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大地の再生 #1理念

4月2日、3日と、矢野智徳さん主催の「大地の再生」講座に参加してきた。

造園技師である矢野さんは、現代の一般的な土木技術とは異なる手法で、環境を傷めずに造園を行ない、また傷んでしまった環境を正常な状態に回復させる施工を研究しながら活動してきた。
現在では全国各地を飛び回って、その技術を広めながら環境の再生活動を行なっている。

昨年は、矢野さんを追うドキュメンタリー映画「杜人」や、書籍『「大地の再生」実践マニュアル』などが発表されて、知名度は急上昇しているようである。

これまでの講座では多くて20人程度だったとのことだが、メディアの影響もあって、今回は両日とも50名ほどの参加となった。

私は今後、広い山林を管理することになるのだが、その多くの面積が笹薮がはびこる荒れた状態で、放棄された人工林や、皆伐直後の土地もある。
この土地をどうにかよくする方法を探して、大地の再生を学びに来た。
また、講座では自然農も行なっており、これも大いに参考になるはずだ。

今回は「大地の再生」活動の拠点である、山梨県・上野原市の「杜の学校」にて、講座が開催された。
この近辺で、①河原の草刈り、②コメの種まき、③コンクリート水路の整備、④タカキビの種まき、の作業を行なった。

このように書くと、なんでもない作業のようだが、この中に大地の再生の思想と技術の核がギュッと詰まっている。
行なった作業の内容や考えたことを忘れないうちに記録しておきたい。

基本理念

まず、「大地の再生」の技術の理念の根幹は、「空気と水の循環」である。
ごく簡単に(私の理解を)いえば、地表⇄地中で空気と水を循環させることで、植物たちは元気を取り戻し、土地の生態系は回復してゆく

地表が詰まってその循環がなくなると、地中には有害なガスが溜まるうえ、水は浸透せずに地表を流れてしまい、植物は弱っていく。生命力の強い笹などの植物だけがはびこってヤブ化し、土地は荒廃してゆく。

だから、そのような土地には空気と水の循環を取り戻す作業を施す。たったそれだけで、健康な土地に戻っていくという。

そして、今回参加して、その作業にも決定的なコツがあるように思った。それはとことん「自然を模倣する」ということである。
人が人に都合のよいやり方で整備するのではなく、自然の動き・はたらきを見倣って、それを真似るようにカマやクワをふるう。

例えば、風や雨、またモグラやイノシシが環境にはたらきかける動作を人間が真似てやる。それは自然にある動きの一部であるから、それをきっかけとして、自然が本来もつ作用のサイクルへとつなげることができるのだと思う。
人間が健康な土地へ導くきっかけをつくり、方向づけてやれば、そのあとは自然が勝手にやってくれるのだ。

矢野さんによると、人間が環境に与えたひとつの小さな変化が、土の中の菌を変え、草を変え、さらにそのことが動物を変え、木を変え、引いては生態系を変えるという。
結果は何倍にもなって返ってくるという話が印象的だった。

これは負の作用も然りである。
現代の工事技術では、コンクリートなどで空気と水の流れを遮断することで、植物を枯れさせ、山を荒廃させ、引いては土砂崩れを起こす可能性がある。

例えば道路、ベタ基礎、U字溝、コンクリート擁壁などの施工は土地を傷めるし、河の護岸や、山の中に送電塔やダムなどを建てることは大きな負の作用をもつだろう。
昨今では、ソーラーパネルや風車の乱立による環境への負担は計り知れない。

矢野さんは地球環境の問題について、CO2ばかりを指標にして観るだけではなく、世界各地で失われている大地の循環機能を回復することが必要だとお話ししていた。
そのためには、一般的な工事にも「空気を通す」という視点を取り込むことが不可欠となる。

コンクリートなどを用いた工事は、環境の観点からは減るに越したことはないのだが、もちろん必要な場合がある。
だから完全に止めなくてもよい。同じ機能を維持しつつ、「空気を通す」という視点をもって工夫した施工をすれば、環境負荷はある程度下がる。たとえコンクリートを用いていてもだ。

ただ、大地の再生の取り組みは感覚的な作業が多く、簡単には内容を数値化できないという。そして今の社会では、数値化ができないと公での実用に至れないと矢野さんは話す。
だから、制度化できなくてもその実を生むために、草の根的に活動を広げているという。
全国各地で一人ひとりが大地の再生を行なえば、その結果は、うまくいけば何倍にもなって返ってくるのだから、絶大な効果をもつかもしれない。

また、数値化できずとも、行政に採用されうるようにするため、現在、「大地の再生」技術の特許を申請中だという。

トップダウン的に大地の再生の手法が広がれば話が早いのだが、いまのところは私も草の根運動に加わって、まずは自分の土地から改善していきたい。

次回からは、実際に行なった作業の内容について、ひとつずつ詳細に記していく。

▼次回、風の草刈り

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