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大地の再生 #6総括

矢野智徳さん主催の「大地の再生」講座
今回は矢野さんの話や私が考えたことを中心に書いていく。

▼前回の記事


前回までに紹介した作業をすべて終えると、「杜の学校」にて感想や質問を共有する時間となった。
矢野さんからいろいろな話が聞けたので、その一部を紹介したい。

空気と水は連動している

矢野さんの話のひとつに、空気が動かないと水は動かない、という重要な話があった。

大地の再生では、地面に穴や溝を掘ることが基本的な施工のひとつだ。
なぜ穴や溝を掘るのかといえば、空気や水が、地表から地中へ/地中から地表へ、動きやすくするためだ。
そして土壌菌や植物が、地中の空気と水を活用して広がり、豊かな生態系へとつながる。

地表の空気=風だけではなく、地中の空気にも着目することは、矢野さん独自の視点だと思う。
地中の空気というのはイメージしにくく、私はこれまで考えたこともなかった。

矢野さんによると、地中の空気の動きは、水が動くために重要だという。
つまり、水が地中へ入っていくためは、地中の空気も同時に動かなければならない
ペットボトルに水が入るのは、中の空気が代わりに出るからである。空気がどこかへ移動しないと、水は入るスペースがない。

しかし地中の空気は、地表から水に押されても、出口がないと動けない。土が粘土質だったり、泥で詰まっていれば、密封状態に近い。
水が入ってくるのと同じ道から辛うじて出るのでは、スムーズな流れと全体の循環は生まれないだろう。

だから、空気の抜ける動線(=穴と溝)をつくってやる。そして空気が動いて初めて、水は地中へ浸透できるようになる
それも一か所ではなく、地中で動線のネットワークができるよう、張り巡らせるようにつくるのが理想である。

矢野さんは、あるとき現場で地面を見ていると、雨が地中へ染み込んでいくのと同時に、地表にはコポコポとあぶくが出てきていたという。
つまり、ある場所へ水が入るということは、その場所にあった空気が動くということ。
そのシンプルな事実に、このとき気づいたという。

空気が動かないと水は動かない。これが矢野さんの主張する「空気を通す」という視点の根幹であり、現代の工事の盲点となっていることだ。
大地の再生の技術の核、原点ともいえるような話だった。

感想

今回、実際に作業してみて思ったのは、矢野さんはあらゆる動作に対し、徹底的に、自然の動きを模倣するということ。
大地の再生では、私たち人間は風や雨、動物などの気持ちになって動く必要がある。
そうでないと、施工は不自然なかたちになり、環境に歪みを生んでしまう。

だからこの技術を磨くには、自然の観察がとても重要だと感じた。
自然の小川はどんなふうに流れるか。地面はイノシシにどのように掘られ、水にどのように削られるか。風の流れや波の動き、渦の巻き方。

ただ、究極的には、気持ちよいとか美しいといった感覚で判断するのだろう。
その感覚は、矢野さんによれば、どの人も「細胞が知っている」。
人類は何十万、何百万年もかけて自然に合わせて進化してきたのだから、当然ともいえる。

また、素人に難しく感じるのは、それぞれの場所の見立てである。
ある土地のある環境にどんな施工が必要かは、その土地の地形や環境を踏まえ、空気と水の流れをつかみ、植生や土壌などから傷みの状態を的確に把握して、判断しなければならない。

ただ、大枠では必要なことは変わらない。それは「空気と水を通す」ということ。

私のヤブ化した土地なら、まず空気が通れるような細い道を、蛇行させてつくる。
そこから、道を中心に流線型になるようにゆるやかな草刈りを行なう。
そして、ポイントとなる場所に点穴を掘り、道には空気と水の脈となる溝を掘る。
これでおそらく、大地の再生の理論上では、ヤブの勢いが収まってくるはずである。

話によると、施工は労力や時間、費用に合わせてどの程度行なうかを判断する。
人足や時間が十分にある場合は「面」で施工する。つまり土地全体にわたって、できることをフルで行なう。
余裕があまりない場合は「線」で施工する。横に延びる溝と点穴を、環のように一本つくるイメージだと想像する。
さらにリソースの少ない場合は「点」。点穴だけをつくる。
そして、作業を1人でやる場合などは、点のなかでも「重要な点」だけを掘る。

このように、人に余裕のないなか、省エネの選択肢をつくってくれている。
あまりに大変な施工は、労力と時間が取られ、疲れてしまって持続できない。だが、広い土地は一度では終わらないし、穴や溝にはメンテナンスも必要である。
また、ある部分だけを綿密に施工するよりは、全体をほどほどに施工するほうがよいようで、そのためにも作業はサクサク進めたい。

だから、溝や点穴は浅くていいし、大変なら点穴だけでもいい。後から余裕ができたらまたやればいい。
この考え方は、土地の改良は「大変なもの」だという思いから一歩動かしてくれた。根つめてやるのではなく、散歩でちょっと通りかかったときに、手持ちの道具で少し手入れしてやるくらいで、素人にはちょうどいい。
楽しんでできるということが、何よりも大切なのだから!

点穴と溝

今回の講座では点穴を掘らなかったのだが、点穴は大地の再生の基本的な施工技術である。
私は知人に教わったり、大地の再生のマニュアル本を読んだりして得た内容をもとに、自分の土地に点穴や溝、しがらみを施してみた。

家の側に、特に詰まりやすい地面があり、雨のときに見ると水が溜まっている。溜まりきれなかった水はゆるやかな坂を下って流れていく。
兼ねてからこの地面の詰まりを気にしていたので、3〜4mほど大地の再生の手法を施してみた。

雨が溜まる場所。等間隔に点穴を3つをあけ、溝でつなげてある
水溜まりからつながる下り坂。水の流れそうなラインに沿って、上からつなげて溝と穴を掘った

施工後にまだ雨が降っていないのでわからないのだが、今後はこの溝を水が流れていくはずだ。

※追記 雨の日に見てみたら、いつもはある水たまりがすっかりなくなっていた。さらに空気と水の循環がうまくいけば、この周りの植物は生き生きしてくるらしい。※

施工には移植ごてを使い、溝は約5cm、点穴は20〜30cmほど掘った。どちらも底を丸くせず、底が尖った形になるように掘る
(本には点穴は30〜40cmとあるため、もっと深いほうがよいかもしれない)

穴と溝には、まず炭を撒く(土の団粒化を促し、微生物のすみかとなる)。
そのあと太い枝を入れ、それにしがらませるように、細い枝(葉がついていてよい)を入れる
これで完成である。

枝や葉は、できるだけ空気や水が渦流をつくるように、円の形を意識してしがらませる。
また、空気と水がほどよく通るよう、入れすぎず、入れなさすぎず、適度な密度にする。
枝葉は穴が土で埋まらないよう、土留めの役割も果たす。

穴を掘るのは思ったより楽しい。子どものころの砂遊びを思い出す。
雨の日に、水がどんどん流れてくるのを見ながらやるとなお楽しい。
思うに、現代の人類にはこういう素朴な作業が足りていない

「杜の学校」の敷地まわりも、あらゆる場所に点穴と溝が張り巡らされていた。

「杜の学校」近くの溝

「大地の再生」の手法は、下記の本に詳しく記されている。ここまでの記事もこの本の内容を参照した。

▼ 「大地の再生」実践マニュアル:空気と水の浸透循環を回復する

長いこと書いてきた講座レポートもこれで以上となる。
書いているそばから忘れてきているのがわかったので、早めに記しておいてよかったと思う。

本記事は、これからどこかの土地をよくしたい方、環境を傷めず暮らしたい方、人類と地球環境を救いたい方に参考にされたい。

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