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日本における出版物流通について

 昨今全国的に書店が消えていことが話題に上がることが多くなっている。なぜ書店は消えていくのだろうか? 本屋を仕事ととして1972年から2024年の今までの営業活動などから現場で感じたことなどを交えて、本屋が消えていくことについてのひとつの要素となっている出版物流通について考えてみたい。開業した1970年代に、日本全国には約3万軒の本屋があったが、いまは三分の一以下ではないだろうか。本屋のない自治体が急速に増えているというニュースもよく見る。

 もともと本屋のというものを商売と言うのはおこがましい、儲からない仕事であることは開業前後にみた数冊の開業マニュアル的な書物の中に繰り返し書かれていた。「地域の文化に貢献するような志を持っていなければ本屋はやっていけない」という文言はまさにその通りであったとかんじている。通常の小売業者の平均的な粗利率の半分程度の2割前後の粗利では儲けるというほどのことはそう簡単な話ではない。制度的な救いであるのはほとんどの出版物が委託制であることと原則的に定価販売が義務付けされていることにより、送られてきたものを店に並べ、残ったものを期限内に返品すれば、まず倒産するというようなことはないということぐらいであろうか。しかし運転資金を考えると時代とともに厳しい実情に、開業頃からしばらくまだ景気の良いころには今のような100%支払ではなく出版取次の取引部では「売れた分ぐらいは入金してくださいね」くらいのことだった。

 雑誌は今後ますます発行部数が減少するだろいうといわれているが、開業したころはいまの倍くらい10億冊ほどあったと聞いている。一方書籍については開業当初から思うように入らないという事情は今もそう大差ないくらいですが、それは無理もないことです。出版社で初版で発行される書籍の印刷部数は3千から多くても1万冊にはならないので、これはぜひうちで売りたいと思っても田舎の小さな本屋では初版の入荷はほぼあり得ない。販売のピークを過ぎたら入るようではなかなか顧客の期待に応えることもできない。せめて注文品だけでもなんとかならないかなとあの手この手で調達を試みた。時には他店仕入れと言って大きな本屋へ買いに行ったり、アマゾンで調達したこともたびたび。この注文品も昨今ネットで注文すれば翌日には届けてもらえる時代になって、街の本屋はもうあてにはされなくなっている。

 なぜあてにされないか、開業したころにさほど問題ではなかった物流が今では頭の痛いことになっている。開業当時お客様からのご注文があれば短冊といわれる複写式の注文書というものに書名・出版社名・著者名・価格などできるだけ詳細に書き込み、毎日のように出版取次会社へ送るのが仕事であった。今ではパソコンに向かってISBNコードを利用して物を特定したうえでネット発注ができるので発注情報が即時に送信で伝えることができるだけでなく、あわせて在庫状況まで知ることができるようになった。50年間という本屋における時代の進歩は世の中の実情に比べてスローなテンポとはいえ業界内の志ある方々の努力がつながりで望んでいた情報化がここまで進んできたことには感謝しかない。

 しかし、問題はここから先にある。出版社や倉庫にある書籍の出荷のためのピッキングなどの効率化は進んできているが、物が物流業者に渡されるのは即日とは限らない。「取次渡し日」といわれる出荷日は即日などまれで、一週間のうちの何曜日とかにまとめて出版取次に引き渡されるというながれがいまだに主流で、ほとんどなのだ。さらに出版取次が引き取った図書を個別の書店にストレートに送り出されるということはまずない、地域ごとの流通センターに送られて書店別の棚に分けられる。そこから書店別に出荷されることになる。最近の輸送事情として貨物の運賃が従量制に変わったため少ない荷物でも出荷されるようになってきたが、以前は個数による運賃計算が主流であったため荷物がまとまらないと送ってもらえなかったこともあり、うまくいっても1週間から10日かかっていたし、1ヶ月くらいかかることもよくあった。品切れ通知という紙が封筒に入って送り返されてくるのにも相当日数を要した。

 こうした問題を解決するために少し余分な費用がいるが個別宅配便のように即日出荷してもらえる仕組みもできている。これも問題ありで、急ぐときに多少の余分の費用がかかってもよいという場合はよいとしても、倉庫が別になっているために一般流通用に在庫がなく、余分な費用のかかる特別品のほうにしか在庫がないというケースは利幅の少ない書店側にとっては腹立たしいことになる。

 根本的な問題としてもともとの出版流通が「混載便」といわれるより安価にするための運搬方法のままでここ50年ほどの間も改善が置き去りにされている点にある。日本で日通が小口貨物運送業を始めたのは1972年、ヤマト運輸が小口運送というサービスをはじめたのが1976年で東京大阪では翌日配達、さらに全国翌日配達完成させ「クロネコ便」としたのが1978年、1998年には佐川急便もこの分野に参入している。全国的に翌日配達が可能になってから40年余りが過ぎたが出版物の輸送はどうなのだろう。お客様は40年余り翌日配達される社会を普通として生活されている。私たち本屋は何と言ってお客様にお答えすればよいのだろうか。

 私は奈良県書店商業組合という組織の理事の一員でありますが、この問題は私たち本屋の上部機関である日本書店商業組合連合会が長年言い続けてきたはずです。しかしながら、いろいろな働きかけはできるとしても直接的になんとかできる力はあるとは思えない。AIに「具体的に出版物流通問題の改善を推し進めていける機関はあるか?」と問いかけたところ一般社団法人日本書籍出版協会と一般社団法人日本出版者協議会の二者をあげて、次のように答えた「一般社団法人 日本書籍出版協会は、2023年度の事業計画で出版物の物流問題の改善策に関する調査・研究を行うと明記しています。また、一般社団法人 日本出版者協議会は、その前身である「出版流通対策協議会」が1979年に設立され、以来、出版物の公平・公正な流通を確保することを目的として活動してきました」

 おりしも「経済産業省は大臣直属の「書店振興プロジェクトチーム」を本年3月5日設置し、初の本格的支援に乗り出す」 、というニュースが流れている。このさいに国の力を借りてでも構造的な問題を抱えている出版物流通の抜本的な改善を業界あげて取り組んでいきたいものだと思う。

202240306       奈良県大和郡山市 庫書房 店長 庫本善夫

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