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手紙15:一條宣好さま「南方さんをそばに感じる日々」中村翔子より(2021年1月3日)

一條宣好さま





あけましておめでとうございます。

昨年はとってもお世話になりました。

2021年もどうぞよろしくお願いいたします。

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昨年2020年は一條さんとの文通がはじまり、常に「南方熊楠」がそばにいてくれた、
そんな1年だったなあと感じています。一條さんからお返事をいただくたびに、一條さんの思慮深さと、
熊楠への愛のデカさ、そしてこの世界への温かい眼差しに、わたしの心はいつもポカポカです。





こんな思いを巡らせながら、お返事が大変に遅くなってしまったことが申しわけなく………。
しかし、年が明けて、こうして筆をとり、一條さんにお手紙を書いている時間に幸せを感じます。




すっかり問いの答えが季節外れになってしまったのですが、「雨」に関する本ですね。
久保田万太郎「雨が降る日は悪いお天気」は知りませんでした。中沢新一さんにとっても子ども時代の印象的な一冊とのこと、興味が増します!
「中沢さんの学問の特色は、たましいが子供の頃から着実に形成されていった結果なんだなあ」という一條さんの感想には合点がいきます。
わたしもこの歳になり、子ども時代の何気ない1冊の出会いや体験、出会いが、いつの間にやら自分の骨や血肉になって、いまのわたしがここにあるんだなあと感じることが増えてきたように感じています。

わたしが「雨」で思い浮かぶ本も子どもの頃に出会った一冊です。正確には「雨」の本ではないかもですが……
矢玉四郎『はれときどきぶた』(岩崎書店)をまっさきに想起しました。主人公の十円やすが書く、破天荒な未来日記の内容と、それがどんどん実現していく様子に、ワクワクしたし、わたしもこんな世界を妄想することが好きでした。そう、エンピツを本当に天ぷらにしようかしら、なんて思ってもいました(笑)。空から降ってきたのは、雨じゃなくてぶただけど、こんなに想像力をかきたててくれた『はれときどきぶた』は、わたしの頭をやわらか〜〜〜〜くしてくれてた大切な1冊です。矢玉さんが、「ばかなことを考えるのは、あんがいむつかしいことなんだ」とおっしゃっているようですが、まさに、楽しくバカなことを考えられる人でいたいなあと思う今日この頃です。

十円やすの未来日記の話から、一條さんに教えていただいた南方さんの日記のお話へ。
灯火管制のもとで、それを守りながら、菌類図譜を制作する熊楠の懸命な姿、それをそっと見守る文枝さんの姿を想像すると、目頭が熱くなります。
一條さんがおっしゃるように戦争は、命、そして各々にとって命と同じくらい大切な野心や、夢、希望をも奪い去ってしまうのですね。戦争だけではないかもしれません。いまの世界の状況を考えても………。わたし一人に何ができるのか、なんて考え出したら、自分の無力さに落胆してしまいそうですが、熊楠が灯火管制のもと、暗がりの中であっても、自分の研究への野心を灯火に頑張っていたように、自分のやるべきこと、やりたいことに真剣に向き合わなくてはと思いました。








一條さんに前回お手紙をいただいてから、今日に至るまで、何回か「南方さん」を感じる機会がありました。


一つは、現在、東京都庭園美術館で開催されている「生命の庭―8人の現代作家が見つけた小宇宙」展です。わたしは、学生時代からのご縁があり、
本展に参加されれている山口啓介さんの「カセットプラント」の制作アシスタントを務めさせていただきました。山口さんは、わたしがアーティストやアートに関わる人たちを支える仕事に就きたいと、いまのわたしになるまでの道をそっと敷いてくださった方です。山口さんのおかげで支える立場がいかに大切かということを学ぶことができました。そんな恩人のアシスタントはとても光栄でしたし、大好きな美術館にこもって作品を作っていた数ヶ月間は至極幸せでした。



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山口さんは3.11の3日後から「震災後ノート」を毎日つけられています。震災を扱った新聞記事などの書き写しが主で、現在はコロナ関係の話題も抜書されていますが、それにとどまらず、さまざまなアイデアやスケッチも書き留められています。ノートの隅から隅までびっしりと、本当にびーーーーーっしり文字が並び、ところどころに添えられるドローイングの「美しさ」も相まって、その圧倒的な情報量と緻密さにどきっとさせられます。このノートをはじめて拝見したとき、南方さんだ!!!と感じたのです。ニュースを「抜書」すること、ノートを余すところなく、余白なく使うところ、そしてそれをやってのける集中力と体力と精神力が、山口さんと南方さんに呼応しているなと。山口さんに「震災後ノート」を書き続けること、抜書をするという行為、そこから生まれるアイディアやふと生まれる形や色についてお伺いすると、南方さんの抜書や日記、手紙を書いていた時の心情に近づくことができるような気持ちがしたとともに、抜書をすること、手書きをすることの意味や可能性についても考えることができるような、そんな気がしました。



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↑公式図録『生命の庭ー8人の現代作家が見つけた小宇宙』(青幻舍)




もう一つは、岡山の倉敷美観地区にある本屋さん「蟲文庫」さんの店主・田中美穂さんのご著書『わたしの小さな古本屋』(筑摩書房)です。
先日、尾道と倉敷を旅しました。それぞれ展覧会と本屋さんへ行くことが目的だったのですが、倉敷では「蟲文庫」さんにお邪魔しました。
入ってすぐにわたしのハートをグイグイ掴んでくるお店。いつまでもいたくなるような居心地の良さよ……。そこで、岡山文庫をはじめ、数冊の本を購入したのですが、そのうちの1冊が『わたしの小さな古本屋』でした。早速、帰路の新幹線の中で読んだのですが、おもしろすぎてペロリと読了。
その中で、「南方熊楠」がちらりと登場するのです。

蟲文庫さんで錚々たる面々の上映会やトークイベントが開催される中、店主の田中さんが「自分の店のことながら『はー、すごいなぁ』とちょっと信じられないような気持ち」がした時に、南方さんの「縁と縁の錯雑するところに事象が生じる」という言葉を思い出したとおっしゃいます。

この気持ちはわたし自身も日々感じるとともに、自分の仕事が巡り巡って、いろいろな人のご縁になるといいなという想いが自分の仕事の土台にあるものですから、この田中さんの気持ちと南方さんの言葉に触れたことで、自分の土台を改めてしっかりと踏みしめようと背筋が伸びた次第です。



兎にも角にも蟲文庫さんに伺うことができたこと、田中さんとお話しできたこと、本書を蟲文庫さんで購入できたこと、そしてこの本の中で、南方さんの言葉に出会えたこと、全てに縁を感じて、嬉しくなりました。




どちらもささやかなエピソードかもしれませんが、一條さんに伝えなくちゃ!とあたためていました。
好きだって思っているとつながっていくんだよなあとしみじみです。


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そうそう、
毎年、お正月には『十二支考』を読むぞ!と思うのに、今年もまだ手付かずです(泣)
そういえば、「牛」は『十二支考』には掲載されていない?!


2021年はもっと南方さんに寄り添って、わたしも勉強を進めたい!!と思う所存です。
入門的な勉強会とか、できたらいいなあ。








20201年も一條さんにとって健やかで素敵な1年になりますように、心から祈念いたします。
どうぞ本年もよろしくお願いいたします。










2021年1月3日
中村翔子



【往復書簡メンバープロフィール】
一條宣好(いちじょう・のぶよし)
敷島書房店主、郷土史研究家。
1972年山梨生まれ。小書店を営む両親のもとで手伝いをしながら成長。幼少時に体験した民話絵本の読み聞かせで昔話に興味を持ち、学生時代は民俗学を専攻。卒業後は都内での書店勤務を経て、2008年故郷へ戻り店を受け継ぐ。山梨郷土研究会、南方熊楠研究会などに所属。書店経営のかたわら郷土史や南方熊楠に関する研究、執筆を行っている。読んで書いて考えて、明日へ向かって生きていきたいと願う。ボブ・ディランを愛聴。

https://twitter.com/jack1972frost


中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家・文筆
1987年新潟生まれ。本とアートを軸にトークイベントやワークショップを企画。青山ブックセンター・青山ブックスクールでのイベント企画担当、銀座 蔦屋書店 アートコンシェルジュを経て、2019年春にフリーランス「本屋しゃん」宣言。同時に下北沢のBOOK SHOP TRAVELLERを間借りし、「本屋しゃんの本屋さん」の運営をはじめる。千葉市美術館のミュージアムショップ BATICAの選書、棚作り担当。本好きとアート好きの架け橋になりたい。バナナ好き。本屋しゃんの似顔絵とロゴはアーティスト牛木匡憲さんに描いていただきました。
https://honyashan.com/


【2人をつないだ本】
『街灯りとしての本屋―11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』
著:田中佳祐
構成:竹田信哉
出版社:雷鳥社
www.raichosha.co.jp


【関連情報】
生命の庭 −8人の現代作家が見つけた小宇宙

2020/10/17(土)– 2021/1/12(火)
※2020年12月28日〜20201年1月4日は年末年始のお休み
処:東京都庭園美術館

https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/201017-210112_GardenOfLife.html



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