。そんな、つまんない、就活してますけど……

―自分的にはどうでした? つまんないなって感じでした?

いやっ、まあ、人に言わせればつまんないかもしれないけど、自分的には、あのー、色んなその、ぜんぜん見てもなかったITの会社さんからオファーが来たりとかして、で、入ったことないビルとか入って、なんかこう、まったく見たことがない世界があるもんだなあみたいなのを知れたのも就活かなあ。まあそんな、結構月並みなことしか言えないですけど。

―これがとくに面白いなーってことありました?

面白いなーっていうか、その、僕がしょっちゅう気にしてたのは、気にしてたのはオフィスのきれいさみたいなのがすごい気になっちゃう人で。空間、その、空間とか、建築だったりとかっていうのが趣味なんですね。でベンチャーのオフィスってなんでこんなきれいなんだろうって、かっこいいんですよね。あのお、僕が今まで行った中でいちばんオフィスがかっこよかったのは、IT企業なんですけど、あそこのオフィスはなんか、オフィスのなかに木が生えてるんですよ。

―えっ、リアルに生えてるんですか

リア、リアル、いやなんかこう、リアルで生えてるんですよね、あれね。

―植木鉢とかじゃなくてですか

いや、生えてるんですよ。壁から。壁から生えてて、しかもその、壁が、アルミホイルを丸めたのがいっぱいついてるみたいな壁なんすよ、それが高級な感じなんすよ

―聞くところぜんぜんおしゃれではない……(笑)

あはははは、いや、それをおしゃれにした感じの、アルミホイルを集めて、そっからこう、木が、たくさん生えてるみたいな。おーなんかすーごいオフィスだなと思って、なんすかね、ベンチャーってこういうところにお金かけるのかな、全然私服でいいし。ていうなんかこう、オフィスってなかなかこう、商業空間じゃないから入れないじゃないですか。入れない中でこう、きれいなオフィスもあるもんだなあとするのが、ね。ふふふ。

までもなんか自分自身が働きはじめてから、ああいうオフィスもあるんだとかああいう空間で働いてる人がいるんだーって知ると、僕的には、それがこう、どう、作用するかわかんないけど、なんらかの作用はするんすよね。空間に対するこだわりが強かったんですけど。なのでその空間を知れたっていうのは結構印象的な出来事ですかね、就活の中で。



●とはいえサラリーマンってつまんねえなあ

あとなんだろうなあ。とはいえサラリーマンってつまんねえなあっていうのは。思った。っていうのは僕の中で結構、絵を描いてる人とか、バンドをやってる友達とかが周りにいっぱいいるような環境の中で、ビジネスばっかりやってるビジネスマンサラリーマンみたいな人がこう、就活ではいっぱい会うわけですけど。

まあそういうのが好きなんで、正直ビジネスってあんまりこう、あいまいさを大切にしないじゃないですか。好きじゃないなって、思っては、いましたけど、まあでも、そっちじゃ生きていけないだろうな僕は、みたいな、受けたこともないし、と思って、まあ就活を、して、しょうがなく、しょうがなく。

―ほんとうは、やなんですか?

まあできればギター弾いて生きていければいいですよね。

―あ、ギター弾くんですね。

いや弾かないんですけど

―あっはっはっは

(笑)。いやあーだからまあなんでもいいんすけど、なんでもいいんすけどその、ギャーンってやって、ワーっと言われて、ハイってもらって、イェイ。そりゃー嬉しいですよね。それがいちばん嬉しいに決まってるじゃないですか。誰しもそうだと思うんですけど。そんなかでみんな一生懸命予算管理とかするわけですよねえ。だからまあくだらないなあって思う、思っちゃうのも、あります。くだらないっていうと良くないですけどね。ま、僕にはちょっと、こう、魅力を感じない世界でもある。



●めんどくさいからコピーライターやりたいって言ってます

いろんな側面を持つことって多分誰しもあるじゃないですか。で、多分、就活ってどうしてもその、一つの側面だけを、見せるためって、言われがちなんですよ。わかんないから。あっちからすると短い時間で短い面接で、あれもこれもあれもこれもって言ったら、実態がわからんと。そんだから一つに絞ってくれっていうのがま、セオリー、なんですよね。

でも、ほんとその、人ってこう、いろんなねえ、要素が集まって、できてるわけですよねえ。そうするとこう、なんか、一元的というか、一元的な側面ばっかり見せて、それで判断されるのってあんまり好きじゃないなって思って。結構それは葛……藤してたんですよね。だから(就活サイトの)プロフィールもこういう感じになってるんですけど。まとまりがないんですよ。あえてこう、例えば、一つの言葉に抽象化させたりとか自分のキャッチコピーをつけるだとかは、しない。としていて、こんなことやってます、って、

―すごくこう、軸を決めろとか言われるわけじゃないですか。そういうときはどう対処してるんですか?

まあ、もうめんどくさいからコピーライターやりたいって言ってます。

―あっ、めんどくさいからなんですね。

あ、もちろんやりたいのはやりたいですよ。やりたいのはやりたいんですけど、コピーライターになりたければ、たとえば将来、じゃあ、自分のお店持ちたいだとか、将来福祉事業をやりたいだとか、まあいろいろあるんですよね。いろいろある中で、こう、全部ばらばらだと、まあ納得してくれないわけですよね。

そうすると……こう、なんだ、なんだろう、「矛盾になるんじゃないのか」って、結構アグレッシブなことを言われたりするんですけど面倒くさいから、どちらにせよ、ファーストキャリアとして最初にする仕事っていうのがまあ一つしかできないじゃないですか。じゃあどれやるのって言ったらまあコピーライターかな。

いま、いまをどうする? っていうことを考えたら、まあ、いま、って言われたら、ねえ。っていうのはまあやりたいこととか軸とか言われると、それは、ひとつじゃ収まんない、っていうのが、常だと思うんですよね。っていう。思ってますね。

―なんでコピーライターなんですか?

コピーライターは、あのー、まず、いろいろ理由あるんですけど、ひとつに、僕はあの、あんまりこう、かっちりした業務というのが得意ではないのですよ。ダコクが一番苦手な業務なんですよ。忘れちゃうから。

―ダコク?

タイムカード切るやつ。

―ああ、打刻。

うっかりいつも忘れちゃうんですね。そんな自分なんで、いわゆるその、ルールに従った仕事とか、こう、律するものが自分の外にあるような仕事はできないだろう。で、じゃあ、自分の自由なやり方とか自分の自由な考え方とかが許される職種って言ったら、多分クリエイティブだろうなーって思ったんですよね。

で、まあビジネスやりたいと思ったのが筆頭ですよ。そうなるとテレビは外すわけですよね。テレビとかは僕には辛い。で広告になって、あと単純に、絵が描けるわけじゃない、プログラミングができるわけでもない、逆に、文章書くのはそんなに苦じゃないし、好きだなっていう、消去法で。たとえば絶大な信頼を置いているコピーライターがひとりいてそれになりたいみたいなことでは、ない。

―コピーライターなったらそのあとどうするんですか?

コピーライターなったら、とりあえずなんとかして賞をとろうと。そうそうそう、わかりやすいんですよ。クリエイターの仕事って、賞をとるとか、ものが、結局できるわけじゃないですか。だから結構それが、みんなが見るわけですよ、業界の間で。



●これがほんとに美談なんですけどね

―内定出る前はどんな感じで過ごしてました?

早かったんですよね、内定が。12月にもらったんですけど、その前は、なにしてたっけな。なんか、気楽だったんじゃないですか。就活なんかすごいびびってたわりに、結局その、いまもらった会社も、逆求人サイトであっちから来てくれた会社なんで、ほんとなんか、ああ、はい、行ってやってもいいですよぐらいのスタンスで行って、もらって、なんで……あんまりこう就活でひいひいひいひい言った覚えはない……

―何でびびってたんですか? 逆に

びびってたこと……なんだろうなあ。あーでもなんか、はじめてサマーインターンの面接に行って、おっきい人材の会社と三番手の広告代理店に落とされたときは、ああ俺大手に向いてないのかなみたいに思った時期もありましたね。でも別に物怖じするタイプでもないし、自分に自信がないわけでもないし。

―ずっとそういう性格なんですか?

いや、これが違うんですよ。これは結構、パーソナルな部分なんですけど、もともと僕は実は入院していまして、その入院先というのがですね、まあいわゆるその、なんでしょう。社会にあぶれてしまったような人が行く病院の中でですね。僕は結構ハードに、入院してたんですけど、何があったかっていうと、19のときに、いわゆるその、失恋と、ゼミ落ちと、それから発達障害の診断。これが三つ重なったんですよ。

それでもう、ばーっとそういう状態になって。そんときに、いろいろと、考えたことがあり、一度こう、ああ、もうこれ以上ないくらいのどん底だなっていう気持ちにさせられて、でも、今は逆にそれがあったおかげで、まあいろいろ見方が変わったりとか。

なんか、まあ、もういま思えば根っからそんなに深く考えないタイプになりましたけど、もともとは結構ナイーブなところがあったし、一度もう思いっきり、だから、すごい熱出したらそのあとスッキリするみたいな、そういうことだと思うんですね。打刻が苦手っていうのもADHDなんで、そういう業務ができないんですよ。で、ただそのできることって考えたらどうだろうって思ったときに、クリエイターだったらできるかなあっていう、ことですね。

―そういうどん底状態から、立ち直れなくなる人もいるわけじゃないですか。そこは、なにが

まあ薬飲んでりゃ治りますね。僕はそうでした。単純に鬱の薬を三か月も飲んでたらちょっとは治まりますよね。

あっ、あと、ああーそうだあれだ。僕は結局、塾のバイトを今でもやってるんですけど、これがほんとに美談なんですけどね。入院していた期間って僕休んでたんですね。で、当時受け持っていたクラス、受け持っていた生徒も一回手放してるんですけど、で、復帰したときに、復帰した当日、まずもう、僕のレターケースが残ってるんですよ。

もう、首になったと思ってたんで。残ってて、で、みんなが、待ってたよみたいなことをまず講師が言うわけですよね。でうわーっと思って、もうむずむずーっとするんですけど、もう生徒が、ウワーッU先生だ、とかいって、みんな来て、なんでいなかったの、待ってた待ってたみたいになって、で保護者からも電話が来て、U先生がいなくてうちの子悲しんでましたよ、みたいなのがぶわーってきて、これは、求められてるなあ、っていうふうに実感して。

でもそこでもう決意して、ここで一番のパフォーマンス出してやろうって思って、で現状僕今一番上のクラスの担当をしてて、って感じですね。これが、けっこう、よかったですね、要は僕がその、何が一番ショックだったかって、その障害の診断を受けて、要は、社会に、適合できないってことは、社会に必要とされてないっていう実感が一番ショックだったんですよ。

でもその、復帰したときに、必要とされてるっていう実感が、ほんとにこう直で来るわけですよね。これ、これこそまさに、大切なエッセンスだったと思いますね。こういうのが、ほかの人にもっといろんな機会がね、あればいいんだろうけど、たまたま僕はそれがあったんで。いま全然、もう、自信がないとかないんで。

この話を就活でするとこう、リスキーで、やっぱ障害を持ってるっていうのはあんまり、そうですね。遅刻するんだろうなこいつとか、ケアレスミスするんだろうなこいつと思わせてしまったらってなるんですけど、でもそれでも、僕がいま内定持ってる会社は取ってくれたんですよ。


〇インタビュー・文章 向坂くじら

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