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文化的表現と人権の基本原則【国連決議 A/RES/76/162】

 国連高等人権弁務官事務所が4月15日締切で「人権と文化的多様性に関する決議 A/RES/76/162 の実施」に関する意見募集を行っています。

 性的表現のあるマンガ・アニメ・ゲームに対する規制が強まる中で、極めて重要な意味を持つ国連パブリックコメント(call for input)であるにもかかわらず、今日までほとんど誰にも知られておらず、先日自分が発見して急遽Tweetした次第です。

 今回の国連高等人権弁務官事務所(以下、国連人権事務所)による意見募集は、国連決議 A/RES/76/162 第24条の「国際連合事務総長に対し、世界のすべての人民及び国家間の文化的多様性の認識及び重要性に関する国内、地域及び国際レベルで行われた努力を含め、加盟国、関連国際連合機関及び非政府組織の意見を考慮した決議A/RES/76/162の実施に関する報告書をその78会期に総会に提出することを要求する。」という規定に関連して行われているものですが、その重要性は必ずしも界隈に周知できているわけではありません

そこで、本稿では、そもそも「決議A/RES/76/162」とは何なのか、表現の自由界隈にとってなぜ重要なのかといった点に絞って解説と考えられる投稿意見の例を、備忘録的な意味も込めて投稿します。

決議A/RES/76/162 とは

 決議A/RES/76/162 とは国際連合の総会で決議された「人権と文化的表現に関する基本原則」で、その中には表現の自由界隈にとって武器になり得る指針も数多く含まれています。

 特に重要だと感じた原則を以下に記します。
(極めて重要な部分は太字

7.国際社会は、すべての文化的多様性に対する尊敬を確保する方法で、グローバル化によって引き起こされる課題と機会に対処するよう努めるべきであると確認する。
8.文化的多様性の促進及び保護に導かれた文化間交流の拡大を通じて、グローバル化の文脈における文化の均質化を防止し、緩和する決意を表明する。
9.異文化間対話が人権に対する共通の理解を本質的に豊かにし、文化分野での国際連絡と協力の奨励と発展から得られる利益が重要であることを確認する。
11.平等な尊厳を基盤とした宗教、文化、文明間の対話を強化するべきであり、対立の縮小、排他主義の抑制、多様性への尊敬の促進に向けた国際レベルでの取り組みを支持することで、また、単一文化主義や特定の社会・文化システムの押し付けに対して国家が反対し、文明間の対話、平和文化、寛容、異教間の対話を促進することが、平和、安全、発展に貢献することを強調する
13.文化の多様性と万人の文化的権利の尊重は、文化的多元主義を高め、文化的背景に関するより広い知識の交換と理解に寄与し、世界中で普遍的に受け入れられている人権の適用と享受を促進し、世界中の人々や国家の間の安定した友好関係を育むことを認識する。
15.また、寛容と多様性への尊敬は、すべての人によるすべての人権の享受を含む、性別平等を含む人権の普遍的な促進と保護を容易にし、寛容と文化的多様性への尊敬と人権の普遍的な促進と保護が相互に支援し合っていることを強調する。
17.国家、関連する国際機関、非政府組織に対して、人権に関する異文化間のイニシアチブを支援し、取り組むよう求めることで、すべての人権を促進し、その普遍性を豊かにする。
18.国家に対して、政治的・法的システムが社会内の多文化的多様性を反映し、必要に応じて民主的制度を改善し、より完全な参加型となり、特定の社会部門に対する疎外や排除、差別を避けるよう求める。
19.国家、国際機関、国連機関に対して、市民社会を含む非政府組織に招待し、平和、発展、普遍的に受け入れられた人権の目的を達成するために、文化多様性への尊重を認識し、促進するよう求める
20.メディアおよび新しい情報・通信技術を自由に利用する必要性を強調し、文化や文明間の対話を再び活性化する条件を創出する
21.人権の促進と保護のための活動の過程で、現行決議で提起された問題を国連人権高等弁務官事務所が引き続き十分に考慮する。

United Nations A/RES/76/162 General Assembly Distr.: General 7 January 2022 Seventy-sixth session Agenda item 74 (b) Promotion and protection of human rights: human rights questions, including alternative approaches for improving the effective enjoyment of human rights and fundamental freedoms Resolution adopted by the General Assembly on 16 December 2021 をDeepl及びChatGPTを用いて翻訳し著者が適宜意訳
※適宜中略・太字は筆者編集

 なぜこれまでこの決議が見つかっていなかったのか不思議で仕方がない…といっても過言ではないほど「革命的な基本原則」です。今後行われる政府・地方自治体のパブリックコメントに対する意見の参考文献になり得ます。
 国連総会決議は拘束力の観点で言うと日本の附帯決議程度の効力しかありませんが、その権威とソフトローとしての効力は絶大です。

 これは、今話題の条例による有害図書指定でのグローバルECサイトからの排除問題や、新サイバー犯罪条約、過去に韓国政府が検討したメタバース空間での性的行為禁止法案問題などについて、国際連合に提起する機会です。国際連合の call for input がどの程度の意味を持つのかは必ずしも明らかではないですが、「国連人権事務所に公式ルートで問題提起/提言を行った」という事実は今後の活動にとって大きな力になるはずです。

 締め切りまで残り2日となりましたが、500ワード程度でも出す価値は十分あります。必要に応じてAI翻訳を活用すればそこまで難易度は高くありませんので、意見書を出してみてはいかがでしょうか。

参考文献:
United Nations A/RES/76/162 General Assembly Distr.: General 7 January 2022 Seventy-sixth session Agenda item 74 (b) Promotion and protection of human rights: human rights questions, including alternative approaches for improving the effective enjoyment of human rights and fundamental freedoms Resolution adopted by the General Assembly on 16 December 2021

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