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団地、我が愛

あと一週間ほどで自分の人生の半分を過ごした実家が、実家ごとお引越しすることが未だに信じられない。

今の団地には中学に入学する前の春休みに越してきた。前に住んでたマンションよりも一部屋少ないし、周りは草木が生い茂ってて虫も多いし、知ってる友達がいない中学に通うということで、あまり引越しに対して気が進まなかったのを覚えている。

たくさんの段ボール箱を積んだ引越屋のトラックのあとをつけるように、母の運転する車に揺られながら、小学校の友達からもらったお別れの手紙を読んだのも、もう13年前か…と思うと、団地で過ごした日々はあっという間だった。

今こうして、住んでる団地から離れるということに直面したとき、ものすごく寂しい気持ちになっているということで、それほどこの団地が好きだったんだなということを実感した。

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引越しが決まってから、私は団地のどこが好きだったんだろうと考えてみた。おそらく、団地全体のミステリアスな雰囲気が好きだったんだと思う。同じ敷地に同じ形をした建物が何個も並んでいる様子は他にはあまりないと思う。クローンがたくさん並んでいるあの感じ。でも住む人がちがうことで、様子は全く変わってくるし、一見クローンにみえるけれどもクローンじゃないところが良かった。私はご近所さんのことも全然知らない。誰がどこに何人で住んでるのかがわからない。それもミステリアスのひとつなのかなとも思う。

団地といえば庶民的で平凡な建築物というイメージが一般的であり、私もそう思っていたが、父の持ってた「童夢」を読んでそのイメージが少し変わった。団地といういろんな人がたくさん住んでいる、謎に包まれた世界ではなにが起こるかわからないという部分がかっこよかったのだ。「庶民的で平凡な」とは全く違う世界観だなぁという印象を受けて、自分がそれと似た空間で暮らしているのだと少し誇らしく思えた。

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最近、日が暮れた帰り道を家に向かって歩いていると、「今歩いているこの道はいつか懐かしくなるだろう」と思えてくる。いくつものクローンがだんだんと近づいてくる。団地より前に住んでいたマンションのことを、今思い出しても、「あー、あんなとこに住んでいたな」としか思わなくなった。数年後の自分が今のことを思い返したとき、同じように、「あーあの団地に住んでいたな」としか思わなくなっているだろうなと思うと、少し悲しいな。

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