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TRICK OR TREAT 〜ハロウィンにまつわるエトセトラ②〜

2002年11月1日の日記。
米国ヴァージニア州の片隅にある日系企業の現地法人で、日本人駐在員である「ぼす」の元、秘書兼通訳兼「やっかいごと よろず引き受け業」的な何でも屋さんとしてお仕事をしていた頃のお話。
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今日は番外編である。

肝心のハロウィンが終ってしまったというのに、まだこの話題から離れられないでいるワタシをどうかお許し頂きたい。
今日はどうしても、あのお馴染みのかぼちゃ提灯ことJACK-O-LANTERN (ジャックオランタン)の由来についてお話したく思う。

先週末のパーティにもハロウィンのカボチャに扮している知人がおり、

Please call me JACK.
"ジャックって呼んでね"

などと可愛らしいことを言っていたが、何故ジャックなのだろう???

トムでもジョージでも良い気がするが、やはりそこにはちゃんと理由があった。

ハロウィンにカボチャが使われ始めたのは18世紀半ば頃。だが、実際カボチャで提灯を作って中にロウソクの火を灯すという習慣はアイルランドの古い伝説に由来しており、その起源は、何と2000年近く前までさかのぼるらしい。

かつてそこには STINGY JACK(けちんぼジャック)と呼ばれる1人の鍛冶屋が住んでいたそうだ。ジャックは酒好きでいつも呑んだくれていたうえ、あだ名の通りケチで人を騙してばかりいた。ある年の10月31日、ジャックがいつものように地元の酒場で呑んでいると、悪魔がやってきてこう言った。

 It is time for you to leave this life.
 (あんたの魂をもらいにやってきたよ)

まだまだこの世におさらばする気なんてこれっぽっちもなかったジャックは、いつもの悪知恵を働かせてこう答えた。

 Let me have one more drink.
 (その前にもう一杯だけ飲ませてくれないか)

気のいい(?)悪魔はOKしたが、ここでジャックは手持ちがちっとも残ってないというフリをする。そして最後の酒のためだと悪魔に頼み込んで呑み代の6ペンスに化けさせることに成功すると、その金で酒を買う代わりにすぐさま自分の財布に入れてしまった。ジャックの財布には十字架がついていたので悪魔は出ることができない。まんまと罠にはまってしまったという訳だ。出してくれと懇願する悪魔に対して向こう10年間は魂を取りに来ないという条件で、ジャックは悪魔を解放してやった。

そして10年後の10月31日。夜道を歩いていたジャックは同じ悪魔に遭遇する。当然ながらまだまだこの世におさらばする気なんてこれっぽっちもないジャックである。今度は路傍に生えていた林檎の木を指差しこう言った。

 Let me have an apple for my last supper.
 (最期にリンゴを1つだけ食べさせてくれないか)

10年前と変わらず、相変わらず気のいい悪魔である。ジャックの為にリンゴを取ろうと木に登っているうちに、すかさず木の幹に十字架を彫られてしまい、またしてもまんまと罠にはまってしまったという訳だ。お願いだから降ろしてくれと懇願する悪魔に対して、今後は一切魂を取りに来ないという条件で、ジャックは悪魔を解放してやった。

しかし運命とは皮肉なもので、その数ヶ月後にジャックは死んでしまい天国に辿り着く。ところが生前の悪行の数々の為に天国には入れてもらえず、今度は地獄に辿り着く。するとそこにはあの悪魔がおり、ジャックにこう言った。

 I can't let you in because I promised not to take your soul. Remember?
 (入れてやる訳にはいかないよ。だってお前の魂取らないって約束したもの。)

こうしてジャックはどこの世界にも入れてもらえず、間をつなぐ暗くて延々と続く道を永遠に行ったり来たりする羽目になってしまった。しかし気のいい悪魔はジャックを哀れに思ったのだろうか。地獄で真っ赤に燃えていた炭の一塊を投げてよこしたので、ジャックは手持ちの TURNIP (カブ)に入れて提灯を作り、足元を照らすのに使ったという。以来ジャックは生前の行いの罰として、カブの提灯を持ってこの世とあの世をさまよい続けているそうだ。

こうしてジャックと彼の提灯は JACK OF THE LANTERN として、呪われた魂や死者のシンボルとして知られるようになり、やがて短縮されてJACK-O-LANTERN と呼ばれるようになった。アイルランドではカブやジャガイモをくり抜いて提灯を作っていたが、アイルランド人がアメリカに渡ってきた時にカボチャが使われるようになった。当時カブはアメリカでは珍しく、代わりにカボチャは豊富に収穫されていたから、というのがその理由らしい。

ハロウィンが近づくと大小様々なカボチャが店頭に並び、CURVING KNIFE という JACK-O-LANTERN を彫る為の専用キットまで売りに出される。

いつもプラスチック製の「なんちゃってジャック」でお茶を濁して来たが来年こそは本物を作ってみようかな、などと思う今日この頃。

11月に入ったというのにハロウィン熱が冷めるのはまだまだ当分先のようである。

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