エッセー「80年代 大井町 カフェバー"リンガリンゴ"の想い出」

 時は1980年代。イタリアントマト(通称イタトマ)に端を発するカフェバーブームは、我が故郷、京浜東北線・大井町にも押し寄せていた。

 東急大井町線の改札口がある西口を出て左に進む事約100m、古い飲食店が立ち並ぶ商店街の中に、その小洒落た店はあった。

 その名は「リンガリンゴ」。"イタトマシンドローム " というかイタトマイズムというか、店内は当時の典型的なカフェバー。ブルーカラーの町として日本の経済成長を支えた京浜工業地帯の域内にあって、青山、表参道の気分が味わえる貴重な店だった。

 当時、お気に入りだったのがアールグレイに乳脂肪の高い「タカナシ」の濃厚生クリームをたっぷり注いだアイスミルクティ。今で言う「濃厚茶葉2倍」の元祖である。

 そして、忘れてならないのがパスタ。絶妙なアルデンテに茹であげられたブイトーニの細麺に、ポモドーリ(完熟トマト)ソースとエビを中心とした魚介を絡めた逸品「ロッソ・エビ」。

 なぜ後半が日本語なのか理解に苦しむが、その味は絶品だった。

 締めはイタリアンローストのコーヒーを楽しみながアメリカンサイズ(何故イタリアンなのにケーキだけがアメリカンなのかは現在でも謎)のバナナシフォンクリームケーキを食せば完璧。

 そのリンガリンゴも今はない。

すべてが輝いていた80年代の古き良き思い出である。

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