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悠長にちょっと将来の夢の話

 近所の古本屋が閉店した。先々月の末のことだった。そこは、前職を辞めてやったときに無理を言ってアルバイトに雇ってもらった古本屋だった。

 閉店は年始少しくらいに教えてもらっていた。正職に就いた後も折々遊びに行き、たまに店の手伝いをしていたのだ。した、というよりさせてもらっていた。このお店のために何かできるということが単純に喜びだった。仕事の内容も箱を作り、本を詰め、運ぶ、そんな淡々と行われる作業は性に合っていると思った。

 この店がなくなるとは思ってもいなかった。

 高校のとき、初めて入った古本屋だった。
 大学の頃、帰省のたびに中を覗いていった。
 就職後、度々お世話になった。

 自分が、最も理想的な自分でいられる場所だと思っていた。本に、人の手を経て選ばれた本たちに囲まれて、その中からこれという一冊に手を伸ばす瞬間が、たまらなく、理想的だった。そのときだけ、うだつの上がらない会社員からも、デリカシーのない暗澹たる人間性からも、茫漠とした不安の先立つ将来からも解放されていた。

 その古本屋が閉店した。
 あ、そういえば、店って閉店することもあるよね。でも、まさかあのお店が閉じるなんて思わなかった。ぽっかり、物足りなくなった。

 古よりの創作オタクの名言に「自分が求めるものは自分で作るしかない」旨の言葉がある……あるよね? でも本当にそう思った。他力本願もいいけれど、自分の本当に大切な領域を構成するもの、わたしにとってはあのお店という空間だったし、それがずっとあってほしいなら自分で作る必要があるのかもしれない。最近、ずっとそう考えている。

 でも、作るってお店を開くってこと? 古本屋? どうやって?

 本屋に勤めた経験、あります。荷物運びと清掃をしていました!
 どうするんよ。こんなの。
 そもそも小売り経験がない。レジも打ったことない。

 古本の仕入れってどうすればいいの? 値付けは? どんな本を並べるの? どれだけの売り上げがあれば生活できるんだろう。そもそも店舗はどうする? 敷金礼金、内装工費、月々の家賃、集客、接客、経理事務……ん? こんないい加減な性格でする気か? 正気か?

 不安しかない。まずは無店舗型でもいいのかも……と考えたり。でも無店舗型のほうが難しい気がする。イメージつかない。

 不安。

 でも、今の生活に不安がないわけじゃない。むしろ、漠然と不安がある。今のまま会社が存続するのか、ずっと同じ仕事を続けて行けるのか。今は仕事がプライベートを貪りつくしている。プライベート、ほしいよね。というか、本を読む時間。本を考える時間。本を楽しむ時間。ほしいよね。

 社会人6.……7年目? や、会社に雇われているほうが安全だなあと実感します。事業主、不安だね。怖いね。それでは天秤に乗せましょう。今のままの不安、開業してみようかという不安……うん、どちらも同じくらい。

 今はまだ、本屋さんの開店記、営業記を読んでいるところ。無理そう、出来なさそう、というところから、これならできるかな……というところまで。ちらほら。

 古本屋業を基盤にできれば別のスペースも考えたいし、夢はある。夢。描くだけならただです故。なんか町中の休憩スペースだったり、同好の志が集まったり、小さなギャラリーを開いたり、演劇なんかしてもいいよね。中高生向けの棚も、大学生や一般向けの棚も両方やりたい。一応歴史都市だから地域に合った棚も、自分の趣味で作る棚も作りたい。同人誌(広義)なんかも置きたい。絵本、これも実は興味があって。ウェブストアに力を入れたいけどディスプレイやデザインはからっきしだからお店を巡って勉強してこないといけない。どこかに理論書はないかしらん。

 ま、夢ですよね。先立つものはそんなにないし。夢、夢ですよ。