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PERFECT DAYS 私もヒラヤマだった。

ヴィム.ベンダースといえば「ベルリン・天使の詩」(1987年)だろう。
その映画には当時『刑事コロンボ』で人気絶頂だったピーター・フォークが出演しており、20代だった私は期待をこめて映画館へ観に行った。ところが、退屈で難解で、居眠りしそうで、何が言いたいのか正直よくわからんかった。アート系作家ってこんなんなんや、と全然内容が頭に入ってないのに「ベルリン、観てきたよ。まぁまぁやったワ」と粋がって大人ぶっていたものだ。ちょうど日本がバブルに沸き、東西ドイツはまだ壁で隔たれていた時代の話。


それから36年、あのヴィムダース監督が役所広司を配役に日本で撮影した、と聞き、どうせアート系だろう、冷めていたところ、なんと東京の公共トイレが登場するという。ソレは絶対観なくては! 
バチバチッと、心の中の火花が散った。

なぜか。

私も清掃員をしていたから。

(※以下、ネタバレを含む為、未見の方はご注意ください)


寡黙な男 ヒラヤマ


ヒラヤマはミニマリストだ。

彼が暮らすアパートには必要なものだけ。
草木を愛おしみ、生活用品は布団と着替え少々、文庫本のつまった本棚,洗顔道具と食器少し、テレビやビデオはなく、家電らしきものはラジカセだけだ。
その数少ない持ちものが、彼の人となりを表している。例を上げると、


文庫本
テレビのない部屋はどこまでも静寂。毎夜の習慣として、眠りにつく前に読書を欠かさない。古本屋で特価本コーナーから丹念に本を選ぶヒラヤマ。さりげなく教養のある男性とわかる。

カセットテープの音楽
この音楽が、ど・ハマりだった。
劇中“10段階で言うと10♡”のアヤが、こっそり盗むカセットはパティ・スミス!! 
「あ、コレ、家にあった」私は小さくつぶやいた。
・ザ・アニマルズ「朝日のあたる家」,
・オーティス・レディング「ドッグ・オブ・ザ・ベイ」,
・ニーナ・シモンズ「フィーリング・グッド」,
今ふうに言うとファッションに尖った、昔ふうに言うと不良の姉... のLPレコード盤が家あったのだ。尖った姉と背伸びの妹の10代、ほぼほぼ同時代の音楽が懐かしく、憂いながら震えた。

銭湯とフィルムカメラ
休憩時間に木立を見上げ、インスタントカメラで木漏れ日を撮影するヒラヤマ。
銭湯に通って汗を流し、風呂上がりには焼酎とアテ。
アナログな暮らし、身の丈にあった質素な暮らし、に親近感を持ってしまった。

同じことの繰り返しが続く毎日。しかし、二度と同じ”木漏れ日“がないように、今日一日も二度と来ない。
関わりあうひととの交わりや、断ち切ってきた血縁とのしがらみが、ヒラヤマの日常に小さなさざなみを起こす。
それでも、変わらず丁寧につつましく生きる。

その一方、ヒラヤマ心象風景として、ざわつく思い出、揺れる気持ち、ほろ苦い過去...らしきものがモノクロイメージではさまれる。ここの映像が美しくて泣ける。

いろいろあって今がある。
これは誰の人生にも言えること。ヒラヤマは私であり、あなたでもあるのだ。

ポスターもwebもセンス◎

ヴェンダース監督が敬愛する小津監督

10月、小津安二郎監督の「父ありき」レロトスペクティフ/復刻上映を観た。
上映に際し、東京国際映画祭2023年の審査委員長ヴィム・ベンダース監督による、小津監督作への想いが流された。


(聞き書きメモのため、だいたい意訳)

小津は60-70年代,欧州において無名でした。誰も彼のフィルムを見たことがなかったのです。
ただ大きな世界大戦が終わり、誰もがアメリカ的な作品を、インターナショナルで派手なな映画を、つくろうとしていた時代に、小津は変わらず日本らしい様式美を描き続けました。それこそが、まさに、彼のフィルムをインターナショナルにしたのです。小津作品にはぶれない日本の美しさがずっと生き続けています

実は、私は食えない時代に、ダブルワークとして清掃員」を働いていた。だから、映画内での化学ぞうきんや裏をチェックする鏡の使い方、モップの扱い方など見事に再現されており感心した。ホンマ役所さん演じるヒラヤマは 完璧/PERFECTであった。
いつか渋谷の東京トイレプロジェクトを訪れてみたい。

大阪にも観光トイレあり

PERFECT DAYS
2023年 日本
監督:ヴィム・ヴェンダーズ
脚本: 高崎拓馬
出演:役所広司、柄本時生、田中氵+民、石川さゆり ほか

#PERFECTDAYS
#ヴィムヴェンダース

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