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ラッキーセブン

人物
小林隆文(27) 会社員
竜崎聡介(24) コンビニアルバイト
横川拓海(26) コンビニアルバイト

〇コンビニ前(深夜)
   暗闇の中、歩く小林隆文(27)の足元。スーツ姿。
   くたびれたカバンと靴。
   劇団員募集と書かれたチラシがコンビニのガラス壁に貼られている。
   その前で立ち止まる小林。ガラスに映った小林のくたびれた顔。
   小林、コンビニの中に入っていく。
   竜崎聡介(24)のやる気ない声が聞こえる。
竜崎の声「らっしゃいやせー」
   コンビニの扉が閉まる。

〇コンビニ・レジ前(深夜)
   缶ビール、タン塩、から揚げをレジに通す竜崎の手元。
   対面で暗い表情で俯いている小林。無言。
竜崎の声「あ」
   小林、竜崎の声に反応し、少し顔を上げる。
   竜崎、レジを見て、
竜崎「ラッキーセブン」
   レジの画面。合計金額777円の表示。
   小林、レジの画面を見て、
小林「ああ、」
   小林、すぐに目をそらし、財布を広げる。
   竜崎、小林を見つめる。
小林「(小さな声で)何がラッキーなんだか」
   小林、1000円札を取り出し、手渡そうとする。
   竜崎、受け取らない。
   小林、怪訝そうに顔を上げる。
竜崎「卑屈ですね」
小林「はぁ?」
竜崎「小さな奇跡でさえ喜べないなんて」
   竜崎、小林の手から1000円札を取る。
   小林、鼻で笑う。
小林「奇跡って……大げさな」
   竜崎、レジからお釣りを取り出しつつ、
竜崎「そんな陰鬱としてたら、人も、幸せも……夢も、何も寄って
 こないですよ」
   小林、少し語気を荒げ、
小林「何であんたにそんなこと言われなきゃいけないんだ」
竜崎「そう思っただけですよ」
   竜崎、冷めた目で小林を見ている。
小林「……それがこの時間まで働いていた人に言う言葉か」
竜崎「一応、僕も今働いているんですけどね」
小林「朝からじゃないでしょう」
竜崎「ええ。夕方からです。」
小林「こっちは朝5時から今まで働いてんだ」
竜崎「そうですか」
小林「そうですかってお前さぁ……」
竜崎「何でそんなに仕事してるんですか」
小林「……人手不足で会社回らないし、金、稼がないと飯食えないし」
   竜崎、小さくため息をつき、
竜崎「自分の価値を買いかぶり過ぎですよ」
   竜崎、お釣りを差し出す。
小林「……あんた、学生?」
   竜崎、淡々と、
竜崎「もう卒業してます」
小林「ってことは、フリーターだろ? 最低でも就活失敗したやつよりかは
 俺の方が価値あるだろ」
   竜崎、無言で小林を見つめる。
   小林、乱暴にお釣りを取る。
竜崎「……ありがとうございましたー」
   竜崎、お辞儀をする。
   小林、踵を返し、コンビニを出ていく。

〇コンビニ・外(深夜)
   コンビニを出てきた小林。不機嫌な表情でつぶやく。
小林「なんなんだ、あいつ……」
   コンビニを去る小林。

〇空(早朝)
   雀の鳴き声。青空。

〇コンビニ・レジ前(早朝)
   あくびをする竜崎。
   バックヤードから横川拓海(26)が入ってくる。
横川「おはよー」
   竜崎、横川を見て、
竜崎「はざっす」
横川「お疲れさまー、交代だよ」
竜崎「へーい」
   竜崎、バックヤードに向かおうとする。
   ×××
   コンビニの外を走る小林の姿。
   ×××
   横川、他人事のような声で、
横川「はぁー、会社員なのにこんな朝早くから仕事なの? 大変だねぇ」
   コンビニの外を見る竜崎。
竜崎「ラッキーセブン」
   横川、竜崎を見て、
横川「なぁに、それ」
竜崎「いや、さっきのガチ走り、ラッキーセブンなんですよ」
   横川、不思議そうに、
横川「ん? どーゆーこと?」
   竜崎、答えずレジの中から店に出て、数点商品を取り、レジ前に立ち
   横川に渡す。
横川「はーい」
   レジの合計金額。777円。

〇コンビニ・レジ前(深夜)
   缶ビール、弁当、サラミを持った小林、嫌そうな表情。
小林「ゲッ」
   無表情でレジに立つ竜崎の姿。
竜崎「なんですか……さっきの人ならもう帰ったすよ」
   小林、嫌そうに商品を竜崎に渡す。
   竜崎、レジ業務を始める。
小林「君、昨日学校行ってないって言ってたよね?」
   竜崎、無表情で、
竜崎「はい」
小林「何してるの?」
竜崎「音楽してます」
小林「CDとか出してるの? 見たことないけど」
竜崎「出してねーっすよ。デビューできてないんで」
   小林、鼻で笑い、
小林「何、夢追いかけてるってわけ? 馬鹿じゃねぇの、現実見なよ。
 夢見続けても、食ってけないよ?」
   竜崎、少し強い口調で
竜崎「じゃあ、あなたは夢が無いんですか」
小林「はぁ?」
   竜崎、小林をまっすぐ見て、
竜崎「もしくは夢、諦めたんでか? ……役者、とか」
   小林、目を見開き、
小林「何で、役者……」
竜崎「昨日、外のチラシ見てたでしょ」

〇コンビニ前(深夜)
   コンビニのガラス壁。劇団員募集のチラシ。

〇コンビニ・レジ前(深夜)
   レジ作業を淡々とする竜崎と、竜崎を睨む小林。
竜崎「897円です」
   小林、動かない。
   竜崎、小林を見て、小さくため息をつき、
竜崎「……俺は、俺じゃなきゃいけないものになりたいんです。
 替えの利くような使い捨ての部品になるんじゃなく」
   小林、絞るような声で
小林「お前に何が分かる」
竜崎「俺は、俺であることが価値となることがしたいんで」
   小林、俯き、大きく息を吐いて、顔を上げ、
小林「俺、価値、無い?」
竜崎「少なくとも、今は無いでしょ。でも、まー、俺も(強調)今は、
 無いですけど」
   小林、少し笑い、
小林「なるほど。……ありがとう。俺、もっかい本気で挑戦してみるわ。
 ……俺も、俺だけの価値が欲しくなった」
   竜崎、少し眉を上げ、
竜崎「そうですか、では……」
   竜崎、おもむろにサラミを手に取り、
竜崎「これは俺からの出世払いということで。後で払っときます」
   竜崎、サラミの取り消し処理をする。
   レジの画面。合計金額が777円に変わる。

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