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ジンジャーハイボールと彼 15 〜疑惑の2人〜


 
 Instagramは友人と遊びに行ったときの様子や外食時の料理を載せることが多かった。 
 最近では、購入した観葉植物や部屋のインテリアを載せることもあった。

 もう一つ、友人とは一切つながっていない裏アカウントがあり。そこには大好きなハン・ヘギョの画像やドラマの神回のシーンを載せていた。

 いつの日か、コメントが想像以上に届くようになった。
“このシーン大好き💛”
“いつも良い画像ありがとうございます!!”
“I love her 💛”

 こんな私の自己満足に人が反応してくれてる。会ったことも、どこの誰かもわからない人たちから。
 まったくわからない他言語のコメントには翻訳をして思いを共有し、同じものを好む仲間と繋がることが出来る喜びを味わっていた。

 いつものジンジャーハイボールを飲んでゆっくりしている休日には、自分から発信するだけではなくハン・ヘギョの公式Instagramを見たり、他のファンが載せている最新の画像・動画も見ていた。
 
 そうだ、今日の映画を見た報告画像も載せておこう。

 映画は、控えめに言って最高だった。
ドラマ時代からアクションシーンは迫力があって良かったけど。映画ではさらにパワーアップしていて、噂の兄が生きているか否かも中盤でやっと明らかになった。

 最後の最後にはどんでん返しの意外すぎるラストが待っていたので驚きと共にスカッとすることが出来て、エンドロールを見ている間は本当にすがすがしかった。
 
 映画を見たあと、私たちは興奮しすぎて気持ちがおさまらず、すぐ下の階にある飲食店でお茶をすることにした。
 
「本当に最高でしたね。私、ドラマの最後はモヤモヤして仕方なかったので。映画は期待を越えてくれました」

「本当だね。やっと報われた!って感じがしたよ。ラストシーンは気持ちよかったぁ」

「何よりソン・パクハがかっこよくて。しかも映画ではヒロインがハン・ヘギョだったから言うことなしですよ」
「ハン・ヘギョは美しかった。演技も相変わらず上手い!」
 
 映画や推しの良さについて語り合った、新しいドラマ情報や過去に観て良かった内容の共有をした。
 ドラマのサントラ曲ではどれが好きかなど、マニアックなところまで意気投合していた。
 

 気づいたら、お互いにInstagramの推しばかり載せている裏アカウントもフォローすることに。というか、実は日下部さんは私のこのアカウントをフォローしてくれていることに話の流れで判明し、私もフォローすることにした。もうこれは二人の間では裏ではないことになる。
 
「なんか変なの」
家に一人となると、こんな独り言が増える。
 

 最後には、話が尽きずお茶だけではなく早めの夕飯も食べることになった。
「いや、こんな事ならもっと早くに知り合いたかったですね。スマホケース、実は二つあるんです。一つあげますよ」
「ええ!嘘、嬉しい」
 
 
 よし、今回はこの画像を載せよう。
チケットと映画のパンフレットに日下部さんのポップコーンを一緒に撮った画像を載せた。
 数分すると、すぐに日下部さんがいいねをしてくれていた。
 
 

 
 
「伊藤先生、お昼は自宅に帰りますか?これからお蕎麦屋に宅配注文するんですが、一緒に頼みます?」
 学年主任の高橋教諭は伊藤の席近くにいる他の教員らにも確認していた。
「いやぁ。悩んでたんですよね、最近はお蕎麦多かったからなぁ。でもあそこの美味しいですよね、迷うな・・・。あれ?日下部先生!」

 職員室入り口から入って来たばかりの日下部を見つけて声をかけた。
「おう、伊藤」
「あ、すいません。お蕎麦はやめておきます」
「そうですか、わかりました」

 伊藤は日下部を職員室から廊下へ引っ張り出し、小声で問い詰めた。
「どうしたんですか。今日は例の木曜ですよね。長瀬さんとデート、午後からですか?」

「ああ、よく有給とってたの覚えてたな。お前に会いに来たんだよ」
 日下部は大きな声でそう言った。
「ちょっ」

 バサバサ、遅れて出勤してきた女性教諭が持っていた資料や教材を驚いて落とした様子だった。

「や、やっぱり」
 国語科臨時教員の田所礼香先生だった。
「二人はやっぱりそういう関係なんですね」
彼女は何か勘違いしているようである。
「いやっ、日下部先生はそうだとしても、自分は彼女がいるので!」

 田所は憤慨した顔をし、伊藤に顔を近づけて小声で言った。
「伊藤先生、どちらか一方にしぼるべきです。二股は良くないですよ」
 そう言って職員室へ入って行った。

「え・・・、何これ」
 伊藤は日下部を見て、どうするんですかと言わんばかりにお手上げというジャスチャーをした。

  日下部は、気まずそうな顔で小さく笑った。
 
 
 
 

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