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『枯れ葉』と、にわかフィンランド通

仕事はじめの週末、映画『枯れ葉』を観た。エピローグに流れるシャンソン『枯葉』(たぶん)フィンランド語の響きが心地よく、映画館を出てからもずっと脳内リフレインしていた私。

その夜、仕事場に偶然に北欧っぽいカップルが来店したため、思いきって“フィンランド人?”と聞いてみると

“そう!どうしてわかったの!” と大喜び
“今日、フィンランド映画を観てきてん”

ほぅら と『枯れ葉』のポスター見せると、とりとめもない会話が始まった。

“実家へ電話したら 昨夜36度だって”
”え?“
”マイナスよ、もちろん“

”えぇぇぇ!!“ (カミサマー!)

と会話がはずんで、ムーミンとサウナの国について、めっちゃ好奇心が深まった。
できれば彼らと知り合った後に、アキ監督の映画観たかったな、と思ったものの、それじゃフィンランド語かどうかも分からんかっただろうし、本末転倒だ。

※ネタバレを含みますので、映画未見の方は注意してください。


お帰りなさい アキ監督

welcome back

突然の引退宣言に『ル・アーヴルの靴磨き』『希望のかなた』など移民を描いた後年作品が好きな私は
まさか。もうあの作風を観られないの。と、さみしかった。

6年ぶり新作はいつもの俳優さんは登場しないが、いつものレトロ・ポップな美術と映像美。いつもの喜怒哀楽わかりにくい、表情のうすーい人たち。そして、脇でいい味だしてる犬クン。
観始めは古い時代の映画?と思ったものの、背景に流れるウクライナ侵攻の痛々しいニュースが。日常のうしろに静かに戦争の足音を感じさせられ、これはアキ監督らしい反戦の表現と思った。

へんちくりんなステージの歌
え?その映画? 映画館でデートやのに
怒ってるの?泣いてるの?

口角あがってないけれど笑ってる。涙でてないけれど悲しんでいる。つつましやかに暮らす市井の登場人物たちの日常に、可笑しみやユーモアが散りばめられ、やはりアキ・カウリスマキ監督が帰ってきたんだ、と嬉しかった。

最後にヒロインが控えめに微笑むところ、あぁ良かった、希望の光が差した。

ル・アーヴルの靴磨き(2011年)

希望のかなた (2018年)


フィンランド人の感想は..

実は、正直に言うと
冒頭のフィンランド・カップルに『枯れ葉』のポスター見せたとき

“わぁ! ウチらも去年みたよ!すごく感動したわ。とくにあそこの場面はねぇ...” と熱いアキ映画談義の応酬かと思いきや、全然そうではなかった。

“あっそぅ” とただ一言、うすーい反応だったのだ。

若者には人気ない映画監督なのか?彼ら自身が自国映画を見ない派なのか?日本でも洋画しか見ないひと多いし、そうなのかもね。

ともかく、『枯れ葉』をきっかけにフィンランド通もどきになれた夜。
若者カップルによると、ムーミンはスウェーデン系フィンランド人が著者だから好きじゃない人もいる、とのこと。フィンランドへ行ったことないが、映画をきっかけにひととき仲良く会話できてよかった。

映画愛がつまったポスター


枯れ葉  2023年
監督・脚本・編集・プロデューサー:Aki Kaurismaki

随所に小津安二郎監督への敬愛も感じられた。2023年小津監督のリマスター「父ありき」を観た後で、PERFECT DAYS , Fallen Leaves 続けて鑑賞。演技をしない演技、ささやかな日常の中に幸せはある、といった、私なりの小津(系)三部作は完結した。

『枯れ葉』のタイトルについて、主人公アンサを演じた、アルマ・ポウスティさんの来日インタビューを読み、そういう意味が込められていたのか、と納得した。
気になる方は、こちら https://kareha-movie.com/interview.html

#枯れ葉
#フィンランド


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