山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に１度木曜日に更新します。

　丼ものをスプーンで食べるスタイルはいつ頃から流行ったんだっけ。

　なか卯のカウンターで、そんなことを考えた。トロトロの親子丼ならまだしも牛丼は箸だろうよ、なんて考えていたら、横にいたネクタイ姿の男性がつゆ多めの牛丼をスマホを見ながらスプーンですくって食べていた。なるほど。つゆだく。スマホを見ながらスプーンで牛丼、この姿はヒトの退化なのか進化なのか。所作の美しさ的には退化、ライフハック的には進化ということにしておこ。
　なか卯の赤いスプーン、すくう部分が細長く小さめつるりで口当たりがよく、塗りものの和食器のようないでだちのグッドデザイン。新店オープンの粗品に配られたり新年福袋に入っていたりするらしく、メルカリにたくさん出品されていた。へえ、環境にも優しい素材だって。
　
　カウンター席に座り、スプーン１本でけっこうな時間つぶし。普段は家族に配膳してばかりなので、どうでもいいことを考えながら食事が来るのを待つこんな時間は楽しい。

　ところで、とふと考える。
　先ほど私が頼んだメニューはカレー。なか卯に来たらうどんか牛丼だろと思いつつ、券売機でカレーの写真を見たら無性にカレーが食べたくなった。
　和風カレー、カツカレー、ぼっかけカレー。ぼっかけ？チーズに卵にあいがけカレー。カレールウがあるだけで、うどん屋のメニューがこんなにも増えるのだからカレーは素晴らしい。ううむカツカレー、揚げたて熱々のカツに、カレーとごはん。考えただけで美味しい。知ってるし！  しかしここ数年、美味しそうイコール食べられるではなくなってきている胃の機嫌を考え、カツカレーに伸びかけた指を無難に和風カレーのパネルの上に置いた。
　　
　ところで、とカウンターにて再び。
　カレーもこの塗りものみたいな赤いスプーンで食べるんだろうかと、少しいぶかしく。まあでも、そういうお値段の気軽な店だしと思ったところでお待たせしましたと配膳されたトレイに目を見張る。
　カレーライスの横には、銀色の大きめスプーンが紙ナフキンの上に添えられていた。
　なか卯、わかってるぅと、私は心の中で膝をたたきいただきますと手を合わせる。大ぶりな銀のスプーンで、カツオだしのきいたカレーをもりもりと美味しく頬張った。