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あの川のほとりで

映画「ガープの世界」原作者としか知らずに、ジョン・アービングを初めて読んだ。北アメリカらカナダまで、追われる親子の逃亡の先々の物語。

 父親のコックはシングルファーザーで息子を育て、コックの母親は未婚で子を産み、未婚の母となるはずだったコックの妻はコミュニティから追い出された先で彼と出会い、一人息子を産む。その息子は長じてまたシングルファーザーとなる。コックの父と作家の息子と、その愛息の男三人で暮らす時代も含め、常にカップルの片割れが欠けている――だが、親子の絆は決してほどけることなく守られている家族である。

  最初から最後まで登場する樵のケッチャム。父子に逃亡をすすめ、名前を変え職場を変え、彼らが引っ越しをするたび第二の父のように寄り添うのだが、章を追うごとに、結末はどこへ向かっていくのか、不吉な影がつきまとうのを止めることができない。そうなってほしくない。ケッチャムは別にしても、それでも読まずにいられない。

 イタリア人村のカトリック思想や、ベトナム戦争の惨禍にからめた隣のアジア人とアジア料理、カナダ極寒の島での冬、911事件など、時代や地域の風習を織り込みながら、彼らの物語にどんどん惹かれていくのだった。
コロナ時代のいま、最終頁のしめくくりが心に刻まれた、余韻のように。

あまりにもたくさんの大切なものを失ったが、ダニーは物語というものがどれほどすばらしいか知っていた――とにかく押しとどめることができないものであることを。自分の人生の大冒険がまさに始まろうとしているのを彼は感じていた....(後略)    Jhon Irving 新潮社:小竹由美子訳


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