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霊視者の夢「憑依」2

2.

あれから8年が経った。その間、東子は、いたるところで幽霊らしき姿を目撃した。そしてそれは他人には見えないのだと言うことも知った。自分にははっきりと幽霊らしき姿が見える能力があることを確信していた。

あのとき猪苗代城跡で亀姫と名乗った女性が「お前には霊が見えるようじゃの」と言ったことは本当だったのだ。東子に霊が見えても特に害はない。ホラー映画のように死因によっては大変な姿で現れるようなイメージだが、実際は違う。霊は素のままの姿で現れる。だから特に怖くはないが、悪人の霊であれば、多少は恐怖感がある。目つきが違うからだ。普通の人間とは違う。それでも相手は霊であるから何もできないから安心だ。

呪われたり、祟られたりするのは、霊を見た当人の意識次第だ。しょっちゅう霊の姿を見たとしたら、自分は呪われた、祟られたと思うのは当然だが、彼らは姿を見せるだけで何もできないのだということに気づけば何と言うことはないのだ。東子は天真爛漫な性格だ。特に霊を見たからといって自分が呪われたり、祟られたりしているという意識がない。

その日、東子は会津の鶴ヶ城の月見櫓跡の前に立っていた。霊に呼び出されたのだ。

高校からの帰り道で、突然スマホが鳴った。番号表示がないので相手は霊だと思った。「ふう…またか」と、ため息をつきながら出てみると、男の声で「明日、暮れ六つに鶴ヶ城の月見櫓にいらしてください」と言うのだ。それだけ呟くように言うと切れた…。男は言葉遣いから江戸時代の幽霊に間違いない。

「暮れ六つって何だよ?」東子がスマホで調べると、暮れ六つとは午後6時のことだった。あたりが暗くなってきた逢魔ヶ刻という奴だ。

「久しぶりじゃのう…」背後から女の声がした。振り返ってみると小学生の時に見た亀姫と名乗った女だった。あの時と同じ着物を着て笑っている。亀姫の後ろにはふたりの男が立っていた。

…スマホの男はどっちだろう?心の中で呟くと亀姫がまた笑った。

「お前に電話したのは、この朱の盆じゃ」亀姫の右に立つ真っ赤なスーツを着た中年男が頭を下げながら「私は朱の盆と申します」と言った。キザな口ひげを生やしている。大柄で俳優の阿部寛に似ている。

「妖怪じゃ」亀姫が言った。

「妖怪って?オバケですか…?」

「そうじゃ…ふふふ」

「オバケとは、ひどいなぁ」朱の盆が自分の口ひげを撫でながら苦笑した。

「そして、こちらは…」亀姫の左に立つ男が前に出た。黒い軍服を着た上にマントを羽織っている。

「有名な新撰組の土方歳三殿じゃ」

…ああ、聞いたことがある。会津で官軍と戦った人か…。何だかイヤな予感がするなぁ。



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