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おしまいの星

登場するもの: 男  女
 
永い眠りから覚めた星。
ブルドーザーが、土の中から、埋まった町を掘り起こしている。
大勢の作業員や調査員があちこちで仕事をしている。
携帯電話の音。ブルドーザーの音。クレーンの音。機械音。
 
男 そっちどう?はかどってる?
女 うん・・・・・
男 空気は薄くない。風も吹いている・・。
女 ・・・・
男 地面もすっかり溶けてるよ。地面も空気も適温だ。 
女 ・・・・・
男 水もたっぷりある。
女 ・・・・
男 すっかり生き返ったね。
女 ・・・・・。
男 ずいぶん永い間眠ってたんだな。
女 ・・そうみたいね。
男 暮らしやすい星だったんだろうな。
女 ・・・・・
男 何?どうしたの?
女 うん・・・。
男 変な顔して。
女 変なのよ。
男 え?そんなダイレクトに・・・・・。
女 ・・・なんだか、変なのよ。
男 ・・・・・・は?
女 ・・どうして・・・
男 何が変なの?
女 この星。
男 この星は変だよ。変だから調べてるんだろ。これから何が出てくるか・・
女 だから・・・
男 もっと具体的にどうぞ。はい。
女 ・・・・・・。たとえば、
男 たとえば?
女 ・・・・向こうの山の西半分。途中まで植林した跡がある・・・。
男 何の木?
女 知らないわよ。そうじゃなくて・・・。
男 生物学にも興味あったの?
女 うーん。そうじゃなくて・・・。あ。そうだ。これ。これ見て。先月ここで・・
 
ポケットから一冊のノートを取り出す。
 
男 何?日記?「3月8日金曜日。晴れ。晴天だ。きのうはほんとうにラッキーだった。あれはきっと運命の出会いだ。遅刻したからこそだ。入学式に遅刻なんてしくじったと思ったけど、寝坊してほんとうによかった。寝坊したのはそもそも・・・・」
女 その説明に2ぺーじあるけど先に進んで。
男 え?そう?ほんとだ。(ページをめくる)
  「・・・なのに大変なミスをしてしまった。あの子の電話番号をどこに書いたんだっけ・・・。どうしても思い出せない。ああ。どうしよう。あの子はぼくの番号をしらない・・
家もクラスもわからない。今日は朝から憂鬱だ。こんなに天気がいいのに。昨日はあんなおおあめだったのに・・」ありゃ。終わってるよ。ここで。    (ページをめくる。最後まで真っ白。)

女 ね。
男 何?
女 ちゃんと終わってないでしょ。文が。
男 文の下手な奴ってどこの星にもいるんだよ。はじめたことが途中で嫌になる奴も。
女 そうじゃなくて。・・・そもそもいったいどうしてそんなこと書くのよ。
男 何書いたっていいじゃない。日記なんだから。
女 だって・・・・・・・。おしまいの日に?
男 あ・・・。そうか。(日付を確認する)だから続きがないのか。
女 この星の寿命はずっと前からわかってたんでしょう。
おしまいの日を迎えたひとたちはみんな、生まれたときから何もかも分かってたんでしょう?
男 ひいおじいちゃんの代からね。
女 だったら・・どうして?どうしてこの星のどこを探しても「おしまい」の跡がどこにもみつからないの?
男 この星は確かに終わったよ。10000年前の3月8日に。
女 ・・・・
男 そのあとここは氷の下に埋まってしまった。
女 だったらどうして?
  みんな、中途半端なの。何にもちゃんと終わってない。
  地面の下から出てくるものがみんな「なにかの途中。」
  この先まだ続きがあるとしか思えない。
  どうして・・。
男 何かの途中・・。
女 どうして電話番号を聞くのよ?卒業式ならともかくどうして入学式なのよ?
男 (ぱらぱらと日記をめくる)
女 しかもそれ、10年日記。
男 どこの星にもおんなじこと考える奴がいるんだな。
女 ・・どうして木を植えるのよ?
 
男 ・・・・・おしまいの日には、じゃあ、どうすればいいの。
女 ・・・・・
男 大掃除して、酒飲んでそば食って鐘聞くのか?
女 ・・・・・。
 
しばらく。女は何か考えている。
 
男 君だったら何をした?
女 私?私は・・・
 
男 ・・・・何をどうやっても、絶対に避けられないことも3代前から分かってたら。
女 ・・・・。
 
しばらく・・・・
 
女 ・・・戻ってくるつもりだったのかしら。
男 どこから?
女 どこって・・
男 あああああーっ!
女 え?何?
男 ここだよ。
女 え?
男 この日記のほら、裏表紙。
女 ・・・・
男 こいつ馬鹿だなあ。ここに書いたんだよ。
女 ・・・・
男 電話・・・・したのかなあ。結局。
女 ・・・・電話・・・・。
 
携帯電話の音。ブルドーザーの音。クレーンの音。機械音。
発掘調査は続いている。
地面の下からは次々と、おしまいになった過去が掘り起こされていく。
中途半端に終わっている過去の数々。
ずうっと昔。宇宙の隅っこでひっそりとおしまいになった星で。

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